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2006年09月12日

中野成樹+フランケンズ『暖かい氷河期』09/08-18 横浜STスポット

 中野成樹+フランケンズの新作です(過去レビュー⇒)。カルロ・ゴルドーニ原作の『2人の主人を一度に持つと』を、中野成樹さんがどのように“誤意訳”・演出されるのか。
 チェルフィッチュの岡田利規さんがゲスト出演されるポスト・パフォーマンス・トークの日に伺いました。

 クールな視点でしたたかに計算された、おしゃれで気軽なラブ・コメディです。ピリリと皮肉も効いています。軽い肌触りだけれど、大人がどっしりとした見ごたえを感じられる作品だと思います。
 横浜で、小皿に可愛く盛り付けられた正体不明の食べ物を一口食べてみたら、甘味、苦味、辛味、そして旨味もあった!・・・というところ(笑)。上演時間1時間45分はちょっと長く感じましたが、満足です♪ 

 劇団の制作ブログで「お客様のコメント」が公表されています。雰囲気がよく伝わってくる舞台写真あり。

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 レビューをアップしました(2006/09/12)。

 ≪あらすじ≫ パンフレットより引用。(役者名)を追加。
 イタリアはヴェネツィア。一組のカップルが今まさに結婚をむかえようとしている。新婦の名はクラリーチェ(石橋志保)、商人パンタローネ(ゴウタケヒロ)の娘である。夫となるべきはシルヴィオ(タケシタユウジ)という若者。しかし、この結婚への道のりは決して平坦ではなかった。もともとクラリーチェは、父の商売相手でもあるフェデリーゴ・ラスポーニという、顔も知らない近隣国の名門子息との婚約が決まっていたのだった。だが、そのフェデリーゴがある事情により死んでしまったとの報を受け、前よりの恋人であったシルヴィオとの結婚に落ち着いた。
 その二人の婚礼の日。なごやかな場に、一人の召使い(福田毅)があらわれる。田舎者の召使をからかう一同。だが、その召使いのある一言により、みなは混乱する。いわく「主人のフェデリーゴ・ラスポーニさんが、そこにやってきています。お目どおり願いたいそうです。」
 え? でも、だって、フェデリーゴは死んだはずでは……。
 ≪ここまで≫

 男と女の色恋沙汰と、おトボケ召使いが2人の主人に仕えることから起こる、ドタバタの取り違い騒動が描かれます。原作のストーリーがまず面白いですね。中野成樹テイストに書き換えられた(誤意訳された)脚本は、古めかしさと今っぽさが混ざり合って独特の味わいがあります。

 セリフとセリフの間(ま)や会話の組み立てが、予想通りに転がらないのがすっごく楽しいです。コミカルにデフォルメされた、ロボットのように形式ばっているとも取れる演技も、気持ちの良いところで留まる上品さがあり、驚きと小気味よさが交互にやってくるような感覚でした。

 そして衣裳が粋です!若者のカジュアルな服装に、役柄をあらわすワンポイントを追加しているのですが(例:召使はエプロン、貴族はフリル、外国人は帽子に羽など)ホントにおしゃれ♪これぞ横浜!って感じもします(勝手な先入観かしらん)。

 照明は普通の吊り照明の他に透明の電球がランダムに垂れ下がり、まるでおもちゃ箱の中のような、子供の頃に見た夢のような、レトロでロマンティックなムードも付加されます。
 装置はシンプルですが、ステージをぐるりと囲む、ゴムのように伸びる縦型ブラインド状のカーテンに動きがあって、仕掛けにもウキウキしました。小劇場ならではの醍醐味と洗練されたセンスが感じられる空間でした。

 ある人物が突然ひとりで客席に向かって心情を吐露するシーンで、普通ならその人物にサス(スポットライト)が当たるところなのですが、反対に照明を消して顔が見えないようにしていました。これがめちゃくちゃかっこ良かった!他にも、照明による場面転換や、ストップモーション(というのかどうかわかりませんが、とにかく役者さんが突然静止する時)の演出には「おぉっ!」と目を見張るものがありました。

 ここからネタバレします。

 死んだはずなのに登場したフェデリーゴの正体は、フェデリーゴの妹のベアトリーチェ(野島真理)でした。フェデリーゴを殺したと勘違いして姿を消した恋人のフロリンド(篠崎高志)を追って、男装してベネツィアにやってきたのです。なぜゆえ男装していたのかは適当な理由だったな~(笑)、まあ、女の一人旅は危ないからってことで問題ないですよね。

 いい加減な成り行きで、ベアトリーチェとフロリンドの二人に仕えることになった召使いトゥルッファルディーノ(福田毅)のせいで、お互いを探し合っている二人はすれ違い続けます。でも最後には、ベアトリーチェとフロリンド、クラリーチェ(石橋志保)とシルヴィオ(タケシタユウジ)、召使いトゥルッファルディーノと小間使いズメラルディーナ(松村翔子)の3組のカップルの結婚式が執り行われるという、いわゆるハッピーエンドが待っています。

 結婚までの道のりも結婚自体も人それぞれ。結婚するまでは大変だけれど、結婚してからの方がもっともっと大変。それでも人は恋に落ちて、家族を作り、それなりの幸せを感じながら生きていきます。心からのハッピーと作り笑いのハッピーとが絶妙に交じり合い、「悲しき哉、人類。楽しき哉、人生」と、勝手に悟って悦に入ったような気持ちになって(笑)、私の中での大団円を迎えることが出来ました。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演=中野成樹/岡田利規(チェルフィッチュ)

 7年来のお付き合いになるという中野さんと岡田さんのトークは、ざっくばらんに赤裸々に、楽しく進みました。下記、面白いと感じてメモったことです。

 中野「岡田君とは、STスポットが9団体を紹介する企画で一緒になったんです。初対面が最悪だった。こいつサイテーだと思った。」 
 岡田「え?なんで?(憶えていない) ウィングチップの靴を履いてたから?」
 中野「違うよ。照明のスタッフさんがいる前で、『そこ、歌舞伎っぽい(照明の)方がいいんじゃない?』とか勝手に言い出したじゃない。」
 岡田「あぁ、全然憶えてないや。ほんとサイテーだね。」
 中野「うん、こいつぜってー潰す!って思ったよ」

 岡田「脚本が面白いよね、っていうようなことは、ここでわざわざ話さなくていいから・・・。(例えばこの芝居のように)男と女がくっついたらハッピーなのか、それを芝居で上演して有効なのかというと、当然有効じゃないよね。僕はそういう、くっついたらハッピーみたいな芝居は嫌いだし。(なのに、中野君のは面白い)」
 岡田「僕には、中野君の作品の面白いところはわかってるんだけど、それを言葉で説明できないんだよね・・・。」

 岡田「(くっついたらハッピーみたいな世界を)ちゃかすような、バカにするような。わざとらしく、おおげさにやってみるとか。美辞麗句をぬるく、バカっぽく。」
 中野「距離感を取って、敢えてやっちゃうみたいな。」
 中野「たとえばトゥルッファルディーノとズメラルディーナの無言のやりとりなんて、昔の少女漫画みたい。なのに楽しく見られるのはなぜ?っていうところ」

 中野「確かに昔はそういう、バカにするってこと自体が好きだった。」
 岡田「今は、ひねた態度がなくなってきたんじゃない?」
 中野「昔は新劇っぽさをバカにするとか、そういうのが好きだったし、やってた。チェーホフの芝居でウォッカをわざとウォドカ!って言ってみたり。それがやりたいがためだけにチェーホフやったり(笑)。たとえば江守徹(文学座)がこんな風に(ドン!と地団太を踏んで「チっ!」と舌を鳴らす演技をしながら)脚を踏むじゃない?役者にこれをやれ!って言ったり。」

 岡田「でも今はそうじゃない。」
 中野「うん、バカにしきれなくなってきたというか。年取ったのかな。」
 岡田「素直に愛せるようになってきたんじゃないの。」

 岡田「中野君の良さって何なんだろう・・・(考えながら話している)。例えば・・・衣裳に端的に表れてる。普段着を使ってるよね。(衣裳だけに関わらず)バランスが絶妙。」
 中野「稽古が終わったら、そのまま電車に乗って家に帰れるような衣裳にしてもらってる。昔はホントに普段着だったけど、今回はワンポイントつけたりね。たとえば外国人には羽、とか、召使いにはエプロン、とか。いつか本物に近い衣裳(例えば貴族はドレスとか)でやるのも面白いかな、とも思ってる。」

 中野「岡田君も普段着を使うよね。」
 岡田「あぁ~。衣裳は、ほんとうにどうでもいいと思ってて。」
 中野「『三月の5日間』の初演で白いセーター着た人がいたんだけど、それが超ダサくって。俺はあれが大好きだったのに、再演だとなんだか洗練されていて、クソっ、なんでだよって思った。」
 岡田「あぁ、あれは僕の服なんだけどね(場内爆笑)。でも(ダサイって)わかってたから、あのまま英次くんにあげた。」
 中野「それで解決ってことね(笑)。」

 岡田「脚本は語尾を現代風に変えるとかだけじゃないよね。だいぶん変えてるよね。」
 中野「脚本は半分ぐらい書き換えてますね。」
 中野「“ですわ”とか、“ですもの”とか、“泊まってやしませんか”とかって、今は全然使わないじゃない?ああいう翻訳口調が好き。ぞくぞくする。」
 岡田「でも、その“好き”っていうのも昔とは違うでしょ?」
 中野「ああ、確かに。昔はキャッキャ言ってたんだけど、今はゾクゾクなんだよね。」

 中野「(昔の自分のように)“バカにする人”が今、世の中には多いんだけど、『なんで?楽しいのかな?』って思う。なんか(ニヤニヤと皮肉っぽく笑いながら)『わざとらしいことやってみまーす』みたいな。そういうのばかりを取り上げてるメディアにも苛立ちを感じる。使い捨てすんなよ!って。最後まで、一生つきあっていけよ!って思う。」
 岡田「いや、誰も付き合ってくれないから。絶対。」
 中野「そうか(笑)。」

 中野「むしろそういうものへの威嚇っていうか、例えば流行のレストランとかあるじゃない?そんなのじゃなくて、俺は自炊する!白米を炊いて家で食う!みたいなね。」
 岡田「(中野さんに向かって)その言い方だと損するよ。」(客席で笑いが起こる)

 中野「集団自殺とか、カルトとかを描いてる小説とか芝居とか、吐き気がする。テーマに暴力とか、セックス、エロスとか、そういうセンセーショナルなことをやってることに。平たいサブカル的なことから逃げたい。」
 岡田「(『セックス、エロスとか』と中野さんが言ったところで)あ、それ俺やってる。」
 中野「そういったものを扱わなくても 面白い演劇ができるってこと。男と女が出会って恋に落ちるとか、どうせ作るなら暖かいものを作る方が精神衛生上いいかなって。」

 岡田「大事なのは相手に届くかどうか。」

 岡田「(中野君の作品がなぜ面白いかというと)批評性があるから。(センセーショナルなことを扱う)イージーさについての批評っていうのかな。・・・こうやって俺は『俺は慧眼だ』ってことが言いたいわけなんだけどね(笑)。」
 岡田「俺のは、わかりやすい批評性だから。言葉も体も新しいし。」

 岡田「中野くんはいつもは悪口ばっか言ってるよね。」
 中野「悪口大好きだからね~。」
 岡田「だけど作品からはあまりそれは出てない。」
 岡田「悪口が単純に作品に反映されないこと。批評性が単純な回路を通っていないところ(が、中野作品の良さ)。」

出演=村上聡一/福田毅/野島真理/石橋志保(以上、フランケンズ)/篠崎高志(POOL-5)/本多幸男(第七病棟)/タケシタユウジ(Dotoo!)/松村翔子/ゴウタケヒロ(POOL-5)/中野成樹
原作=カルロ・ゴルドーニ「2人の主人を一度に持つと」 誤意訳・演出=中野成樹 舞台監督=山口英峰 照明=高橋英哉 音響協力=竹下亮(OFFICE MY ON) 美術=中野成樹 宣伝美術=青木正(Thomas Alex) 制作=コ・フランケンズ
トーク=第一夜(9/10)ゲスト:関美能留(三条会/演出家)/第二夜(9/11)ゲスト:岡田利規(チェルフィッチュ/劇作家・演出家)/第三夜(9/14)ゲスト:内野儀(演劇批評・東京大学助教授)
前売:2,500円(全席自由) ※ 9/12(木)・9/13(金)は休演日
公式=http://www.frankens.jp/

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Posted by shinobu at 2006年09月12日 01:06 | TrackBack (0)