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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年05月05日

劇団、本谷有希子(アウェー)『密室彼女』05/03-09ザ・スズナリ

 小説家の乙一さんが書き下ろした2本の原案プロットを元に、本谷有希子さんが脚本を書いて演出されました。緊張感ただようガチンコ三人芝居で、ちゃんとミステリーで、笑いもいっぱいだし恋もあります。本谷さんならではのちょっと危ないエロスも、ストイックなムードの中に溢れます。私ったら静か~なシーンで超興奮しちゃいましたよ!「あれで興奮ってやばくない?」って聞かれそうだな、ええ、私ヤバイかも!(笑)

 前売りは完売ですが、当日券は毎回発行されるそうです(お求め方法はこちら)。どうぞお見逃しなく!
 豪華「ネタバレ」ガイドブックを入手して観劇後に読めば、味わい倍増!深み倍増!本谷さんの凄さをまたもや身をもって確かめることになりました。

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 レビューを最後までアップしました(2006/05/09)。

 ≪あらすじ≫ ネタバレになるので部分だけです。
 乱立するビルに囲まれて偶然できた実質上の密室空間。四方を壁に囲まれて外に出ることはできない。助けを呼ぶ声は届かないし、携帯の電波もつながらない。ビルの上から自転車と一緒に落ちてきた女(吉本菜穂子)は、そこで暮らす男・マナベ(加藤啓)と出会う。
 雨水を飲み、上から降ってくるかきもちを食べて生き延びながら、マナベと女は助けを待っている。女は自分がなぜビルから落ちたのかが思い出せない・・・そうだあの日、自転車でのコンビニ帰りに、大きなトランクを運ぶ2人の男(加藤啓&杉山彦々)に出くわして・・・。
 ≪ここまで≫

 上手前に向かって斜め下方向に、やんわりと八百屋舞台になった四角い舞台。密室という設定ですが、壁およびドアがどっしりと立っているのは舞台奥だけで、基本的には細い柱だけで空間が区切られているため開放感はあります。劇場の黒い壁も露出しており、演劇的な趣向が凝らされた美術です。壁、柱をはじめクローゼットやデスク、洗濯物を干す竿も白く塗られて、舞台全体は白い世界。白といっても真っ白ではなく、白樺の木肌のようにザラっとした質感で、ところどころ鉄の赤錆びが染みています。中根聡子さんの美術にはいつも舌を巻きます。

 ここからネタバレします。セリフは完全に正確ではありません。

 ビルの谷間⇒ ハルコ=吉本菜穂子/マナベ(須藤が演じている)=加藤啓
 マンションの一室⇒ 翔子(ハルコが演じている)=吉本菜穂子/須藤=加藤啓/深沢=杉山彦々

 オープニングの音楽が素晴らしかったですね~。選曲も、じわっと大きくなる音量も、自転車が落ちる音とのミックスも絶妙でした。暗転して明るくなった時、自転車のタイヤがぐるぐる回っていたのも効果的。かっこ良かったな~。
 ハルコ(吉本菜穂子)が落ちてきたビルの谷間と、彼女が回想するマンションの一室など、照明の変化だけで場面転換します。これが見事でした。最初にハルコがコンビニで買い物(万引き)をするシーンなんて、本当に音と照明の変化(と演技)だけで成立していて、ちょっと鳥肌が立ちました。

 ギャグも本当に面白くっていっぱい笑いました。言葉の選び方が絶妙ですよね。役者さんの演技ももちろん上手かったです。
 ビルの谷間の空間で、クローゼットをトイレとして使うマナベとハルコ。マナベが大便をした直後にハルコが入ろうとすると、マナベが必死で止める。匂いをかがれるのがものすごく嫌らしい。
 マナベ「(匂い判定)専門のレフェリー呼んできて!」「(君は)そこ(部屋の真ん中)ですればいいじゃない!」
 ハルコ「雑なこと言わないでください。」

 ゲイの深沢(杉山彦々)は須藤(加藤啓)を愛しており、須藤と恋仲だった(?)同居人の翔子を殺してしまいました。その死体をトランクに詰めて運んでいたのをハルコに目撃され、2人はハルコをマンションに軟禁します。軟禁されたハルコはとっさに記憶喪失のふりをします。ハルコが本当に記憶喪失なのかどうかを突き止めるために、深沢と須藤は「お前は俺たちと一緒に住んでいる翔子だ」と嘘をつき、ハルコがぼろを出すのを待つのです。死んだ翔子は奔放でわがままな女で、2人に対してかなりの暴君だったようで、ハルコは自分の正体に気づかれないよう、必死で翔子の真似をしはじめます。
 翔子(=ハルコ)「あいつ(須藤)食べたらすぐうんこじゃん。なにあれ。胃が肛門?」

 殺された翔子の日記に「須藤はマゾかもしれない」と書かれているのを見つけ、翔子は須藤に対してサディスティックな態度をとります。それに惹かれる須藤。「(床に頭を)つけて」とハルコが須藤に凄むシーンはいわゆるSMプレイ。背筋にゾクゾクきましたね!ぎりぎりのところで深沢を登場させて、須藤にアーノルド・シュワルツェネッガーの真似をさせてギャグにして、その緊張感を逃してしまうのもかっこいい!

 須藤とハルコが部屋の中で自転車の二人乗りをするシーンは絶品でした。それぞれの素性がばれないようにしつつ相手の腹を探る駆け引きと、互いにほんのりと抱いている恋心が混ざり合い、抑制した色気に満ちた男女二人芝居になっていました。
 (どのシーンだったかは忘れてしまいましたが)須藤に「翔子とは全然違うな」と優しくつぶやかれたハルコが、塗っていた翔子の口紅をぬぐうのも良かった!「私のことを見てほしい」と思う乙女心ですよね。
 こっそり逢引されたと思って激怒した深沢のセリフに爆笑しました。
 深沢「(これって)“本当は怖い『耳をすませば』”!?」

 須藤が深沢を殺してしまった(ハルコにぼろを出させるために須藤と深沢がひと芝居打ったのですが)後の、須藤とハルコの会話がものすごく切なくて素敵でした。盗みばかりして生きている女と、マゾの塾講師との間に倒錯した恋が淡く浮かびました。
 須藤「怒ってみてよ、俺に。」
 ハルコ「人、殺すなよ。」
 須藤「そうだよね。」
 ハルコ「人、殺すなよ~。」
 須藤「そうだよね。」

 深沢が死んだ(とハルコが思い込んだ)後、ハルコは屋上から自転車と一緒にビルの谷間に落ちてしまいます。これが、“ハルコの目の前に頭から血を流す男(マナベ)と自転車が倒れているオープニング”につながるんですね。ハルコは廃棄されたベッドのスプリングの上に落ちたので、命は無事でしたが記憶をなくしていました。
 須藤は落ちていくハルコを窓から目撃し、彼女を追いかけてビルの谷間に行きます。だから、落ちてきた自転車の呼び鈴が須藤の頭に当たっていたというオープニングは、時間が逆転しています。
 また、生きていた時の翔子(登場しない)が、深沢が10年かけて集めた四コマ漫画のコレクションを窓から捨ててしまったというエピソードがありました。終わり間際のシーンで、記憶を取り戻したハルコと素性を明かしたマナベ(=須藤)の上に漫画の切り抜きが降り注ぐのも、時間が逆になっているんですね。そして最後の告白ゼリフにうっとり♪
 ハルコ「(この部屋は)時空ゆがんでんの!?」
 マナベ(=須藤)「世界がこんなにゆがんでるんだから、あんたの性格なんてゆがんでないも同然だよ。」

 もう一回観られたら、またすごく面白かっただろうな~・・・屋上から落ちていくハルコを見てから須藤はビルの谷間へと追いかけたのだから、オープニングから谷間にいた須藤は最初っからハルコのことを愛していたんですよね・・・あぁなんてロマンチックなの!! 
 ビルの谷間でハルコと一緒に家族を作ろうと妄想するマナベに、つとめて冷静にしていたハルコが激怒します。
 ハルコ「面倒くさいんです、あなた。将来設計の中に私を組み込まないでよー!」
 この激怒がマゾの須藤にはいとおしかったのでしょう。大喧嘩のように見えていたのに、実は恋心がさらに深まるシーンだったんですね・・・ステキ!

出演=加藤啓(拙者ムニエル)/吉本菜穂子/杉山彦々
原案=乙一(おついち) 脚本・演出=本谷有希子 舞台監督=宇野圭一+至福団 舞台美術=中根聡子 照明ー中山仁(ライトスタッフ) 照明操作=萩原賢一郎(ライトスタッフ) 音響=秋山多恵子 映像協力=♀GUCCI♂(帝斗創像) 舞台監督助手=スズキサオリ/鈴木美幸/細淵裕子 小道具製作=長谷川ちえ 演出助手=福本朝子 イラスト=古屋兎丸 宣伝美術=金田介寿 宣伝写真=引地信彦 WEB製作=関谷耕一 制作助手=嶋口春香 助成=(財)セゾン文化財団 制作=寺本真美(ヴィレッヂ) 後援=ニッポン放送 企画・製作=劇団、本谷有希子
4/1(土)発売。指定席3,500円 自由席3,300円
公式=http://www.motoyayukiko.com/index.shtml
イープラス=http://mars.eplus.co.jp/ss/kougyou/syosai.asp?kc=010891&ks=10&os=474
エキサイト=http://www.excite.co.jp/book/news/00101143390875.html

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Posted by shinobu at 2006年05月05日 22:09 | TrackBack (0)