土屋士さんがプロデュースするTsuchipro(ツチプロ)の公演です。鐘下辰男さんの脚本でStudio Lifeの役者さんが出てらっしゃるので観に行きました。土屋士さんが主演でしたね。主宰さんが主役ってちょっと意外でした。
演劇◎定点カメラに初演のレポートがあります。鐘下さんと宮沢章夫さんとのトークも面白いですね~。過去公演のことがこんなに詳細に残されていて、本当にありがたいです。
★ウエストエンドスタジオというと騒音問題がずっと気になっていまして、初めてそれを意識して拝見したのですが、やっぱりありますね、騒音・・・。上のスタジオから軽音楽の音が響いてました。静かなシーンが多いお芝居だったのでちょっと邪魔でしたね。
劇場さんはなるべく早く手を打たれる方がいいと思います。また、これからこの劇場を借りようかと考えている劇団さんは騒音のことを知っておくべきですね。
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。改行を変更。
ある強盗殺人事件で望月陽子の父親が殺された。目撃者であり被害者でもある陽子(原口優子)は、事件のショックで一時的な記憶喪失に陥る。事件の内部情報をマスコミに漏洩した刑事・赤井(土屋士)は、捜査から外され新たな任務につく。それは望月陽子の監視であった。かつて陽子が生活していた都会の古びた一室。真夏の茹だるような暑さの中で二人の一日が始まる。
捜査状況が気になる赤井は、元同僚の刑事・栗栖(楢原秀佳)、山崎(本田真大)に様子を聞くが反りが合わない相手からは、まともな返事すら返ってこない。情報を渡されたライターの藤堂(山﨑康一)も密かに現れ、陽子に事件の真相を執拗に求める。「聞いたことないか?『レカ』って」やがて状況は事件の核心へと向かっていく。
全ての真相が明らかになる時、交錯する五人が迎えた意外な結末とは――――――
≪ここまで≫
鐘下作品というと不気味でおどろおどろしくて、始終ピーンと張り詰めた空気で極限状態で・・・ということが多いですが、今作はもっと柔らかかったです。私は少々物足りなかったですが、ご一緒した方は「これくらいがわかりやすくていい」とおっしゃっていました。確かにわかりやすかったですね。ある程度リラックスして観ていられたのも観る環境的には良かったのかも。
会話劇といってもかなりモノローグ(独白)が多いです。裏の設定がいっぱいありますし、役者さんの技術が問われる難しい脚本なのではないでしょうか。特に主役の赤井(土屋士)の独白シーンが多く、大変そうだなと思いました。この役は千葉哲也さんがやりそうだな~と思ったら、初演はまさに千葉さんでした(笑)。
また、細かい部分の質感からしっかり作らないと本質が伝わりにくい脚本だとも思います。“真夏の茹だるような暑さ”ってちゃんと実感させ続けるのは難しいですよね。風鈴の音や旅行かばん、ビール瓶、灯油のポリタンク等、ストーリーに大きな影響を与えるものについてはもうちょっときめ細かな演出が欲しかったです。なかなか大変なことだとは思いますがやっぱり脚本が脚本なので、どうしても鐘下さんの演出と比べてしまいますね、私は。
最初と最後にカウンターテナー(と思われる)のバロック風の歌曲が流れてびっくり。めちゃスタジオ・ライフっぽい(笑)。
ここからネタバレします。
登場人物全員が決して真っ当な大人ではない、というよりむしろ社会的意味では悪人である設定でした。会話の中から徐々に人物の裏側が見えてくるのは面白いですよね~。鐘下さんの脚本は緻密でかっこいいです。怖いけど(笑)。
赤井は自分の正義感を満たすために警察の極秘情報をブンヤの藤堂に売る、藤堂は特ダネのためなら手段を選ばない(友人も売る)、栗栖は真犯人を誰よりも早く捕まえることだけに執着し、山崎は事件がうまく収まりさえすれば虚偽も気にしない。
陽子ははじめ、チンピラにレイプされて金を奪われ、同時に実の父親もなぶり殺しにされた被害者として登場しますが、実は円山町で金髪の娼婦“レカ”に変装して、夜の街で売りをやっていたことがあらわになります。また、舞台となっている陽子の実家の離れは、陽子の母親と父親の確執からできた特殊な部屋で、母親が精神病院に入っていることや陽子が幼い頃から(中学時代から?)父親に性的虐待を受けて育ってきたことなど、暗い過去がしみ込んだ空間でした。そして陽子こそが父親を殺した真犯人であることも最後にわかります。
赤井は自分が起こした交通事故で子供(息子?)を焼死させています。妻とは数年前に離婚しており、赤井は毎月慰謝料を払うのが苦しい状態。子供を失った苦しみから、妻は夜の女になってしまいました。さらに赤井と妻は学生時代に子供を2度堕胎しているとか、昔からの友人の藤堂と妻を取り合った過去があるとか、会話の端々からどんどん出てきます。暗くて厳しくて悲しいことばかりですが、それほどはりつめた空気ではなかったですね。う~ん、やっぱりちょっと物足りなかったな・・・。
赤井と陽子の間に大人の恋愛(もしくは友情)関係が見えてほしかったです。陽子が少しずつ赤井に心を許して話をするようになったり、赤井が最後に陽子を逃がすようになるには、もっとエロティックな男女間のムードが必要なのではないかと思いました。特に陽子は娼婦なわけですから、そういう悪い女の色香がないと。最後の赤いドレスでもっと大変身してほしかったですね。服に着られている感があって残念。
役者さんで面白かったのはブンヤの藤堂役の山﨑康一さん。細かくキャラクターづくりをされているのが、長いセリフの切れ目や強弱、緩急でわかります。
カーテンコールで出演者の5人が出てきた時、「あれ、こんなに少なかったのね?」とちょっと嬉しい気持ちになりました。もっと大人数の登場人物がいるように感じて観ていられたのは、役者さんの演技の賜物だと思います。
出演=山﨑康一(Studio Life)/楢原秀佳(Studio Life)/原口優子 (劇団青年座) /本田真大 (シネマポルト・アカデミー) /土屋士
作=鐘下辰男 演出=竹内修 演出補佐=高須誠 舞台美術=野原剛 照明=森田三郎 音響=竹下亮 (OFFICE my on) 宣伝写真=川久保繁樹 (BRAVO COMPANY) ヘアメイク=松井毅 宣伝美術=加藤和紀 (CINQ) WEB製作=佐藤祐太 制作=中野良恵 (team BooGie) 制作補佐=中川拓也/澤田さつき 企画製作=Tsuchipro
公式=http://www.tsuchipro.com/
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