2006年01月25日
らくだ工務店『キャベツと日和』01/24-29「劇」小劇場
ご縁があって第4回公演からすべて拝見しているらくだ工務店の第11回公演です。
劇団のカラーというものが定着し、今回はそのカラーが独自性にまでに高められ始めているように感じました。平凡で愛らしい登場人物たちにいっぱい笑わせていただきました。
劇団サイトで過去作品の舞台写真が見られます。今回もリアルで味の在る美術でした。
≪あらすじ≫
小さなスーパーマーケットの店員控え室。とりたてて特徴のない人々の、何のへんてつもない平凡な日々・・・のはずだったが、毎日店内を歩き回り、何も買わないで帰る不審な男がいるのだ。店員たちは彼を万引き犯だと見て目をつけていた。ある日その男は控え室にまで入って来て・・・。
≪ここまで≫
いわゆる“日常を切り取る”スタイルの“静かな演劇”というジャンルに入る作品です。その中でのらくだ工務店の独自性とは、舞台の上に居る人たちがゆるやかに、おだやかに紡ぎ出す、ちょっといたずらでおどけた、すごく優しい空気だと思います。
彼らの優しさは全てを許す母なる大地のような優しさ、というような種類ではなく、今の東京を生きるまじめな若者の、素直で等身大の優しさです。いばらない、華美にならない、卑下もしない、だから目立ちはしないかもしれません。でも、まるで道端に咲いてる小さな花のように、ありのままにそこに在る力強さと健気なもてなしに、誰もがホっと一息つくことができるのではないでしょうか。
優しさの中に笑いというサービスがふんだんに用意されています。子供のような無邪気な心を大切にして、自分達に目を留めてくれた人(=観客)に対して、少し気恥ずかしそうになりながら、でも全身全霊で楽しんでもらおうとしているのが伝わってきます。私は体も心もすっかりリラックスして、彼らの優しさの中で無心になり、カラカラと笑うことができました。
私を包んでくれた彼ら独特の空気や笑いについては大満足でしたが、お芝居についてはまだまだ、具体的に上を目指さなければならない段階だと思います。初日だったからというのもあるかもしれませんが、序盤は相手のセリフやリアクションを待たずに、一人で段取りどおりにしゃべったり動いたりしてしまう役者さんが多くいました。
でも少しずつ空間が和らいでいくに従って、気にならなくなりました。自然に受け入れられる程度に滑稽で、突拍子のない言葉や身振りに、かなり笑わせていただきました。それが優しくて可愛いものだから、登場人物だけでなく彼らが居る部屋自体に親しみが沸いてきました。細かいところまで気を配られた舞台装置の、たとえば冷蔵庫の上のコーヒーや、天井のはりに小さく空けられた通気口、ちょっと汚れたタイムカード、後ろがでっぱったモニタなどが、まるで自分の持ち物のように感じられてくるほどでした。
ここからネタバレします。
毎日店にやってきていた不審人物は、万引き犯をつかまえる万引きGメンの君島(兼島宏典)でした。彼は店長(一法師豊)に雇われていたのですが、自らの不審すぎる行動が万引き犯に間違われるという、おマヌケさんでした。
幼稚園児の娘を持つ店員の伊藤知子(瓜田尚美)は、前夫の真下貴史(石曽根有也)と親権の問題でもめています。貴史が知子をロッカーのカーテンの奥に無理やり追い詰めていくラブシーンは、シーンとして完成していたとは言いづらいですが、エロティックで良かったですね。不倫、離婚、子供というトピックに男女の肉体関係をにおわせる要素は不可欠だと思います。らくだ工務店でこんなエロティックなラブシーンは初めてじゃないかしら(ラブシーンだと思うかどうかは人それぞれだと思いますが)。石曽根さんは本当に美男子で、たくさんの女に手を出している悪い男だという空気も合っていました。
店長(一法師豊)と店員の小島日和(塩湯真弓)との不倫関係の行方が、日常を描く作品の下流を流れ続けるメインテーマのようでしたが、日和は妻子ある店長のもとを去ることを決心して店を辞めた、というだけの顛末では物足りなかったです。何かもうひとつ胸の深いところに届くものが欲しいです。日和が店長に別れを決心したことを伝える、2人きりのシーンは、ちょっと間が長すぎたように感じました。
魚売り場の綿貫(恩田隆一)が知子(瓜田尚美)に「毎日弁当を作って欲しい」と頭を下げ、知子が綿貫からのお芝居の誘いをOKしたのがすごく微笑ましかったです。こういうけなげな想いが人を幸せにするのよね~。
音楽は、今までで一番私好みでした。むりやり何らかの感情を強いるような音ではなかったし、軽やかで良かったです。
一法師豊さん(いっぽうし・ゆたか)さん。今回は気が弱い店長役でしたが、キャラクターづくりのきめ細やかさ、徹底具合に感心します。カメレオン演技と申しましょうか、公演ごとに全く違う人物になりきられているのです。マスクで汗を拭くのには参りました(笑)。らくだ工務店でのご活躍も嬉しいですが、他の劇団でも拝見してみたいですね。
恩田隆一さん(ONEOR8)。魚売り場担当の綿貫役。ご自身に観客の注目が集まらないところでの演技がとても良かったです。ドアを閉めて去る前とか、イスに座って誰かの話を聞いている時とか。話をごまかすために「ちぇあーっ」と叫んだのが素敵(笑)。
橋本仁さん(ひょっとこ乱舞)。アルバイトの小早川健太郎役。「ひょっとこ乱舞の役者さんがらくだ工務店に!?」と少し驚きました。だって作品のカラーが全然違う(笑)。だけどとてもハマリ役で自然でした。「無人島にケンタロウ・パラダイスを作る」という夢を語るセリフが良かったです。
出演=一法師豊/志村健一/今村裕次郎/兼島宏典/瓜田尚美/石曽根有也/塩湯真弓(劇団M.O.P.)/恩田隆一(ONEOR8)/橋本仁(ひょっとこ乱舞)
作・演出=石曽根有也 舞台美術=福田暢秀(F.A.T STUDIO) 音響=高橋秀雄(Sound Cube) 照明=山口久隆 舞台監督=一法師豊 宣伝美術=石曽根有也 演出助手=内山友希 制作=山内三知 企画製作=らくだ工務店
公式=http://www.rakuda-komuten.com/
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