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2006年11月12日

【レポート】国際シンポジウム・演劇芸術を考えるシリーズ2『「インスピレーションへの道」観客のこころを揺さぶる鍵、インスピレーションとは何か?』11/11東京芸術劇場5階大会議室

 東京ノーヴイ・レパートリーシアターが主催する演劇のシンポジウムです。「インスピレーションへの道」というタイトルで日本、ロシア、アメリカ、韓国などで活動する多彩なパネリストを招いた、刺激的な内容でした。

●パネリスト(順不同・敬称略)
 【日本】伊藤憲(テレビ・ドキュメンタリーディレクター/「島ノ唄」映画監督)
 【日本】鐘下辰男(演劇企画集団THE・ガジラ主宰/脚本・演出家)
 【日本】鎌田東ニ(京都造形芸術大学教授・宗教哲学/神道ソングライター)
 【ロシア】セルゲイ・ヤーチン(極東国立技術大学文化学部部長・哲学者)
 【ロシア】レオニード・アニシモフ(東京ノーヴイ芸術監督・スタニスラフスキー研究者)
 【韓国】イー・ジェー・サン(インチョン アートカルチャーセンター プロデューサー・芸術監督)
 【アメリカ】ポール・レイヤー(シアトル ノーヴイ・レパートリーシアタープロデューサー・芸術監督)
 司会:広田豹(俳優)

■第1部 11時~14時 
 午前中に外せない用があったので、1時間ほど遅刻して到着しました。なので鐘下辰男さん、鎌田東ニさん、レオニード・アニシモフさん、伊藤憲さんのお話は聞けず。
 下記、メモしたことのまとめです。

○伊藤憲
 「違和感を(消さずに)持ち続けることが大切。いつかそれが何かにつながる。」

○セルゲイ・ヤーチン
 「創造(クリエーション)には3つの段階がある。下記の3つを全部あわせたものが“創造”である。
  1インスピレーション(人間的レベル・心の状態)
  2原稿(形になったもの・シンボリックレベル・象徴的・記号的)
  3販売(展覧会で見せるなど)
 1のインスピレーションが熟練によって形作られ、本物の芸術が生まれる(2になる)。熟練とは記号化することのできる技術(絵筆さばき、楽器を使いこなせる等)。順番が逆だが、熟練からインスピレーションが起こる場合もあり、それを手法とするのがスタニスラフスキー・システムである。
 3はいわば社会的、制度的レベル。作品を展示したり、小説を印刷したりする段階。創造とは作っただけで終わりではない。
 その段階から芸術(作品)が、アーティスト本人から分離されて独自の道を歩き始める。そこに問題が生じることがある(1から2、2から3の間の過程に問題が生じる)。3の販売だけを目指してしまい、本来の芸術のあり方からはずれることがあるのだ。アーティストが観客に自分のインスピレーションを伝える・与えることが、芸術の本質である。本来の創造の道を正しく進んでいけるようになるには、インスピレーションが大切(インスピレーションを大切にすることが大切)である。

○イー・ジェー・サン ←ワイルドでハンサム♪
 「インスピレーションは全ての人間が持っている。人間の本質であり、疎通のための通路である。それは直感とも呼ぶ。」
 「自分は演出家だが、俳優には2つの大切なことがあると思う。1つは、疎通と衝突。真実の姿に近づくこと(インスピレーションが得られる状態になること)。そこまでが準備段階である。鐘下さんもおっしゃっていたが、稽古場では社会道徳やタブーを壊すことが重要である(これが2つ目)。インスピレーションの道を探すことではなく、本人がその通路になるということ。役者はその準備段階を経て演技をする。演技とはひとつの世界の形を表すことなので、インスピレーションを探すのではなく、インスピレーションの通路になるべきである。」
 「考えたり悩んだりせず、心の状態に近づくことを、役者にはやってもらう。韓国人は、悪いことを心に思うことは罪だと考える性質だが、(それは棚に上げて)心のままに動くことが大切。“とりあえずやってみろ”と言うことにしている。」

○ポール・レイヤー
 「アメリカの劇場の現状について話して欲しいといわれたので、それを話します。1930年にグループシアターという団体がスタニスラフスキー・システムに基づいて誕生した。彼らはスタニスラフスキーのもとで学んでいたメンバーだった。インスピレーションの芸術を教えていたが、メンバーが少なくなっていって徐々にスタニスラフスキー・システムの倫理も少なくなり、伝わらなくなっていって、今では消え去ってしまった。
 今のアメリカの演劇には2つの方向性がある。1つは俳優と演出家が独自の活動をしているが、方法をわかっていない状態。2つは俳優と演出家がたくさんのお金をつぎ込んで(例えば大学に)創造的な芸術を作り出せない状態。そしてこの2つ同士が戦っており溝が深まっている。1は努力しているが、2は金の成功を求めて活動をしている。
 2つともに足りないのは、創造的インスピレーションを満たす倫理。その倫理の不足は国に影響を及ぼしており、(演劇芸術が)観客を癒す力をなくしている。
 私達は地域にいい影響を与えたいと思っている。演劇の癒しの力を、俳優と演出家が社会に与えられるかどうかは、創造的インスピレーションの強化にかかっている。
 多くの人がそれぞれのインスピレーションを探す道を持っており、今ここで様々な方の意見を伺えたことはとても貴重だった。感謝します。」

○鎌田東ニ(帰り際にひとこと)
 「『直感を信じろ』という言葉がよく聞かれますが、それこそ芸術の根本だと思います。インスピレーション=直感と言い換えてもいいし、直感=身体とも言えると思う。つまり直感=身体=芸術である。(芸術については)身体のトレーニングに尽きます。」
 「ニーチェが重要なことを言っている。『デカルトが精神と理性を分けてしまったが、身体こそが理性である(早口で聞き取れず?)』大きい理性=身体、小さい理性=精神。身体と精神は一体。」

 「伊藤さんの映画『鳥ノ唄』を拝見しましたが、詩人の吉増さんが転ぶシーンで始まります。不安定なところに身を置いて生きているということが大切だと思う。」
 「最後のシーンは吉増さんの足の裏のアップでした。私は歌を歌いますが、歌はどこで歌うのか。のど、心、腹など色々言われるが、私は足の裏で歌うと思っている。足の裏が呼吸していないと歌えない。足の裏が何かを引き上げているような、足が大地からパワーをもらうような。そうでなければ自分がいい楽器としていい響き方をしない。足の裏がその状態になるようにトレーニングしています。足裏唱法を名づけました。」
 「(トレーニングは)毎日しなければいけない。短い時間でもいいから。私達は空気を吸ったり食事をするのは毎日やってます。欠かさず、無意識に。止めるのは死ぬ時です。だから止めずに続ける。血肉になって身体が勝手に反応するまで。」
 「祭りということについて。まつりのまつは『待つ』。祭りの一番いいところは待つこと。待つことが何より大切。自分をクリアな状態にして、ただ待つ。」
 ほら貝の演奏を披露してくださって退場。魅せられました。ものすごく面白い人だと思いました。

 ちょっとばかしのクロストークの時間がありました。

 セルゲイ・ヤーチン「インスピレーションを持たない人間などいない。役者について言えば、自分にインスピレーションがなくとも、役柄にはある。それを観客に伝えている。舞台では台本、演出、役者を通じて客に何か(インスピレーション)が移行している。」

 広田豹「霊感、インスピレーションなど、言語によって言葉が違いますが、それらはひとつのもの(インスピレーション)を差しているのでしょうか?違うものなのでは?」
 レオニード・アニシモフ「ひとつの意味を表すのに、それぞれの言語によって違う名称がつけられているが、どんな言葉にも言葉を生み出す泉があり、それは共通のはず。さまざまな文化がある中でもインスピレーションは共通の経験だと思う(だから同じ意味だと思う)。」

 伊藤憲「僕はインスピレーションという言葉はちょっと種類が違う気がしていて、言葉にすること自体が(日本語を使う者としては)ズレがある気がする。例えば僕の場合は『・・・来た!』というような言い方をする。つまり名指しできないものではないか。考えないで沸いてくるもの。日本語の特性かもしれないけれど。また、つらい時ほど、その『来た!』という感覚はやって来やすい。頭で考えてはだめ。」
 伊藤憲「奄美大島は空気が全然違う世界でした。太陰暦で動いているし。(その場所を)知って、身を置いておくことが大切。」

 鐘下辰男「他者と関わらない限り、インスピレーション(と呼ばれるもの)は生まれない。自分の意志を出さなければインスピレーションは生まれない。」
 鐘下辰男「“言葉のキャッチボール”という言葉があるが、その名の通りキャッチボールをしてしまうと、自分の意志をありのままに出せない。だってキャッチボールは相手が受け取りやすいボールを投げあうものだから。だから私は(対話とは)テニスだと言うことにしている。」
 鐘下辰男「他にも『芝居を一緒に作り上げることでひとつになる』など、インスピレーションを阻害する言葉はそこらじゅうに転がっている。ひとつになることを目的にすると、たいていの日本人は自分を抑える(意見を言わない)ようになる。」

 1時間の食事休憩。

■第2部 15時~16時30分 
 東京賢治の学校という学校をつくり、教師をされている鳥山敏子さん(NPO法人東京賢治の学校 自由ヴァルドルフシューレ代表)のお話でした。ドイツのシュタイナー教育(全世界に約200ヶ所、日本に7~8箇所)にもとづいた授業を行っている学校だそうで、日本の義務教育に疑問を持った人が独自に模索・努力しながらひとつの考えを形にされていることを実感できました。すごいことだと思います。

 「(シュタイナー教育では)何が起こるかわからないところに、自分を賭けることが大切。」
 「7歳までは覆いが必要。全てがおとぎ話、物語の中のこととして受け取られて良い。子供がそのままの姿でいても良い期間。だから幸せ。そしてゆっくり外に触れさせていく。木が自然に大木になるように。意識が少しずつ外に向かっていく。」
 「子供は神々しい存在。カリキュラムどおりに学習は進むが、無理矢理では決してない。自然にやりたいことの続きをやっているだけ。」
 「今のために、今、表現をするために生きて学んでいる。将来のために(受験、試験など)・・・とからめとられていかない。」

 鳥山さんは30年間の教師経験がある方で、その発言には経験に裏づけられた強固な意志が感じられ、迫力の有る女性でした。授業には演劇が大きく組み込まれています。東京賢治の学校にも、その教育方法にも、そして生徒達にも興味が沸きました。
 ただ、「演劇関係者が、あまり演劇に興味のない人に演劇の素晴らしさを伝える時に陥る罠」に、まさにはまってしまっているように感じました。正確に、余すところなく伝えたいと強く思うばかりに、「~~という意味ですか?」という質問に、ことごとく「違います」「そうではないのです」と答えてしまうのです。それは正しいし、やむを得ないという気持ちもわかるんですけど・・・ね。私自身がそこにハマってしまった経験が多々あるので、痛いなーと思いながらお話を聞きました。

 シンポジウム終了後に東京ノーヴイ・レパートリーシアター本拠地(下北沢)でのパーティーもあったのですが、体調が悪くなってしまったので参加を断念。お芝居のお稽古と同じですけど、人間同士が長時間ただ一緒に過ごすことは、それだけで有意義で大切なことだと思います。
 司会をつとめられた俳優の広田豹(ひろた・ひょう)さんは、たぶん私が今までに観た「司会」と言う存在の中でNo.1の人物でした。

 全体の感想としては、とにかく行って良かったです。あるひとつの事柄について色んな国の色んな人が、率直に自分の考えを発表する場に居合わせられたのは、とても幸せなことでした。こういうイベントがもっと頻繁に行われ、開かれた場になって行くといいなと思います。今の日本人には馴染みのない、ちょっと苦手な部類のコミュニケーション方法かもしれませんが、私も努力したいと思いました。

パネリスト:伊藤憲(テレビ・ドキュメンタリーディレクター/「島ノ唄」映画監督)/鐘下辰男(演劇企画集団THE・ガジラ主宰/脚本・演出家)/鎌田東ニ(京都造形芸術大学教授・宗教哲学/神道ソングライター)/鳥山敏子(NPO法人東京賢治の学校 自由ヴァルドルフシューレ代表)/【ロシア】セルゲイ・ヤーチン(極東国立技術大学文化学部部長・哲学者)/【ロシア】レオニード・アニシモフ(東京ノーヴイ芸術監督・スタニスラフスキー研究者)
ゲスト:【韓国】イー・ジェー・サン(インチョン アートカルチャーセンター プロデューサー・芸術監督)/【アメリカ】ポール・レイヤー(シアトル ノーヴイ・レパートリーシアタープロデューサー・芸術監督)/ヨーコ・レイヤー(シアトル ノーヴイ・レパートリーシアター・俳優)/コリン・ボーガン(シアトル ノーヴイ・レパートリーシアター・俳優)/ロバート・ベルトチーニ(シアトル ノーヴイ・レパートリーシアター・俳優) 司会:広田豹(俳優)
参加費:無料(先着100名・要予約)
東京ノーヴイ・レパートリーシアター=http://www.tokyo-novyi.com/

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Posted by shinobu at 2006年11月12日 00:56 | TrackBack (0)