演出=熊林弘高、台本=木内宏昌、出演=佐藤オリエのtpt作品は、これまでに2作品拝見しました(レビュー⇒1、2)。
『血の婚礼』も良かったですが、今回もまた美術(二村周作)が美しい!衣裳(原まさみ)とヘアメイク(鎌田直樹)も絶品でした。
原作は三大ギリシア悲劇の作家エウリピデスの二千数百行の詩で、約2500年前の神話の世界が現代に現れます。お話自体はやはりわかり易いとは言えないので、これからご覧になる方はパンフレットの解説を開演前に読まれることをお薦めします。
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≪あらすじ≫ パンフレットより。(役者名)を追加。
戦争に明け暮れる都市国家テーバイは、ディオニュソス(バッコス:佐藤オリエ)とその信者たち(バッカイ:中川安奈/若松智子)を迫害した。若き王ペンテウス(進藤健太郎)とその一族に復讐をはじめるディオニュソス。人間の知恵を超える一日の物語。
バッカイ:「バッコス」の女性複数形。「バッコスに狂わされた女たち」を意味する。また、ギリシャ語の性質上、バッカイをバッカイたらしめる者という意味も含む。
≪ここまで≫
劇場に入るなり美術に魅せられました。『血の婚礼』と同様に、およそ三方から客席が舞台を囲み、いつものベニサン・ピットの面影がないぐらいに変貌しています。舞台の中央から上手には、大きなガラス張りの壁が丸く立ちはだかり、それはいまどきの新しいビルのよう(例えば⇒1、2)。壁の向こう側は完全に透けていて、奥に洋服がかかったクローゼットが見えます。青い灰色のタイル状の床も、冷たい都会のムードを盛り上げます。まさに今、ここでしか体験できない異空間です。
衣裳がまた素晴らしかった!男性のスーツに民族衣装っぽいロング・スカートと鹿の毛皮を合わせる、あのセンス!驚愕のかっこよさです。バッカイ役のアジアの女たち(中川安奈/若松智子)のドレスも、生地のミクスチャーが洗練されていましたね。中川安奈さんはもともと美しい女優さんですが、今回はヘアメイクも衣裳もばっちりで、立っている姿を見つめるだけでも幸せでした。
ギリシア神話のセリフがわりと平易な日本語になっているのと、役者さんの佇まいや衣裳が現代風なため、比較的とっつきやすい世界になっています。でも登場するのは神、国王、神をたたえる信者等ですから、作品世界はかなり奇抜で複雑な設定です。たとえば蜷川幸雄さんが演出するギリシア悲劇のように、メロドラマ的な要素にどっぷり感情移入するというよりは、一歩引いた場所から冷静なままで見続けられたのが面白かったです。古代と現代とを比較したり、共通点、相違点を見つけようとしたり、常に何かを考えながら観ていました。
ただ、今の私たちの人生につながる瞬間や、何らかのとっかかりが見つけられたかというと、具体的にはなかったですね。最後まで冷静なまま見つめていました。
ここからネタバレします。
テーバイの王ペンテウス(進藤健太郎)がバッコス(佐藤オリエ)を迫害したため、バッコスはペンテウスを騙してバッカイらのところにおびき寄せ、彼の母親アガウエ(佐藤オリエ)に彼を殺させます。罰を与える神と罰を受ける人間の二役を、佐藤オリエさんがお一人で演じられることで、運命の皮肉さ、残酷さがより際立つ効果があると思いました。
進藤健太郎さんは『スラブ・ボーイズ』に続いてのtpt出演ですね。セクシー度がアップしていて、細身のパンツ・スーツに先が長細い靴がキマってました。女装は・・・どうなんでしょう(笑)。笑うところなのか、冷静に受け止めるところなのかが曖昧で、私は戸惑っちゃいました。そういうシーンが他にもあったんですが、役者さんのせいではないでしょうね。これから演出が先鋭化されていくと良いなと思います。
終演後の出待ちの女性客が多いなーと思ったんですが、元・宝塚歌劇団の男役の月船さららさん(⇒ご本人のブログ)が出演されていたからでしょうか。宝塚退団後の初舞台の初日ですものね。男役だった方があの衣裳で、あの演技って・・・・かなり刺激的!超エッチでしたよん(笑)。
出演=佐藤オリエ/中嶋しゅう/進藤健太郎/花王おさむ/中川安奈/月船さらら/若松智子/鴻森久仁男
作=エウリピデス 台本=木内宏昌 演出=熊林弘高 美術=二村周作 照明=佐野雅昭/小林芳祐 音響=長野朋美 衣裳=原まさみ ヘア&メイクアップ=鎌田直樹 舞台監督=増田裕幸
全席指定5,250円 学生料金3,150円(TPTのみのお取り扱い)
公式=http://www.tpt.co.jp/
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