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REVIEW

2006年01月19日

ホリプロ/日本テレビ『サムワン~Someone who'll watch over me~』01/12-22俳優座劇場

 ウーマンズ・ビュウという女性演出家による3連作シリーズの第3弾です。松本祐子さんの演出が好きなので伺いました。
 千葉哲也さんの演技がすばらしかった!
 ※公式ブログにインタビューなどが充実しています。

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 折込チラシの一番上に『サムワン』用語集があり、日本人にはわかりづらい言葉や文化、世界情勢等について、ものすごくわかりやすい説明がされていました。全部読んでからご覧になることをお勧めします。かゆいところに手が届く用語集でした。とても感謝しています。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより引用。
 突然拉致され、理由もわからないまま投獄された3人の国籍の違う男たち。彼らは迫り来る死の恐怖に怯えながらも、豊かな想像力とユーモアを忘れないことで、外界から隔離された極限状態に生きる希望を見出そうとしていた。時には喧嘩をしながらも、お互いがお互いを見守り、次第に関係が深められていく3人。しかし、その関係が崩れる日が・・・。
 ≪ここまで≫

 こちらの説明にもありますように、1980年代の実話を基にしたお話です。外界と完全に隔離された牢獄が舞台の男3人芝居。しかも上演時間が2時間15分休憩なしです。環境的にはちょっとキツイですが、実力派男優の真剣な演技合戦は見ごたえがありました。
 さびた鉄の板でかこまれた、窓のない部屋。男たちが右足に鉄の鎖をつけられ、壁につながれています。外界と完全に遮断された密室の極限状態をどうやって生き延びるのか。

 公式ブログの松本祐子さんのお言葉にもありますように、人間は想像力によって、人間らしく生きていけるんですね。自分が過去に体験した喜びを自分の中から再現することで、3人は生き延びていました。
 突然、理不尽につかまえられて怒りと悲しみがあふれ、未来に絶望し、慟哭するイギリス人のマイケル(大石継太)に対して、前からその牢に居たアメリカ人のアダム(高橋和也)とアイルランド人のエドワード(千葉哲也)が「笑えーっ、笑えー!!」と怒鳴ります。
 人間は喜びや楽しみがあるから明日も生きていくんですよね。美味しいとか、気持ちいいとか、自分が好きなもの、人、家族とか・・・幸せを感じないと人間は生きることが苦痛になるんだと思います。
 だから、人間は貪欲に自分の幸せを追求しなきゃいけないじゃないでしょうか。無責任になったり自分勝手になっちゃいけないですが、まっすぐに幸せを求めて生きて行ってもいいんだなと思いました(あら、なんだか私ってネガティブな人間・・・)。

 サブタイトルからもわかるように“SOMEONE TO WATCH OVER ME”がよく流れます。この曲には思い出がありまして、中学生の頃に一人で映画館に行って観た映画『誰かに見られてる』のテーマ曲だったんです(これまたタイトルそのままですが)。大都会の美しい夜景が画面いっぱいに広がり、そこにスティングが歌う同曲が流れました。あぁなんて素敵なんだろうと思い、さらに映画もすごく好きだったので、私の中では「ジャズといえばこの曲!」です。あ、ジャズじゃなくても好きです(笑)。
 暗転の時に何度もこの曲が流れて私はご機嫌。でも一度だけ「またかぁ・・・」と思った時もありました。テーマ曲にはそういうリスクがありますよね。

 壁だけでなく天井も床も同じ鉄の壁で埋め尽くされた美術でした。中央より少し下手で舞台奥寄りの天井に、四角い穴が開いており、上へと続く銀色のはしごの下の部分だけが見えています。囚人達の手には届かない高さです。
 その同一色・同一質感の壁を、照明で赤茶色に見せたり白い灰色に見せたりします。ラメのようにぴかぴか光る部分を際立たせたり、くさりの模様を浮かび出させたり、3人の会話の内容によって変化して、かなり多くのバリエーションがありました。

 ここからネタバレします。

 彼らは何も持っていないので、すべて想像力で生み出します。妻や母親、家族に手紙を書くと言って独白をするとか、グラスを持った振りをしてマイムでお酒を飲む演技をするとか。空想でマティーニやシェリーを飲むシーンでは、私の口やのどにシェリーの味が広がりましたし、クリスマスに空飛ぶ車“チキチキバンバン”でイギリスとアイルランド上空を旅する時は、ビッグベンがそびえるロンドンの夜景が私の目の前にも広がりました。これは役者さんの演技、およびそれを実現させた演出の賜物です。照明もすごく合ってました。

 最初につかまっていたアダム(高橋和也)が殺され、残されたエドワード(千葉哲也)は気が狂いそうになります。一番後に入ってきたマイケル(大石継太)はまだ正常でした。でもアイルランド人とイギリス人の相性は最悪。致命的な言い争いをしながらも、2人は協力して生き続けます。そして次はエドワードだけが開放されることが決まります。
 エドワードがマイケルに「俺が(お前を)見守ってる」と言って、牢獄から出て行きます。たぶんこれが"I'll watch over you"なんでしょうね。マイケルはエドワードが自分の母親のところに行ってくれること、自分のことを想ってくれていることを信じ、想像して、一人で生きていかなければなりません。マイケルは目を力強く見開いて、体を震わせながら、舞台にたった一人で立たずみます。そこで終幕。

 アダム役の高橋さんが“Amazing Grace”を歌われましたが、ちょうど前日に『スタッフ・ハプンズ』でも歌われていたんです。同じ歌なのに演出的にも、伝わってきた意味的にも全く違って、皮肉でした。歌も使いようですね。ヒットラーにとってのワーグナーとか、そういうことも想像しました。

 千葉哲也さん。アイルランド人ジャーナリストのエドワード役。行動が何かと野蛮で荒っぽいバカな男かと思ったら、想像力がすごく豊かでユーモアのセンスもあり、そしてアダム(高橋和也)が死んでしまった後のシーンでは弱さも見せます。妻への手紙を読むシーンや妻と一緒のベッドに寝ていると想像するシーンはめちゃくちゃセクシーで、パンツの下に露出された白い足がなまめかしかった。
 白いシャツにチノパン、革靴をゆっくり身に着けながらイギリス人のマイケル(大石継太)に別れを告げるところでは、憂い顔に涙を浮かべながらの静かな佇まいが優しく、凛々しく、美しかったです。この芝居の中で男のいいところの全てを見せてくださったように思います。

Women's View series~Director's eye ウーマンズ・ビュー・シリーズ ディレクターズ・アイ
出演=高橋和也/大石継太/千葉哲也 ※村上淳は体調不良のため降板。代って高橋和也がアダム役。(2005/10/27時点)
作=フランク・マクギネス 翻訳=常田景子 演出=松本祐子 美術=堀尾幸男 照明=沢田祐二 音響=高橋巖 衣裳=出川淳子 舞台監督=加藤高 舞台統括
=荒木眞人 主催=ホリプロ/日本テレビ 企画制作=ホリプロ
全席指定5,600円
ホリプロ=http://www.horipro.co.jp/ticket/
公式ブログ=http://blog.eplus.co.jp/wvs/
俳優座劇場内=http://www.haiyuzagekijou.co.jp/produce/wvs.html

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Posted by shinobu at 15:13 | TrackBack

ホリプロ/TOKYO FM『クラウディアからの手紙』01/18-02/05世田谷パブリックシアター

 主演の佐々木蔵之介さんをはじめキャストがとても豪華で大規模な公演のようなので、早々と初日のチケットを取っておりました。シベリア抑留などの実話を元にした作品、しかも演出が鐘下辰男さんですから重たい芝居だろうことは予想していました。そして、やっぱり重たかった・・・。
 なんと、作品のモデルとなった蜂谷弥三郎さんとクラウディアさんが、劇場にお見えになっていました!カーテンコールでは舞台上にあがってお話をしてくださって・・・これで泣かない観客はいないですよっ、ホント!
 蜂谷さんは87歳、妻の久子さんは88歳、クラウディアさんは84歳だそうです(チラシより)。

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 ≪作品紹介≫ 公式サイトより引用。(役者名)を追加。くわしい物語はこちら
 「他人の不幸の上に私だけの幸せを築くことはできません。」
 無実の罪でロシアに抑留された1人の男、蜂谷弥三郎(佐々木蔵之介)。
 50年間、夫を信じ待ち続けた妻、久子(高橋惠子)。
 37年間連れ添った夫を祖国に送り返した、もう一人の妻、クラウディア(斉藤由貴)。
 あまりの感動に涙が止まらない…過酷な運命が生んだ「真実の愛」。
 ≪ここまで≫

 ガランとした、黒を基調とした空間。舞台奥には鉄骨が一本、縦に吊り下げられています。役者さんが大きなトンカチで鉄骨を叩いて、カーン!という音を鳴らすのです。サイドカーと理髪店のイス以外はほぼすべて抽象的に表現されます。照明でステージを部分的に照らし、光の当たる場所が変化することで、場面転換したりシーンが作られたりします。全体的に暗く、重たく、緊張感が漂う、鐘下さんならではの雰囲気でした。

 やっぱり「他人の不幸の上に私だけの幸せを築くことはできません。」というクラウディアのセリフは名言です。その高潔な無償の愛が、今の幸せを生んだんですよね。あぁ、ご本人を見てしまったから・・・もう何も言えません。ただただ、尊敬します。見習いたい、なんて言うことすらおこがましい。

 ただ作品としてどうだったかというと・・・妙な感じでした。振付が井手茂太さんってことで、鐘下さんの重厚で陰鬱なムードと合ってないと思いました。そもそも役者さんはダンサーじゃないから踊りは下手ですし。コミカルだったり脱力だったりしても、あまり美しくないのです。
 あと休憩15分を含む3時間は長かったですね。特に最後の演出は・・・意外であると同時にがっかりでもありました。でも、ボロボロ泣いちゃったけど(苦笑)。

 お着物姿の高橋惠子さんが舞台上にいる時間が長く、日本で待っている久子の存在をずっと感じられて良かったです。高橋さん、すごく美しかったです。

 ここからネタバレします。

 とうとう蜂谷(佐々木蔵之介)が久子(高橋惠子)の待つ日本へと帰ったところで、舞台奥の壁が全面スクリーンになり、映像が映し出されました。テレビの映像です。テロップとか出てるし。それは実物の久子さんが、実物の蜂谷さんを駅で迎え、2人が再会し、抱き合うところでした・・・!びっくりしました。最初は、なんじゃそれ!?って思いました。だって今まで芝居で作り上げてきた世界を、テレビの現実で壊しちゃったんですから。
 でも・・・白髪の可愛らしいおばあちゃんになった久子さんと、顔をしわくちゃにして泣く蜂谷さんを見ると、涙が溢れてきて・・・・あぁ、これは実話なんだなって。今、生きている日本人とロシア人の現実なんだなってしっかりと確認できました。戦争がすごく近くなりました。

 不気味で恐ろしげな音楽ばかりがかかっていたのに、ラストだけ妙に感動を誘うイイ音楽だったのも不自然な気がしたんですが、テーマソングなんですね。

≪東京、大阪、愛知、広島、仙台≫
出演=佐々木蔵之介/斉藤由貴/高橋惠子/山西惇/池内万作/村上大樹/久松信美/宮島健/小林勝也/すまけい/植木紀世彦/翁長誠/亀田佳明/斉藤直樹/柴田雄平/土倉有貴/渡部紘士
原作=村尾靖子著 海拓舎刊「クラウディア 奇蹟の愛」から 脚本・演出=鐘下辰男 テーマソング=溝口肇 美術=島次郎 照明=中川隆一 衣裳=小峰リリー 振付=井手茂太 音響=井上正弘 ヘアメイク=佐藤裕子 殺陣=渥美博 演出助手=坂本聖子 舞台監督=小林清隆 主催=ホリプロ/TOKYO FM 共催=世田谷パブリックシアター 特別協力=日本海テレビジョン放送株式会社 企画制作=ホリプロ“ホリプロ 創業45周年記念公演”
S席7,000円 A席5,800円
公式=http://blog.eplus.co.jp/letter/
ぴあ=http://t.pia.co.jp/promo/play/claudia_letter.jsp

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Posted by shinobu at 00:03 | TrackBack