演出家であり、グレイアイ・シアター・カンパニー(GRAEae Theatre Company)の芸術監督であるジェニー・シーレイ(Jenny Sealey)さんのワークショップです。公式サイトに“障害・表現のかたち・ことば...ちがいを越える演劇ワークショップ! ”とありますように、今回のワークショップ参加者15人は、障害を持つ人と持たない人(健常者)がほぼ半々でした。ジェニーさんご自身が聾者(ろうしゃ・聴力障害者・Deaf)で、イギリスで身体障害のある俳優とともに活動されています。
障害とは個性であるとはっきり気づくことができ、さらに俳優であるために絶対に必要な、とても大切な条件も確認することが出来ました。あまりの感動に私は涙が流れるのを止められず(迷惑な見学者ですみません)・・・。
⇒BACK STAGEに「エイブル・アート・ジャパン」事務局長の太田好泰さんのインタビューあり!
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レポートをアップしました(2006/11/15)。
私は普段の社会生活で障害を持つ人と関わる機会があまりありません。今日お邪魔したワークショップは、障害を持つ人と健常者とが完全に平等(equal)な状態で、一緒に創作をする場でした。今までぼんやりと知らないままにしてきた人間のコミュニケーションの本来の姿について、ガツンと目を覚まさせられることになりました。
まず、このワークショップにはイギリス人と日本人がいるため、最初に言語の壁があります。さらに目が見えない人、耳が聞こえない人、知的障害のある人などがいるので、会話の進め方が複雑になります。ジェニーさんの英語をさつきさんが日本語に訳し、さつきさんの日本語をよなさんが日本語手話にして、参加者に伝えます。そして参加者の日本語をさつきさんが英語に訳し、さつきさんの英語をジェニ(Jeni)さんが英語手話にして、ジェニーさんに伝えます・・・・ひとつのことを伝えるために、同時多発的にさまざまな伝達方法が使われました。
それでも、時間がかかるな~と思ったのは最初の小1時間だけでしたね。参加者それぞれが自主的に(勝手に)協力し合い、調和するようになるので、意味が柔らかくとろけて、空間にしみこんでいくように感じました。ひとつの意味をこれだけじっくりと多人数で味わいながら理解・吸収する方が、言葉の羅列を頭脳だけで咀嚼(そしゃく)しようとするよりも、正確で早いのではないかと思いました。
障害の有る人と健常者という分け方をして観ていたのも最初のうちだけでした。ぎこちなく見えていた脳性まひの方の手の動きが、面白い曲がり方をする手と腕、つまりダンスの振付のように見えてきました。同時に健常者の人たちの動きも、一人ずつのクセが際立って見えてくるようになり、その人独自の個性として認識できるようになりました。そうなってくると、全員の佇まいをつぶさに眺めているだけで、楽しくって仕方がなくなるんです。静かに立っている人も、車椅子に座っている人も、言葉に真剣に耳を傾けて頭をフル回転させている人も、みんな一人一人が独立した、独特な人間で、かけがえのない個性を持った人たちだということを、まざまざと見せつけられました。
こういうワークショップで通常、一番初めに行われるのは、参加者の名前を覚え合うエクササイズやゲーム(的なもの)です。このワークショップでは、自分が呼ばれたい名前(アルファベット文字&音読)と、身振りによるサインネーム(手話の名前)が1セットになっており、一人ずつ順番に自己紹介をしていきました。たとえば「私の名前はSATSUKIです。サインネームは両手を、手の甲を上にして胸の前に伸ばします。そして両手の指でキーボードを打つ動きをします。」と言いながらその動作を見せます。そしてそのサインネームにした理由を話します。さつきさんの場合は「いつもパソコンの前でキーボードを打って仕事をするから」でした。
自分の名前と自分を表す身振り、そしてその身振りの理由となる自分自身の特徴、経歴などを話すと、他の全員が自分のことを憶えよう、知ろうとしてひたむきに見つめてくれます。およそ20人の他人から興味深々のまなざしで注目されて、時には質問もしてくれるなんて、人生においてそれほど頻繁には起こらない、とても幸せな瞬間ではないでしょうか。
私は「あなたには名前がある。あなたには特徴がある。あなたには好みがある。あなたには望みがある。あなたには家族がある。あなたには・・・あなた特有の、無数の、個性がある。」と、皆が優しく言ってくれているように感じて、涙が溢れました。
また、ジェニーさんとジェニさんにわかりやすいように、サインネームの意味をごく簡単な英語の一単語にすることになったのですが、皆さんの言葉の変換の速さと適応力は驚くほどでした。“stressful”っていうのが面白かったな~(笑)。
サインネームの特徴が似ているかどうかで全体を3つのグループに分けて、それぞれで演劇作品を作って発表することになりました。使う材料もサインネームです。サインネームには意味と動き、ものによると物語さえも含まれているので、そのまま演劇になるんですね。「人間がそこに居る」という、ただそれだけの事実の中に、すでに立体的な物語が存在することを知りました。「人ってなんて素晴らしいんだろう。」恥ずかしいぐらいありきたりな言葉ですが、本当にそう感じました。
ジェニー「最初は抽象的なものになるかもしれませんが、皆さんの中に何かがあれば、伝わります。」
確かに一番はじめの作品はサインネームを羅列するだけの抽象的なものもありました。やはり初対面ですし、グループ内のコミュニケーションに戸惑いも見えていました。でも一度目の発表が終わって二度目の創作段階になると、緊張が取れて全員が積極的になっており、しどろもどろだった対話が突然ものすごく円滑に、活発になっていました。あまりの変化に驚きました。きっと創作、発表という体験を共有したからですね。「人間はなんて柔軟で、可能性に満ちているんだろう」と、また感動。
2度目の発表は1度目とは比べ物にならないほど、演劇的魅力に溢れた作品が揃っていました。たった一言(サインネーム)からものすごく豊かなコミュニケーションが生まれるのを目撃しました。
グループ創作発表の後は、障害の有る人と健常者とが二人一組になって自己紹介をし合いました。自分の生活・人生についての特徴3つと、自分の身体的(目に見える・触るとわかる)特徴3つを、相手に交互に伝え合います。例えばジェニーさんの場合だと「私は耳が聴こえなくて、歳を取っていて、12歳の息子がいます。」となります。
健常者が障害の有る人に意味を伝えるには、ただしゃべるだけではなく、通訳を介したり身振りを加えたり、時には相手の身体を触ったりもします。また、障害の有る人の言葉は、ただ受身になっていてはしっかり聞き取れません。言葉や身振りの指し示す意味がわからない時は、聞いている方から色んな質問をする必要があります。とてもスムーズに、ほとんど無意識に、双方向のコミュニケーションが生まれていました。
健常者同士が社会生活において自己紹介をし合う時に、こんなに笑顔がいっぱいになることって・・・あまりないことだと思います。お互いに相手を知りたいと思い、自分のことを知って欲しいと思い、それを相手に伝えようとした(意志のベクトルを相手に向けた)時、人間は純粋に相手を求める状態、つまり相手を愛していることになるのだと、私は考えます。愛し合う2人の人間が、私の目の前にいっぱい居ました。
人間の幸せって、つまりこの状態のことなのではないでしょうか。障害の有る人と健常者とは、キリスト教信者とイスラム教信者、中国人と日本人、上司と部下、親と子、男と女・・・と同じことです。かけがえのない個性を持つ人間が集まって、満面の笑顔でお互いを気遣いながら気持ちを伝え合う・・・天国というものがもし存在するなら、この場所こそ天国だと思いました。
自己紹介が終わってお昼休みになる前に、ジェニーさんが一言おっしゃいました。
ジェニー「声や身振りなど色んな種類の伝達方法が使われていましたね(良かったです)。俳優として皆さんは、自分が誰であるのか(WHO YOU ARE, WHAT YOU ARE)に正直(OPEN AND HONEST)でなければなりません。」
ハっとしました・・・。確かに自分の特徴を相手に伝えようとしている時、参加者の皆さんはものすごく純粋な状態でした。たとえば「私は6人家族です」という情報に嘘はなく、それを相手に伝えようと真剣でした。
ほぼ毎日のように劇場に通う私は、架空のキャラクターを大げさ目に創り出し、突飛さでウケを狙ったり、目立つことに夢中になったりする役者さんを大勢観てきました(今も観続けています)。私はそういう役者さんには魅力を感じなくなっています。私が観たい、感じたいのは、ありのままの人間のOPEN AND HONESTな対話です。そこから観客と作り手とのOPEN AND HONESTなコミュニケーションも生まれるのだと思います。
また、社会生活において私達は、このワークショップの参加者のように心を開いて正直でいられるわけではありません。そもそも初めて出会った人に出身地や住所、家族構成などを話すことって少ないですよね。相手のことを慎重に探りながら、どこまで本音を話せばいいのか迷いながら、恐る恐る会話をすることがほとんどだと思います。それってすごく寂しいことなんだなと思いました。自分と相手を信じて愛すれば、ほんの一歩、前に進めば、人間はいつでも誰でも、瞬時に幸せになれるのだと思いました。
午前11時から13時までの2時間だけお邪魔して、お昼休みの後、すぐに失礼させていただきました。こういうワークショップはできるだけ長時間、同じ場所で同じ空気を味わうことが大切だと思っているのですが、私自身が飽和状態になってしまい、これ以上この場に居たら、2時間の間に感じ取った数々の奇跡を書き残せなくなってしまうと感じたからです。目の前で幸せが生まれ続ける奇跡の連鎖を、できるだけ正確に記録して伝えたいと思い、こうしてレポートを書いてみました。
ジェニーさんをはじめ参加者の方々は、もちろん最初の2時間で満足などしていません。今回のワークショップの最終目的地は、テキスト(戯曲『血の婚礼』)を使った創作です。きっとドラスティックな変化がどんどん起こって、コミュニケーションは加速・拡張していったことと思います。
ワークショップ・リーダー=ジェニー・シーレイ(Jenny Sealey) 通訳(英語⇔英語手話)=ジェニ(Jeni) 通訳(日本語⇔英語)=さつき 通訳(日本語⇔日本語手話)=よな
主催:エイブル・アート・ジャパン/明治安田生命保険相互会社 助成:ブリティッシュ・カウンシル/グレイトブリテン・ササカワ財団
両日とも11:00-17:00 定員16名 料金6,500円(全2日間)参加条件:高校生以上で2日間参加可能であること。障害のある人は、舞台芸術活動を実際に行なっている、または行なおうと考えていこと。障害のない人は、舞台芸術活動を実際に行なっていること。
エイブル・アート・ジャパン=http://www.ableart.org/
エイブルアート・オンステージ=http://www.ableart.org/AAonstage/AAOindex.html
企画公式=http://www.ableart.org/AAonstage/tobiishi.workshop.4.html
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