佐藤佐吉演劇祭2006の2公演目は、chari-T(チャリティー)こと楢原拓さんが作・演出される劇団チャリT企画です。私は早稲田での公演を一度観たっきりで(それも普段とは違うテイストだったらしい)、今回がいわば本当の初対面になるのかなと思っていたのですが、パンフレットに「チャリTとしてはちょっと異色の一幕四場1シチュエーション茶番劇」とありました。また異色なのか・・・。
で、蓋を開けてみたら、なんと立派な社会派演劇だったことか!一般市民の生々しい生活風景に、政治、戦争の隠喩が盛り沢山。堂々とした主張もじんわりと沁み込ませた、とても周到に作られたお芝居でした。上演時間は1時間半弱。
楢原さんの「精魂込めて作った一作です」との言葉に、心から納得です。
※佐藤佐吉演劇祭2006レビューブログに公式レビュアー3人(私を含む)、公募モニター4人のレビューが上がっています。こまめにチェックして観劇の参考になさってください!
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レビューをアップしました(2006/10/16)。
舞台は2011年の10月、とあるコンビニの狭い狭い休憩室。安倍晋三内閣も5年目を向かえ、憲法改正の是非を問う国民投票が行われる前日です。店長候補、店員、新人(全員バイト)、そして向かいのライバル・コンビニの店長などが行き交う、現在と変わらないごく普通の若者の12時間を眺めることになります。たわいもない会話と営為に現日本が凝縮されていました。
敢えて狭く作った舞台が客席に近くて良かったです。舞台の天井際に映写される文字映像には、少しばかり具体的な政治批判が含まれていましたが、おかげでこのお芝居の主張がとてもわかりやすかったです。
ここからネタバレします。
「一生懸命働いたって時給は6年間で100円しか上がらない」という、アルバイターの生活の実態を細かく描写します。「使い捨てにされる労働力」とはまさにこのことです。休憩時間は絶対に働かない(意地でも電話を取らない)社員、ああだこうだ言ってサービス残業(無賃労働)を強いる管理職・・・普通の会社でもよくある風景です。日本社会の全体像が生々しく映されている気がしました。
店長代理(松本大卒)は「美しい職場」から「美しい日本」を作り出そうという高い志を胸に、規則違反する店員に厳しく当たります。彼は安倍晋三首相を表していますね。店長代理と取っ組み合いのケンカをする金髪の店員(高見靖二)の、「自分の美意識を押し付けるな!」っていうセリフで吹き出しちゃいました。
親の後を継いだコンビニ店長(三枝貴志)も安倍晋三首相(父が外相、祖父が首相)ですよね。政治家だけじゃなくて、どんな職業でもあるんじゃないのかな。タレントの子供がタレントになるとか、歌舞伎なんて世襲そのものです(私は世襲制度が悪いとは思っていません)。
改憲か護憲かを、○か×を書き込むことによって決める国民投票。
「どちらにしようかな 天の神様の言うとおり あべべのべ かきのたね・・・」
舞台上の有権者は、憲法を変えたら自分達の生活にどういう変化があるのか(ないのか)がよくわかっていません。友達の薦めに乗っかるか、目先の損得に揺らぐか、「どちらにしようかな」と占うか・・・そんなことでもしない限り決められない状態です。それでも明日は決めなきゃだめなんですよね、白か黒かのどちらかに。
いずれ私達にもそんな決断を迫られる日が来るかもしれません。自分で情報を仕入れて、目を見開いて、自分の頭で考えなければ。
改憲賛成派の店員(伊藤伸太朗)が撒くビラを見て、法学部学生の店員(熊野善啓)が指摘するのが痛快でした。
「憲法は国民が国に命じるものだから、憲法に国民の義務を盛り込もうとするのが、まずおかしい。」
ラストシーンが素晴らしかったです。深夜0時過ぎの休憩室で、指を銃にみたてて「バキューン」と人を撃つ真似をする店長候補(松本大卒)。それに対して撃たれた演技をしてあげる女子店員(米田弥央)と、「バカじゃないの?」という反応だけして去る男子店員(竹内洋介)。沈みかえった部屋に残された店長候補は、自分の頭に指の先を当てて撃つ真似をし、「オウッ」と言って倒れて寝てしまいます。そして店員全員がつっ伏して寝てしまっている休憩室に、店に来たお客様の声が聞こえてきます。「すみませーん・・・すみませーん。店員さん?すみませーん。」誰も起き上がらず、そのまま暗転して終演。
誰かに向けた銃は、実は自分に向けられているんですよね。SMAP『Triangle』の歌詞を思い出します。
そして内部のいざこざは外部に影響を及ぼし、この場合はお客様に迷惑をかけることになりました。結果として店の信用が落ちるという具体的な損害が出るでしょう。因果応報ですよね。また、対応をしてもらえないお客様は、戦争の犠牲になる一般市民であるとも受け取れます。
店長候補は仕事をどたキャンする店員(登場しないが、モデル業もやっている女学生)をクビにし、金髪の店員と取っ組み合いのケンカをして辞めさせてしまい、夜勤を自分ひとりでやるはめになりました。なのに、お客様を放っておいて寝てしまうのです。「自分が働いている店に誇りはないのか?」などと立派なことを店員に言いながら、自分も結局は無責任なアルバイトの立場で居続けているからなんですね。「自分は自衛軍ではない」と思い込んでいるから「北朝鮮に自衛軍を派遣する」というアイデアを口に出すパートタイマー(内山奈々)も同じですよね。
出演=松本大卒/米田弥央(カムカムミニキーナ)/伊藤伸太朗/内山奈々/高見靖二/三枝貴志(バジリコ・F・バジオ)/伊瀬尚子/熊野善啓/竹内洋介/楢原拓/小杉美香
作・演出=楢原拓 (chari-T) 音楽=YODA Kenichi 照明=伊藤孝(ART CORE design) 照明操作=小川英士 音響=島貫聡 舞台装置=高見S二 衣裳=小杉美香 スライドCG=楢原拓 宣伝美術/BLOCKBUSTER 舞台写真=宮木和佳子 舞台監督=甲賀亮 舞台監督補=鴫山知広 制作協力=田中有希子(Carpe Diem) 制作=チャリT企画
前売=2500円(全席自由・日時指定整理番号付き) 当日=2800円 中高校生グループ割引=3名で3900円(要予約・生徒証掲示)
公式=http://www.chari-t.com/
佐藤佐吉演劇祭2006まとめ=http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2006/0830030836.html
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