パリにあるジャック・ルコック国際演劇学校の卒業生が結成した、国際演劇集団・アユリテアトルの日本初公演。演劇教育(俳優養成)にとっても興味がある私にとっては見逃せない公演でした。
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内容は「桜の森の満開の下」(坂口安吾作)と「ペール・ギュント」(イプセン作)の二部構成。俳優とは、言われたことを上手にできる人ではなく、自ら創り出す職業なんだということを、見せ付けられました。
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レビューをアップしました(2006/10/30)。
この2~3年で海外の舞台作品に触れる機会が多くなり、舞台俳優の演技にもたくさんの種類があることが、最近になってやっとわかってきました。私には上手いとか下手とかはよくわからないのですが、今作での役者さんは身体と感情とが直結している状態が大前提で、その生きた感覚を味わえたことが何よりの収穫でした。
■「桜の森の満開の下」
セリフがなく、身体表現のみで「桜の森の満開の下」の世界を表現します。登場するのは鬼であり桜の妖精でもある女(近藤春菜)と男(ジョージ・マン)のみ。下手では太鼓と鈴、トランペット(のような金管楽器?)の生演奏があり、出演者とアイコンタクトをとりながら息のあった空間を作ります。
手と手が柔らかく触れ合って、互いの身体をいたわり、優しく交わっていく様に目を奪われました。これは目だけで味わうものではないですね。二人の肌触りが私の手にも伝わってくるほど生々しかったです。舞台芸術は全身で観賞するものだなと実感できました。
男と女の出会い、駆け引き、調和、権力争い、戦争、別れ・・・。異性というより異物同士の接触、交流、破壊を見ているようでした。それが男女の恋愛、性愛とも重なって、とてもエロティックです。
男に一度は心を許したかのように見せた女が、何らかの致し方ない理由で男から離れなければならないと判断し、男に背を向けます。そうすると男はもっともっと強い気持ちで女を求め、追いかけるようになるんですよね。うっとりするような男女の甘い恋の駆け引きでした。実はしたたかな生存競争だとも解釈できますよね。言葉(セリフ)を使っていないことで想像はどんどん膨らみました。
■「ペール・ギュント」
イプセンの詩劇『ペール・ギュント』を5人の俳優の身体を使って表現します。「桜の森・・・」とは違って、役者さんが観客の方を向いて物語の説明もします。人物やトロル(精霊・魔物)などの生き物はもちろん、森、海、風などの自然現象や、ドア、船などの物体もすべて身体で表すのは見ごたえがありました。
「ペール・ギュント」は市村正親さんの舞台で拝見したことがあります。今作品では大胆に原作を構成・脚色していますが、その解釈に共感しました。ペール・ギュント(ヨハン・ウェスターグレン)という一人の男の人生を通じて、人間とは、自分とは何かというテーマに迫ります。下記は心に残ったセリフです(正確ではありません)。
「What is normal?」
「自分の外側から出たら、どんな感じがするんだろう?」
「自分は、自分を想ってくれる人の中にある。」
舞台上で演技をしていること自体が、「ここに存在すること」「自分ではない何かを演じること」「ありのままの自分を見せること」などに直接つながっていることが、この作品の大きな意義だと思います。それはペールの自分探しともぴったり重なります。
「お前は自分自身の人生を生きてこなかった。そういう無駄な魂は溶かしてしまうよ。」と、何者かが魂を奪いにやってきますが、ペールは自分をずっと待っていてくれたソルヴェイグ(近藤春菜)のおかげで、自分の在り処に気づきます。その途端に魔物(?)は去っていってしまうのです。自分自身へと戻ることは、神様にも止められないのだなと思いました。
ソルヴェイグが何十年もの間ペールを待っていたという結末は、現代人にとっては信憑性がないかもしれません。でも、実際に恋人や妻が待っていたと思わなくても良いんじゃないかしら。ソルヴェイグとの愛の思い出でもいいし、育った家や土地、愛した場所でもいいと思います。自分自身に帰るきっかけにさえなれば。
≪全体の感想≫
1シーンや演技・演出の一部分を見れば、すごく繊細で美しかったり、躍動感にシビれたりできるところがあるのですが、全体としてはストーリー説明に力を入れすぎているように思いました。また、笑えるであろうシーンで笑えなかったのが残念。
構成・演出は「桜の森・・・」の女役および「ペール・・・」のソルヴェイグ役を演じた近藤春菜さんが手がけられています。演出に徹する人がいらした方が、作品全体の完成度は高くなるのではないでしょうか。ただ、出演する役者さん全員で創作することがアユリテアトルの主旨だとすると、難しいですよね。
ジョージ・マンさん。「桜の森・・・」の男役など。気持ちと身体とが柔らかく結ばれていることがわかりました。愛嬌があって可愛らしい方でした。
中澤聖子さん。トロルの王女役など。長細い手足のきびきび、のびのびとした動きが美しかったです。美人でコメディ・センスも素敵。
"THROUGH PEER GYNT" ノルウェー王国大使館後援 イプセン没後100年記念作品
≪ティアラこうとう・江東区公会堂、新宿スペース107≫
出演=ヨハン・ウェスターグレン(Johan Westergren・アユリテアトル)/近藤春菜(アユリテアトル)/ジョージ・マン(George Mann)/中澤聖子/田坂和歳
構成・演出=近藤春菜(アユリテアトル) 監修=パオラ・リッツァ(Paola Rizza ・ルコック国際演劇学校 講師) 舞台監督=伊東龍彦 照明=佐々木真喜子(ファクター) 音響=上妻圭志(SEED) マスク造形=イングリッド・アスペリ 演出助手=倉井まりこ 宣伝美術=田坂和歳/一ツ橋美和 制作=和田小太郎(不消者〈けされず〉)/一ツ橋美和 制作協力=田中絵美(J-stage Navi) プロジェクト・ディレクター=近藤隆雄 推薦=正嘉昭(演劇教育連名委員長) 後援=ノルウェー王国大使館
全席指定3500円
公式=http://www.ahuritheatre.com
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