牧田明宏さんが作・演出される明日図鑑。こちらの記事や観た人の噂を聞いて「きっと私の好みじゃないだろう」と思い、今までご縁がなかったのですが、山口奈緒子さんが気になっていたので伺いました(山口さんの出演作のレビュー→1、2)。
うーん・・・噂どおりと申しましょうか(笑)。でもいつもの作風とは少し違うそうです。劇団員と客演さんが3人ずつで合計6人の出演者なんですね。役者さんの面だけでいうと少しプロデュース公演に近いのかしら。
チラシや公式サイトにも載っているあらすじは、ストーリーがかなり詳しく書かれています。これからご覧になる方は読まない方が面白いんじゃないかな~と、私は思います。何も知らずに観ていると、色々裏切られて楽しかったので。
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。改行を変更。
川沿いのマンションに暮らす中学校の英語教師、辻さゆり(中込佐知子)は部屋のベランダから眺めるその川の景色が好きだった。街の灯りが川面に映り、ゆらゆらと揺れる川の景色が好きだった。
ある日、彼女は近所のスーパーで女性(大久保佳代子)が万引きするのを目撃した。缶入りのミートソースだった。一瞬、目が合ったが気付いていないふりをした。その日から彼女の生活は少しすつ変化していく。ヒモのような男(谷川昭一朗)と暮らす元教え子(山口奈緒子)との再会。同僚教師(牧田明宏)のストーカーまがいな誘い。狭い路地を猛スピードで走る車との接触事故。そして、2ヵ月後に結婚を控えた彼氏(野中隆光)の裏切り。やがて、それらがしだいにつながり、彼女は自分に迫るある人間の悪意に気付き始める。そして彼女は・・・。
- 明日図鑑がおくる愛と復讐の物語。
≪ここまで≫
今どきのきれいなワンルーム・マンションの一室。主人公のさゆりの家です。フローリングの床に茶色い木製のクローゼット風押入れ。ベランダもちゃんとあって、玄関は廊下の先にあります。勉強机、テーブル、ソファ、そして本棚の雑誌や小物など、一人暮らしの女性が住んでいるのにふさわしいリアルなセットでした。
しっかり作られたセットで自然な会話劇をするとなると、役者さんの演技の質はもちろん、効果音や小道具などの細かい演出もすごく気になります。その段階で色々ひっかかってしまいました。また、設定や会話の進み方にも疑問が沸いてしまい、残念ながら「リアリティ」の面では楽しめませんでしたね。でもリアリティがないことを敢えて楽しむような、奇抜な演出もありだと思います。今作についてはそういう意図ではなかったようです。
初日だというのもあるかもしれませんが、演技が全体的におぼつかなかったです。登場人物のほぼ全員がイカれてる(大人気ない・社会性がない・常識がない・コミュニケーション下手・等)というお芝居はよくあるのですが、そういう作品世界が成立するか否かは役者さんの演技にかかっているんですよね。特にこの作品はダイアローグ(対話)のシーンが多く、難しいことにチャレンジされていると思いました。
暗転中にかかる音楽が個性的だなと思いました。クラシック音楽をポップ(ロック?)調にアレンジした、ちょっとうるさい目の曲をかなりの大音量で流します。個人的には「ハバネラ」がかかった時はヤでしたね。私のお気に入りの曲なのに、ものすごくいや~なシーンでかかるんだもの(苦笑)。元からそういう意図なのでしょうね、私がそれにすっかりハマったということです。
ここからネタバレします。
さゆりと結婚するはずだった啓介(野中隆光)と、さゆりの元生徒でキャバクラ嬢の恵美(山口奈緒子)は、実は既にキャバクラで知り合っている仲でした。さゆりが居ない内に2人で一緒に暮らす相談をし、そして軽いキスまで交わしてしまいます。そのシーンがすごく良かったです。
恵美はさゆりを恨んでわざとそのフィアンセに近づいたのか、偶然に出会っただけのかはわからないままですが、疲れて気弱になっている男に優しく接する水商売の若い女という構図を、リアルに感じられる演技で見せてくださいました。フィアンセの知らないところで浮気をしてる、しかもフィアンセの元教え子ですごく若い女の子と・・・っていうだけでかなり罪悪感があって萌えますよね(笑)。
さゆりを怪我させ、さゆりの同僚教師(牧田明宏)を轢き殺してしまった、細い通路を猛スピードで走りこんでくる白いワゴンの正体は不明のままでした。また、さゆりと啓介とのベランダでのセックスを盗撮して、そのビデオを同僚教師に渡したのが誰なのかもわかっていません。ここが謎のままなのは余韻があっていいなと思いました。
セリフでは、夫の浮気相手に恐喝行為をする万引き女(大久保佳代子)の「メンゴ、メンゴ」が最高でしたね(セリフは正確ではありません)。
細かいつっこみになってしまうのですが、ここからは私が気になったところを書いておきます。
最初のシーンで酔っ払った田宮(谷川昭一朗)が、間違ってさゆり(中込佐知子)の部屋に入ってくるのですが、さゆりもフィアンセの啓介(野中隆光)もそんな危険な見知らぬ侵入者を全然追い出そうとしないのがヘンでした。啓介が「警察に電話しろ!」とさゆりに言うのですが、今さっき啓介が使ったばかりの携帯を使えばいいのにと思いました。
スーツのデザインや着方から、さゆりも啓介も新入社員のカップルだとばかり思っていたんです。だけどさゆりは10年以上教師をやってるってことで、30歳を超えてますよね。
終盤でさゆりが思い余って田宮(谷川昭一朗)を包丁で切りつけてしまいます。私には左手の腕が傷ついたように見えたのですが、血が流れ始めたのは右手でした。
最後の最後にさゆり(中込佐知子)がなぜ、元教え子の恵美(山口奈緒子)に恨まれていたのかがわかります。さゆりが当時中学生だった恵美に、「あなた、カンニングしたでしょう?それから、あなたのお父さんは単身赴任じゃなくて、蒸発したんでしょう?なぜ先生に本当のことを言ってくれないの?~云々(セリフは正確ではありません)」と言ったことになっていました。信憑性に欠けました。
舞台下手がお風呂や玄関に続く廊下であるという設定なのですが、その廊下が舞台奥へと伸びているのか、客席側に伸びているのかが曖昧でした。役者さんが登場する時の体の方向や、部屋から廊下の方を見る演技が定まっていないせいだと思います。
出演=中込佐知子/大久保佳代子/山口奈緒子/牧田明宏/野中隆光(THE SHAMPOO HAT)/谷川昭一朗
作・演出=牧田明宏 舞台監督=松下清永 舞台美術=田中敏恵 照明=箱崎あや子 音響=田上篤志(atSound) 演出助手=菅井哲生 宣伝美術=登内雄司 宣伝写真=大木啓至 制作=明日図鑑
前売開始3月12日(日) 7ステージ 前売3,200円 当日3,500円(全席指定)
公式=http://www.ashitazukan.com/index_f.html
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