東京デスロックは多田淳之介さんが作・演出される劇団です(劇団プロフィールはこちら。過去レビュー⇒1)。私は多田さんが演出された公演のポスト・パフォーマンス・トークに、ゲスト出演させていただいたこともあります。
「実験的な作品を創る若手」というイメージが完全に定着したかのように思える多田さんですが、今回も洩れなく“実験的”でした。好みが分かれるというより、嫌いな人は大嫌いかもしれませんね(笑)。私は大好きでした。
レビュー⇒ウイイレ8日記の終わりとハードボイルドワンダーランド(ハイバイ代表の岩井秀人さんのブログ)
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レビューをアップしました(2006/10/27)。
テーマはREBIRTH, REPLAY, RECYCLEということで、タイトルが『再生』。文字通りのことが舞台で起こります。約1時間30分の、全くもって“困っちゃう体験”です。
ポスト・パフォーマンス・トークで観客から「実験的な作品をいつも創られる多田さんですが、お客さんのことは何だと思ってるんですか?」という質問が飛び出したほどです(笑)。そしてそれに対する多田さんの答えは、「(僕の作品を)面白いと思ってくれる観客はいるはずだと思っています。これを面白いと思ってくれる観客に出会いたいと思っています。」とのこと。
生きている一瞬一瞬は決して繰り返すことができないということ。つまり命はかけがえがなくて、だからこそ美しく、人間は幸せを求めて生きて良いということ。死の側から生を見つめることで、それが舞台上に体現されていました。
ここからネタバレします。これからご覧になる方は決してお読みにならないで下さいね!
舞台は畳がびっしり敷かれただだっ広い部屋。奥には大きなスピーカーが2台あり、その間に白いiPodがちっちゃく鎮座しています。行われるのは若者達がノリにノって歌いまくって踊りまくる、どんちゃん騒ぎの大宴会。大音量でガンガンにかかるのはTHE BLUE HEARTS※、RCサクセション 、モーニング娘、電気グルーヴなど。ぶっちゃけてしまうと、そのキチガイじみた熱狂的な飲み会が、3回繰り返されます。舞台で起こるのはそれだけと言ってしまっても良い作品です(幕開けと終幕前に何かしら事件はありますが)。
※ブルーハーツではなくハイロウズ「不死身のエレキマン」 でした。ご指摘くださった方、ありがとうございました!(2006/10/29)
2回目の宴会が始まった時、「これはそのまま繰り返すんだな」とわかります。観客の頭に浮かんだのは「何回繰り返すんだ?」「いったいどうやって“終わる”んだ?」ということだったでしょう。私もそうでした。1回目と同じ動き、同じセリフを繰り返して、どんどん汗だくになっている役者さんを呆然と見つめながら、「私にはこの作品を理解できないかもしれない・・・。」と少し怖くなってきました。
3回目になると話している内容の細かい部分も、次に言うセリフもわかってきます。実は照明が徐々に青白く明るくなっていたんですね。狂喜乱舞する若者に強烈な死の影が映ってはじめて、空間の見え方の変化に気づきました。
そして、1、2回目と同様に「ラストダンスは私に」のゆるやかなリズムに合わせて男女のペアが幸せいっぱいに踊り始めた時、涙がぼろぼろと溢れてきました。なんて、なんて美しいんだろう・・・。何度繰り返しても対話は、触れ合いは、恋愛は、素晴らしい。それは決して同じ瞬間がないからだ・・・。同じセリフだけど違う声、同じ方向の動きだけれど全く違う演技、紅潮した頬、滴る汗、床に増えていくティッシュペーパー・・・。生身の人間が同じ動作を3回繰り返す1時間30分を具体化したことで、命はその時、その場所にしかないこと、人生に同じ瞬間は絶対にないことを観客に示しました。
最後は唐突に全員が血を吐いて死んでしまいます。役者さんの口から血のりが床にボトボトとこぼれ落ちて、取り返しのつかない状態、つまり“覆水盆に帰らず”な事態になります。ここでオープニングを思い出しました。一人の女性が近未来の日本のニュース(ネット心中が増えていること、自殺者が4万人を超えたこと、廃棄物処理場よりも火葬場の方がダイオキシンの発生量が多いこと、代理母出産の失敗・成功、クローン人間の談話など)を読み上げていたのです。舞台は近未来の日本で、若者達は心中するために座敷に集まっており、宴会を繰り返す直前に全員が飲んでいた錠剤(?)は、記憶を消す、もしくは同じことを繰り返させる毒だったのかも、と予想できます。
この演出についてはちょっと残念な気もしました。舞台上の人物全員が血を吐いて死ぬことで、作品に最初と最後が与えられ、1時間30分という時間を描いたお芝居になってしまったからです。永遠に繰り返すとか、時間の概念を飛び越えるとか、もっと挑発的な印象で終わっても良かったんじゃないかと思いました。「他の方法は?」と問われても、私にはアイデアがないんですけどね・・・。
オープニング映像にiPodのCMが使われていたり、舞台上にiPodがあったりしたので、私はデジタル化された音楽の複製(コピー)のイメージから、複製される人間(クローン)、代替可能な人生、消費される単純労働を示唆しているのかと思いました。※ポスト・パフォーマンス・トークで質問したのですが、そういう意図はなかったそうです。残念。
そういえば終演時に白iPodが黒iPodに変わってたのが可愛かったな~。
いつかここで流れていた音楽を耳にしたら、この作品のことばかりを思い出してしまうと思います。映画「時計じかけのオレンジ」みたいですよね(笑)。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演=多田淳之介(東京デスロック)/山内健司(青年団) 司会=佐山和泉(東京デスロック)
多田「いろいろ考えたいことがあるんですが、僕は演出家だから、演劇を使って考えようと思った。」
多田「(舞台に居る彼らは)楽しいことだから、やっている。」「死ぬから繰り返す。」「俳優が疲れることを利用しようと思った。」
山内「チェーホフの脚本は、登場人物の名前の下に(死ぬ)って書いているような気がしていて。人間は誰もが死ぬんですけどね。この作品も役の名前の下に(死ぬ)って書いてそう。」
出演=夏目慎也/佐山和泉/石橋亜希子(青年団)/佐々木光弘(猫★魂)/宮嶋美子(風琴工房)/円谷久美子(徒花*)/美館智範/山形涼士/坂本絢
作・演出=多田淳之介 舞台美術=袴田長武(ハカマ団) 照明=千田実(CHIDA OFFICE) 音響=薮公美子 宣伝美術=多田淳之介 運営=斉藤由夏 制作協力=水川奈津美 企画・製作=東京デスロック 協力=(有)アゴラ企画・アゴラ劇場/青年団
9/15予約開始 予約2300円 当日2500円
公式=http://www.specters.net/deathlock/
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