セルゲイ D. チェルカスキイ氏のワークショップ、初日を聴講させていただきました。その備忘録的レポートです。⇒まとめページ
参加者は30名(演出家10名/俳優20名が定員)で、見た感じだと男16人/女14人のような・・・次回確認いたします。
スケジュールなどはこちらでどうぞ。聴講(1日5000円)は当日申し込み可能です。
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拝聴しながらノートにメモに残したことを書きます。「(かぎかっこ)」はチェルカスキイ氏の言葉です。“⇒”以降は、私の感想です。
0■自己紹介
参加者全員が名前(このワークショップでの呼び名)と簡単なプロフィールを話す。
⇒ロシア演劇に詳しい人や、ロシアに留学していた人がすごく多くてびっくり!
【チェルカスキイ氏のお話(導入)】
「ロシア国立サンクトペテルブルグ演劇大学は230年前に創立された、ロシアでは一番古い演劇大学のひとつ。演出、演技、照明、美術などの演劇に関する全てのことが学べる。ドラマ(俳優と演出家)、美術(照明、美術、衣裳などの技術)、人形劇(大学内に独立して存在)、舞台評論(劇場の歴史、評論、舞台マネジャー)の4つの学部がある。演劇の全ての分野において卒業生が輩出される。」
「俳優と演出家が学ぶドラマ学部では“スタジオ制”と呼ばれる方法を取っていて、一人の指導者が同じ生徒を4年間続けて教えることになっている。4年目に生徒が舞台作品を創る際、もし演技や演出が下手だったらそれはその指導者の責任になる。指導者はチームを編成し、ヴォイス・ティーチャーやムーブメント・ティーチャーを呼び寄せる(任命する)ことができる。」
「生徒は卒業すると常設劇場で働くことになる。通常は1、2~5年契約。朝方に稽古をして、夜は毎日違う演目を上演する。一度作った作品は数年間、レパートリーとして記録される。学校のシステムもそのようになっており、2年生の時に作った演目は4年間保存される。レパートリーシステムなので俳優は月に2、3回、同じ作品で同じ役を演じることになる。」
「スタニスラフスキー以前にも“システム”と呼ばれるような演劇の技術は存在していた。たとえばモリエールにも、レーシング(ドイツ)にも。ジロドー(フランス)は俳優のパラドックスについての本を書いている。
スタニスラフスキー・システムは人間の心理的なものとつながったシステム。ドラマツルギーではなく、人間の生理をもとにしている。スタニスラフスキーは、何かを新たに生み出したのではない。彼は、人間の生理的な反応の成り立ちに、“すでにそうなっている”ということに気づいたのだ。」
1■コイン探し
2ルーブル硬貨を教室のどこかに隠し、制限時間3分の間に一人の生徒A(本人が立候補)がそれを探すゲーム。言葉は使ってはいけない。
Aが部屋の外にいる間にサプライズ(Aが部屋に入ったとたん、全員で「お誕生日おめでとう!」と盛り上げる)を用意し、硬貨を隠しておく。
Aは部屋に入ると突然、全員に「お誕生日おめでとう!」と祝われる。Aは当然とまどうが、そのまますぐに硬貨を探すように指示される。必死で探すA。残り時間1分になるとチェルカスキイ氏が全員に、硬貨に近づくと「熱い」、遠ざかると「冷たい」と言うよう指示。みんなの助けを借りて、Aは硬貨を見つけることに成功。
そして、上記の約5分間の出来事をそのまま繰り返す。サプライズがあることを知り、硬貨のありかを知った状態で、どこまで忠実に再現できるのか。
2回目の終了後フィードバックをする。1回目と2回目でどういう違いがあったか、どこで一番気持ちが高まったか、そこから気づく人間の心理状態の変化を確認する。
「“与えられた状況”の大きな輪。同心円状に○を3つ書く。真ん中の一番小さな○は舞台。それを包む二番目の○は戯曲。さらにその二つを包む○は全人生。」
「ハムレットの人生は戯曲以前にもあった。それを作る(見せる)のが演出家の仕事。」
「確信が繰り返しを助ける。自分がどうできているのか、どう考えるのか、感情が理性に作用しているのか、肉体が考え方に影響するのか・・・。」
「自分自身を学ぶ。生理的感覚、注意力、どうやって他人と交流しているか。」
「与えられた状況を生きることは、バレエの回転と同じ。」
「自分の心の中に、自分がやってることについての確信を持つこと。」
「演劇大学ではこれを2年間学びます。でもそれだけやっても足りない。全人生を通して自分を観察し続けることが大切。」
「条件反射を定着させる。」
「人間はほとんどの人生を無意識に生きています。集中力、生理的な感覚・・・」
2■名前記憶
参加者全員で大きな円をつくり、自分の隣りの人の名前を順番に呼んでいく。一番目の人は「かつみ」。二番目の人は「かつみ、みなこ」という風に追加していくので、最後にまわってきた人は30人全員の名前を呼ぶことになる。
「俳優には集中力が大切です。いつも訓練しなければならない。」
「スタニスラフスキー・システムのワークショップで行うことは、多く場合、子どもの遊びに似ている。子供は遊びから色々なことを学んでいる。私たちに大切なのは再び学びなおすということ。やりながら分析して学ぶ。遊びだという風には受け取らないで、何のためにこれをしているのかを考えるのが大切。」
「(私が)なぜ演劇が好きか?与えられた課題が楽しい。面白い。全然飽きない。終わりがない。」
3■手で憶える
目をつぶって、自分の左手で隣りの人の右手を触わり、記憶する。選ばれた2人が、色んな人の手を触っていき、もともとの自分のパートナーを当てる。
「手を触りつつ、自分も見つめてください。心の中でどういうプロセスがありますか?」
⇒目をつぶって、誰かの手をしっかり味わう様子が超セクシーでした。私ってばそんなことばっかり見ちゃって・・・すっかり観客です(笑)。
4■目で憶える
2列に向かい合って並び、自分の目の前の人の姿を記憶する。
「もしロミオがジュリエットを愛しているなら、彼女が着ている服がどういう服だったのかを記憶しているはず。着物じゃなくてドレスだったとかの程度ではなく、もっと詳細にわたって記憶しているだろう。憶えていないのなら、それは愛していないということだ。」
「小さな真実の積み重ねが舞台上の真実を生み出す。17世紀のイタリア、フランス、イギリスの演劇では双子の兄弟が引き離され、再び出会うという作品が多くあります。その兄弟は何十年もの間あっていなくても、相手の笑顔や足のあざなどを覚えており、それを見て兄弟だと気づく(それを演じるには詳細にわたる記憶力が必要)。」
5■耳を澄まして部屋の中/外の音を聞く(1分間ずつ)
6■においを嗅ぐ/ものを食べる
各自、飲み物のにおいを嗅ぐ演技をする。まずはお茶。ハチミツ。「実は石油だった!」
りんごを食べる演技をする。
その後、本当にりんごが出てきて、一人一つずつ食べる。空想のリンゴと本物のリンゴを交互に。
「実際のところを、本物の人生を通じて、確認していかなくてはならない。」
⇒りんごを食べる演技の種類が人によってさまざまで面白かったです。本物のリンゴが出てきて「りんごを食べてください」と言われているのに食べようとしない人や、「空想のリンゴと本物のリンゴを交互に食べて違いを確認して」と言われているのに、単にりんごを美味しそうに食べる人がいて(笑)、その人間観察だけでも楽しかったです。
7■りんごを食べた後、汚れた手を洗う
2人が選ばれる。1人がバケツに水を汲んで、相手の手にかけてあげる演技をする。水をかけられた人は手を洗う演技をする。
その直後に、実際に水を受ける桶も用意して、バケツの水で手を洗ってみる。
「真実は、ほんのちょっとの感覚の真実、ニュアンスから発生する。」
「演技は細部。詳細が最も大切。」
「それはすなわち観察すること。道に終わりはないのです。」
「本当の人生を結びつけて試している。」
「人生は思っているより詳細を与えてくれている。人生の中から色んなことを発見できるのが良い演出家の仕事。」
「何を訓練すれば良いかがわかれば、自分で訓練できる。」
「一番大切なのは原理。全ての感覚を組み合わせて統合する。」
「舞台の上に居る時の状態が、まさしく人生にあるものかどうか、それが大事。」
「スタニスラフスキー・システムは、客観的、生理的、肉体的な事実をもとにしたシステム。どんな演劇ジャンルにも当てはまる。リアリズム演劇だけのためのものではない。シンボリズム(象徴)演劇でも使える。色んなジャンルで使うことができる、俳優のための俳優トレーニングです。」
8■『ロミオとジュリエット』のモンタギュー家とキャピュレット家の争いについて、チェルカスキイ氏が詳しい説明を加えつつ一人語りをする。
「(ある設定を与えられたら)自動的に詳細な絵が浮かぶはず。」
「憎悪は感覚的。頭からではない。すべては詳細を通じて表される。」
⇒チェルカスキイさんの“争い合っている2つの家の間にある井戸”を舞台にした一人語りは、ものすごく見ごたえがありました。そこがどういった環境なのか、登場人物がどういう心理状態なのかをじっくり説明しながら演技もしてくださり、「演技は詳細である」ということにすっかり感心&納得でした。
9■ガリーナ・コンドラーショヴァ氏による身体レッスン
「火の中だ!」「砂浜だ!」「刈りたての田んぼだ!」と瞬時に設定を変更し、その演技をする。
その他、男女ペアで指相撲などいろんなエクササイズ。
⇒ペアによって熱くなる度合いが違い、人の性格がそのまま出てしまってるのが面白かったです。特に指相撲での負けん気の強い女性の白熱とか(笑)。
⇒初日は、このワークショップの全体像をざっと紹介してくださった感じでした。これが13日間、しかもチーム分けをして色んな発表をしていくと思うと・・・あぁ、毎日通いたいっ!!
チェルカスキイ 演出家と俳優のための本格的ワークショップ
講師:セルゲイ D. チェルカスキイ(ロシア国立サンクトペテルブルグ演劇大学国際関係副学長、演技・演出教授)/ガリーナ・コンドラーショヴァ(女優・振付師・演出家・ムーブメント・ティーチャー・チェルカスキイ氏の奥様)
コーディネーター:村井健 通訳:久保遥 他 国際部担当:佐々木/黒澤 主催:日本演出者協会 協力:日露演劇会議 2006年度文化庁優秀指導者特別指導助成事業
日時:2006年8月9日(水)~8月22日(火)10:00~17:00 参加費用:50,000円 応募〆切=7/31必着
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