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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年05月28日

劇団俳優座 自主公演『不寝番(ねずばん)』05/25-30劇団俳優座稽古場

 俳優座の田中壮太郎さんが企画・翻訳・演出される自主公演です。上演時間が2時間35分(途中休憩15分を含む)の二人芝居。
 ちょっと長かったですが、戯曲に対する愛が感じられるプロダクションで、見ごたえがありました。老婆役の大塚道子さんが素晴らしかったです。

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 レビューを最後までアップしました(2006/05/29)。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより引用。(役者名)を追加。
 郊外に独り暮らしをしている叔母・グレイス(大塚道子)が危篤との報が、甥・ケンプ(蔵本康文)の元に届く。仕事を投げ打って臨終の床へ駆けつけるケンプ。しかし駆けつけたケンプを待っていたものは、意外にも元気なグレイスの姿だった。
 グレイスの死を待ちながら仕方なく世話をするケンプ、そんなケンプの様子を伺いどこか落ち着きの無いグレイス。お互いに奇妙なズレを感じながらも共同生活を続ける二人だったが、ケンプの思いとは、裏腹にグレイスはどんどん元気になっていってしまう…。
 死と孤独というテーマを皮肉的に、現代社会の老人問題を痛烈に描いた、二人芝居の傑作。
 ≪ここまで≫

 モーリス・パニッチさん はカナダの劇作家・演出家・俳優です。私はこれまでに『セブンストーリーズ』を拝見しました。今作はメープルリーフ・シアターでも日本語訳されています(タイトルは『ご臨終』)。1995年の戯曲です。

 黒いパネルでかこまれた小さな部屋に、老婆が眠るベッドが一台。中央の壁には曇りガラスの窓があります。引き出しや開き戸のついた大きな棚やステレオセットが、壁にへばりつくように描かれているのがステキ。『ピッチフォーク・ディズニー』の美術を思い出しました。 

 ほぼ無言の老婆(大塚道子)に延々と話しかけ続ける若い男(蔵本康文)は、ものすごいセリフ量です。演技がおぼつかないな~と感じたこともちらほらありましたが、言葉の抑揚や間などを細かくこだわって作りこまれていることがわかり、とても好感が持てました。「蔵本さんがんばって!」って思いながら見つめちゃいました。
 老婆役の大塚道子さんは、ただそこに居るということを優しく示してくださいました。おとぼけリアクションが素晴らしい!やっとしゃべったと思ったらその声の可愛らしさ、言葉の柔らかさにうっとりしました。

 作品全体の感想としては暗転が多く、終盤が長すぎた気がします。でもとっても良いお話でしたし、公演に関わっている人の熱意と愛情が感じられて満足でした。

 ここからネタバレします。

 若い男は躁うつ病の父親とアルコール中毒(だったかな?)の母親に放置されながら育ちました。“母親に女の子の服ばかり着せられていたのでオカマになってしまった”彼は、わざと人に好かれないようにして孤独に生きてきたのですが、唯一の肉親となった叔母(=老婆)から「もう死にます」という手紙が届き、会社も辞めて彼女の家に駆けつけたのです。それは30年ぶりの再会でした。
 彼は老婆に対して「財産はすべて僕に残すと遺言書にサインを」「太り過ぎないようにね、棺おけに入らなくなるから」などと毒づきますが、笑えるやりとりに仕上がっていました。熱心に世話をする内に老婆はどんどん元気になり、約1年の月日が経ちます。

 少しずつ仲良しになっていく2人。男は13歳の時にたった一度だけ彼の家を訪れた叔母に対して、「なぜあの時、僕をあの家から連れて出してくれなかったんだ?(僕が不幸だったことは一目でわかったはずなのに)」という恨みを持っていました。だから何度も老婆を殺そうとしますが、やっぱりできない・・・そしてある日、衝撃の事実が判明します。なんと男は住所を間違えて老婆の家を訪れていた、つまり人違いだったのです!彼の本当の叔母は、彼がいつも眺めていた向かいの家の窓際に座ったまま、既に死亡していました。
 目の前に居る老婆(大塚道子)に「なぜ本当のことを言ってくれなかったんだ!?」と激怒すると、彼女はほんわかと「(あなたの)訪問が嬉しかったから」と一言。滑稽だし、じ~んと来るしで、泣けちゃいました。「住所を間違っていた」と気づいた瞬間の2人の演技は絶品でしたね。

 落胆した男は老婆のもとを一度は去りますが、再び戻ってきます。でも老婆はすっかり衰弱しおり、いつもどおり一人でしゃべり続ける男に向かって「お話し中悪いけど、失礼させていただくわ」と言い残して死んでしまいます。老婆の遺体の横で、男は「私はあなたのことを好きになっていた」と気づき、他人を必死で避けて生きてきた暗い過去から、日の差す明るい未来へと歩み始める・・・ような終幕でした。
 黒幕に包まれた空間がバサっと白い幕に早替わりする大仕掛けがありましたが、そこでスパっと終わった方が良かったんじゃないかしら。紙ふぶきには必要性が感じられませんでした。

 マリア・カラスのアリアが2回流れましたが、お葬式の音楽として『カルメン』の「ハバネラ」がかかったのには笑っちゃいました。もう一曲は『ロミオとジュリエット』からだそうです。
 老婆は男のために編んでいたセーターを完成させて、ハンガーに掛けて天井から降りてきた丸い輪に吊り下げます。その丸い輪はビーズ(かな?)で飾りつけられていて顔の形になっており、全体でセーターを着た男の姿に見えたのがきれいでした。

出演=大塚道子(グレイス)/蔵本康文(ケンプ)
作:モーリス・パニッチ(Moris Panych) 企画・翻訳・演出:田中壮太郎 装置:俳優座舞台部 照明:伴静香・高橋典子 衣裳:若生昌 舞台監督:脇田康弘 宣伝美術:キヨエコイイヅカ 制作:村田和隆
前売開始 4月20日〈木〉前売:3000円 当日:3200円(各税込み)
公式ページ=http://www6.ocn.ne.jp/~haiyuza/Pages/nezuban_d.html
劇団俳優座=http://www.haiyuza.com/

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Posted by shinobu at 2006年05月28日 18:34 | TrackBack (0)