昨年末の『海賊』以来のグリングの新作で、初・紀伊國屋ホール進出公演です。作・演出の青木豪さんは今年もいろんなところで活躍されましたが(レビュー⇒1、2)、グリング主催は今年はこれ1本だけなんですよね。開幕したとたんに前売りチケットが完売し、当日券に列ができていた人気公演でした。
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舞台はカトリックの教会。神父と神父の家族、信徒らが集い、等身大の庶民の生活が描かれます。和気あいあいとたわいもない会話が交わされる穏やかな日常に、ぴったり隣り合わせになっている死の存在を、残酷なほど生々しく感じさせられました。青木さんの視点は本当に鋭いなと思います。無意識に生きているこの平凡な日々こそ命懸けなんですよね。
私たち人間は「いつ死ぬかわからない」のですから、死が常に生の隣り合わせになっているのは当然のことです。でも普段はそんなことは忘れて生きていますから、突然襲ってきた死に対して覚悟も準備もできていないため、あらんばかりに戸惑い、取り乱します。
でも、そうやって心が乱れきった状態をさらすことができるのは、家族や恋人など、ごく近しい人にだけなんですよね。この作品では生死と向き合わざるを得なくなった人間が何人も登場しますが、大げさに盛り上げたりわざとらしく嘆き悲しんだりしないので、スムーズに感情移入でき、最後にはほろりと涙できました。
ただ、『海賊』でメルマガ号外を出して青木作品を追いかけている私には、物足りなさも残りました。物語の核になる出来事が起こるバランスがあまり良くないように思いました。
裏風俗っていう言葉をはじめて聞いたんですが、風俗店の取締りを厳しくすることで生まれるんですね。なんて皮肉な・・・。
ここからネタバレします。
神父(東憲司)は聖職者なので結婚もしないし子供も作らないのですが、子供を生まない(作らない)夫婦も2組登場しました。不妊治療を途中であきらめた夫婦(中野英樹&高橋理恵子)、夫が避妊をやめようとしとしない夫婦(杉山文雄&萩原利映)。カップルのあり方が多様化し、少子化も進んだ現代の悩みが映りました。
子供がいない家族って何なんだろう、血のつながりって何なんだろうと考えました。子供がいるからといって幸せとは限らないし、同様に、子供がいないからといって不幸せとは限りません。血のつながった家族についても同様です。子供のことは簡単に解決できることではないけれど、いつ死ぬか分からない儚い存在である私が、今、一緒に生きている人に感謝して、その人を大切にすることはできると思いました。
何がおこってもそれは神様の思し召しなのだから、人生に振り掛かってくるどんな幸せも不幸せも「喜びなさい」という聖書の言葉(だと思う)は、厳しいけれど確かな道しるべになる気がしました。
生きている頃の長男(鈴木歩己)が登場する過去の回想シーンで、神父の家族全員が舞台に揃うのですが(母:井出みな子、長男:鈴木歩己、弟:東憲司、妹:萩原利映)、彼らが血のつながった、何年も一緒に生活してきた“家族”なのだと感じられなかったのは残念。
HIVに感染していたことがわかった夫(杉山文雄)に、妻(萩原利映)がキスをするシーンで泣けちゃいました。このカップルには夫婦らしいムードを感じることができていたからだと思います。
出演=杉山文雄/萩原利映/鈴木歩己/中野英樹/藤本喜久子(無名塾)/高橋理恵子(演劇集団円)/泉陽二/鬼頭典子(文学座)/星耕介(Oi-SCALE)/東憲司(劇団桟敷童子)/井出みな子(演劇集団円)
作・演出:青木豪 照明:清水利恭 美術:田中敏恵 舞台監督:筒井昭善 効果:青木タクヘイ 音響オペレーター:都築茂一 宣伝美術:高橋歩 宣伝写真:中西隆良 制作:菊池八恵
アドバイザー:嶌津信勝 企画制作・主催:グリング
一般前売り開始日2006年10月23日(月)10:00より 早割3,800円・前売4,000円・当日4,200円(全席指定/税込)
公式=http://www.gring.info/
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