セルゲイ D. チェルカスキイ氏のワークショップの最終日、8/22(木)の聴講レポート(後編)です。(⇒まとめページ)。
すべてが終った後に稽古場で終了式およびパーティーが開かれ、参加者およびスタッフの皆さんと、このワークショップの成果を確かめ合うことができました。
見学にいらした流山児祥さんのブログ“祥 MUST GO ON! ”も、ぜひお読みくださいませ♪関連エントリー⇒1、2、3、4
見学者のレポート⇒マーミンカ通信
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見学しながらノートにメモしたことを書きます。「(かぎかっこ)」はチェルカスキイ氏の言葉です。“⇒”以降は私の感想です。
●「かもめ」より、ドールンとポリーナのシーン・スタディ。
ニ人一組でひとつのシーンを演じます。途中でチェルカスキイさんが止めて、質問や提案をされます。
「身体行動を真似して良いというのは、誤解。最も大切なのは、身体感覚の記憶です。」
「与えられた設定に対する信頼を生むこと。例えば、手でコップを持っているマイムをする時は、俳優本人が手の中のコップを信じなければならない。でなければ観客が信じられるわけがない。」
「戯曲の中の設定にきちんと存在しているのかどうか。」
「『役を演じるということは、戯曲全体を演じることだ』とスタニスラフスキーは言っていました。」
「課題に取り組む時は、今日できたことが明日にできなかったとしても、失望しないでください。スタニスラフスキー・システムは人間観察のプロセスです。だから、ハっと目が覚めるような驚き(気づき)ばかりが続くわけではない。」
「演じる時は衣裳を着てください。衣裳を着て、役への旅が始まる。『もし私がポリーナだったらどうなる?』と。自分自身を観察してください。ジーンズを着ている時と夜会服を着ている時では違うはずです。自分を(衣裳で)変えてください。」
「ドールンは何かをするために登場します(人間は何らかの目的をもって、それを実現するために、行動している)。」
「(役を)作るのではなく、理解する。役を自分に近づけるのではなく、自分が役に近づいてください。」
「ポリーナはドールン(の心)を盗もうとしている。彼を盗むために彼女は何をするのか?女性は(男性の気を引くために)日常はもっと繊細に具体的なことをやってらっしゃいますよね。色んな秘密があるはず。微笑んでスカートを直すだけでは足りない。実際の人生では(女性は)繊細に、わからないように、積極的にやっているはずです。」
「言葉を知って、言葉を練習する。行動を考える。」
「(シーンで)何が行われようとしているのか、どんな振る舞いを遂行しているのかを、演出家は考えます。」
「俳優が(自分の)人生の中からアレンジメント(応用、道具立て)を引き出してくる。俳優が自分で考え付かなければなりません。そこに創造者としての結果が表れます。」
「一秒一秒を詳細に研究することで結果が得られる。」
「『この人物は何をしているのか?』と常に考えること(=行動分析)。同じ行動も色々な方法で舞台に乗せられる。俳優が自分で考えて色々試すことです。100個でも200個でもできるはず。たとえばポリーナはドールンの注意を引くために、酔っ払う、おしゃれする、倒れる、もうすぐ死ぬと脅す・・・など、さまざまな行動ができる。」
「人生も同じですよね。ひとつの目的を達成するためにいくつもの道があります。」
「分析と具現化を同時に行うことが、一番大切です。」
「セリフはチェーホフが書いた戯曲どおりに話してください。行動については(“退場”以外に)戯曲には書かれていません。だから、(勝手に)思いつくのではなく、セリフの裏にどういうことがあるのかを、理解しようとしてください。」
「私は(戯曲から離れて勝手に創作したのではなく)、設定を鋭く見せただけです。」
⇒「このカップルは凄い!」と思えるような発表には出会えなかったですが、チェルカスキイさんのお話は非常にわかりやすく、はじめの一歩を踏み出すところから丁寧に教えてくださるので、目からウロコな気持ちでずっと拝聴していました。
参加者の話によると前日に大きな発表があったそうで(「かもめ」の劇中劇をチームごとに上演)、今日の発表については準備時間が充分ではなかったようです。うーん、残念。前日も見たかった!!
●絵画を見て、演劇的葛藤を見つける。
約10枚ほどの絵画のカラーコピーが壁に貼られている。その中の数枚を取り上げて話し合う。
「皆さん、良い絵を選んで持ってきてくださいました。良い絵を選ぶことは演出家の重要な資質です。そして演出家は現実主義者でなければいけない。」
「絵画から演劇葛藤をくみ出す(作業を行います)。」
「今皆さんはこの授業において、私の質問に対する答えを考えるのではなく、どういう質問が出るのかに注意を払ってください。」
○日本絵画「ためさるる日(?)」
踏み絵をまさに踏もうとしているおいらんと、彼女を見つめる芸者たち。
○「ビラを貼る」
警察官に向かって犬が吠えている。犬の綱を持っているのは小さな少年。警察官の右後方で、壁にビラを貼る男がいる。
○夜のカフェに女がたったひとりで座っている絵(たしかタイトルは『夜の孤独』?)
「ストーリーも気分もある。しかし演劇的葛藤はない。」
「『(彼女の状態は)何も変わらない。待っていても誰も来ない。』ということを表している。孤独を表している。悲しみが伝わってくる。彼女は毎晩、同じところにいる雰囲気がある。憂鬱が宇宙的。後ろの黒が広く、深い。」
「映画にすると良いかもしれない。映画は散文に近い。」
「悲劇はある。いい絵だ。でも演劇的葛藤はない。これを演劇にしたなら舞台上で5分間、ただ人が動かないままでいることになる(笑)。」
○「シベリアのメンシコフ一家」(祥 MUST GO ON!に画像あり)
『夜の孤独』との対比をする。
「戯曲の葛藤はどこにあるのかを本能的に悟る。どこに美しいものがあるのか。どういうものが芝居にできるのか。」
「演出家の主要な課題は、どのように作者の世界を成立させるか、ということ。(作家の世界を)壊すところにその課題はない。」
「今やってきたことは、演劇的葛藤をどう発見できるかのトレーニングです。」
「これで私の授業は終わりです。今後、ひとつお願いがあります。美術館に行くたびに私のことを思い出してください(笑)。そして絵を見て、これは演劇にできるのか、演劇的葛藤があるかどうかを考えて欲しい。」
【最後の質疑応答】メモしたチェルカスキイさんの言葉だけを書きます。
「俳優としての仕事は、与えられた設定の詳細を分析することから始まります。」
「瞬間的にうまくいくものではない。訓練が必要。」
「経験のあるスパイは瞬時に顔と名前を覚えます。初歩的なスパイは、私の顔と名前だけを覚えます。なぜなら赤い服を着ているからです(笑)。だから皆さんは経験のあるスパイになってください。」
「全てを見て、聞いて、全てを目に留める。それを舞台上に実現させてください。」
「具体性、詳細を見つけ出すために、自分、体、感覚を知る。何が起こるのかを学ぶ。自分の目や心臓がどう動くのかを、よく勉強して学ぶ。俳優トレーニングができると、分析もできるようになる。」
「戯曲を舞台化することは、戯曲を劇場のことばに翻訳していく作業。それを知っていればいい作家、いい演出家になれます。」
「作・演出家は、自作の脚本を演出する時に、脚本家の意識を多く残してしまうと失敗する。」
「頭でわかっても、感情と結びついていなければ、共感は生まれない。体の状態にのめりこめれば(よい)。役者に真実の体験をさせること。設定を先鋭化させること。」
●終了式(認証証授与)&パーティー
チェルカスキイさん、生徒さん、スタッフさん達とゆっくりお話できました。
コーディネーターの村井健さんのお言葉↓
「皆さんはこれでやっと、朝から夜まで稽古するというハードな日々から開放されますね、お疲れ様でした。夜10時にこの教室を追い出されてから場所を移動して、もっと遅くまでお稽古をされていましたね。今まで色んなワークショップをやっていましたが、こんなに熱心な参加者が集まったのは初めてだったと思います。ありがとうございました。ただ、ロシアの演劇大学ではこれが日常なのです。これが4年以上続くということを憶えておいてください。」
≪まとめ≫
幸せな時間でした・・・・。ずっとずっとあの稽古場に居たかった。
流山児さんのブログにも書かれていますが、チェルカスキイさんの説明はすごくわかりやすいです。俳優の始めの一歩から、具体的に、丁寧に演技というものについて話してくださいます。参加者の方々は基本の基本(または、基本というものが存在すること)に、気づくことができたのではないでしょうか。※スタニスラフスキー・システムこそが演劇の基本である、という意味ではありません。
参加者から「約2週間という長期間でこんなに充実していて50,000円は安い!」という声があがっていました。私も同感です。2006年夏のワークショップをまとめましたが、その中でもかなりお得なものだったと思います。
たったの30名に選ばれたの参加者の方々はラッキーだと思います。今後も日本演出者協会がこのようなワークショップを開いてくれることを期待します。
旅行が苦手(しかも極度の飛行機嫌い)な私ですが、ロシアに行ってみたいな~と、ほんのり思い始めちゃったようです。・・・超やばい。散財にもほどがありますよね(冷汗)。
チェルカスキイ SERGEI D. TCHERKASSKI 演出家と俳優のための本格的ワークショップ
講師:セルゲイ D. チェルカスキイ(ロシア国立サンクトペテルブルグ演劇大学国際関係副学長、演技・演出教授)/ガリーナ・コンドラーショヴァ(女優・振付師・演出家・ムーブメント・ティーチャー・チェルカスキイ氏の奥様)
コーディネーター:村井健 通訳:久保遥/上世博及 国際部担当:佐々木/黒澤 主催:日本演出者協会 協力:日露演劇会議 2006年度文化庁優秀指導者特別指導助成事業
日時:2006年8月9日(水)~8月22日(火)10:00~17:00 参加費用:50,000円 応募〆切=7/31必着
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