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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年01月26日

七里ガ浜オールスターズ番外公演『TOTEMPOLES vol.1「二人の高利貸しの21世紀」』01/24-29ギャラリーLE DECO 5F

 岡田利規さん(チェルフィッチュ)作の短編2人芝居『二人の高利貸しの21世紀』を、3種類のキャスト&演出で連続上演する企画です。七里ガ浜オールスターズは役者の瀧川英次さん、大森智治さん(とスタッフ1人)の演劇ユニットで、瀧川さんはチェルフィッチュによく出演されています。
 めっちゃくちゃ面白かったです。3本一気に観くらべて、演出と演技の可能性をガツンと体感できました。

 ★舞台写真期間限定公開!(2006/02/16追記)

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 全公演共通フリーパスがお薦めです。1本1500円のところ3本で2800円ですし、全席自由席で優先的に入場できます。フラットなギャラリースペースですので前方の列が見やすいと思います。
 ステージの合間にティータイム(無料)あり。次のステージの準備のため、開演10分前に一度、観客は全員退場します。次の開場時はフリーパス所持者が優先的に入場し、その後は並んだ順(かなりアバウト)に入場です。

 「バージョンごとに違う味わいがあります」というのは複数バージョンある公演の決まり文句ですが、この企画については全く違うお芝居を3本観ることになります。脚本にはそれぞれ少しずつ追加・削除が加えられており、空間の使い方と客席の配置はすべて異なります。
 一仕事終えた2人の高利貸しが・・・いや、何も書かない方がいい気がします。3本とも違うストーリーなので。もともと余白の多い(さまざまな解釈ができる)脚本であるということが、企画にうまくフィットしたのでしょう。

 私はC、A、Bの順番で拝見しましたが、C(瀧川バージョン)を二番目に観るのがいいんじゃないかな・・・と、個人的には思います。ストーリーおよび手法が私好みなのはA(前川バージョン)、役者さんにハマりまくったのがB(大久保バージョン)でした。もーBは萌え死にするかと思った(笑)。

 ここからネタバレします。これからご覧になる方はお読みにならない方がいいと思います。違いをその場で体感するのが楽しいですよっ。


C・瀧川バージョン=帯金ゆかり(北京蝶々) VS 大森智治(七里ガ浜オールスターズ) 40分
 ギャラリーの中央が舞台。対面式の客席で臨場感があります。私から観て上手側に柱、下手は壁(席は入り口側)。壁にはトランクがもたれるように置いてある。
 前説(瀧川英次)にアメリカン・ジョークあり(笑)。
 赤、緑などのカラフルな配色で若々しいカジュアル・ルックの男女。職業も経歴も不明。なんとなくわかってくるのは2人は仕事のパートナーで、お金の取立てをしているということ。
 トイレに閉じこもっていた女(北京蝶々)は、もうすぐ死んでしまう。相棒の男(大森智治)は彼女の治療(手術)ために1000万円を用意した。神様のせいで(?)男は青いゴミバケツにハマったりもする。
 1枚だけニセ札が見つかった。なんと黄色い紙に黒いマジックで福沢諭吉の絵が書いてあるお粗末なものだった。

 具体的な設定や起承転結があえて用意されておらず、観客は届いてくる言葉から自分で連想していくことになります。たぶんAかBを先に観ていたらもっと印象が違ったんじゃないかしら。
 役者さんはアグレッシブに言葉を発しながら大きく動き回りますが、言葉が板についていなくて空回りな印象でした。不条理なまま全てが放散されていく形で完成されていれば、すごく面白くなったのではないかと思います。


A・前川バージョン=板垣雄亮(殿様ランチ) VS 岩本幸子(イキウメ) 45分
 舞台と客席が正面から向き合う額縁舞台。中央に黒い柱。柱の前に古ぼけた木製のベンチがひとつ。柱の奥も演技スペースになる。
 歌うような、うだるようなスペイン風の音楽がむせぶ、男と女のハードボイルドな逃走劇。設定およびストーリー、演技の緻密な計算は3つの中でダントツですね。

 2人の高利貸しが借金取立ての仕事を終え、とあるベンチで仲間の迎えを待っている。黒いスーツに黒いネクタイ、銀縁メガネの男(板垣雄亮)はちょっと神経質な口調。トランクは部下の女(岩本幸子)が持っており、彼女の白いシャツは血まみれになっている。金を取り立てた際に債務者3人を殺したからだ。
 迎えを待ちながら、2人はだらだらと話をしている。「金の入ったトランクにゲジゲジが入っているかも」「1枚だけあった偽札はゲジゲジだった?いや、ゲジゲジにやどった神様が、今度は偽札になったのだ」。その偽札も後から見つかったゲジゲジも、男がやぶったり殺したりしてしまう。「俺はどう転んでも神様にのろわれるのかな」。
 女は「高利貸しなんて商売やめよう」と男に持ちかける。「今、私たちの目の前に1000万円あって、迎えはまだ来ない・・・」。

 札束はすべて新聞紙になっていて、1枚だけのニセ札は本物が使われていました。札束が新聞紙であることで、重責だった金がすっかり紙切れになることが視覚的に表されていました。また、愛情(友情?)のこもった女の説得で、男は高利貸しから足を洗う決心をします。すると重いと思っていたトランクを軽がるしく持てるようになり、彼らが開放されたことがわかります。
 Cではバケツでしたが、Aで女が入って出られなくなるのはヘルメットでした。

 イキウメの看板女優の岩本幸子さんはやっぱり上手いですね。板垣雄亮さんは殿様ランチの作・演出家だそうです。2人の演技合戦がすばらしかった。


B・大久保バージョン=若狭勝也(KAKUTA) VS 瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ) 45分
 A同様に柱を中心にした舞台。でも客席は舞台を丸く囲います。緑色の糸が数本、壁や柱をつたって舞台を横切っています。スモークが焚かれて照明のライトアップの効果も増し、ムードのある劇空間でした。

 2人の男が借金の取立てのために、あるアパートに行く。誰も居ない部屋で誰かを待っていたトラ(若狭勝也)は、おそらく債務者であろう人物に襲われて殺されてしまった。そのとき相棒(瀧川英次)はトイレに入っていたので助かった。
 一人だけ生き残ってしまった男は、途方に暮れて壁にもたれかかって座り込んでいた。そこにトランクを持ったトラの幽霊が現れた。

 男を救うためにトラが天国から戻ってきた、というロマンティックなゴースト・ストーリー。Bの演出は大久保亜美さん(mon)です。まーさーに、女の演出!女が喜ぶポイントだらけ!!役者さん2人がかっこ良くて、可愛くて、やさしくて、エッチで、舞台がたまに見られなくなるぐらいドキドキしちゃったよっ!わお、私ちょー気持ち悪い客っ!!マジでヤバかったんだってば、若狭勝也さんと瀧川英次さん!こう、両極端の魅力というか、男の魅力の二台巨頭というか、やっぱ少年とエロ兄ちゃんっていうか(笑)、あぁごめんなさい、褒め言葉なんですよっ。

 札束は透明フィルムで、ニセ札は本物(っぽい)1万円札でした。トラの筋肉がプルプルの状態かどうかを確認するために男はトラの腕を触らずにトランクを揺らします。トラが幽霊だとわかっているからなんですよね。
 人が“入って出られない状況”になるのは、Aはヘルメット、Cはバケツでしたが、Bはトランクでした。トラがトランクの口を糸で引っ張ってパクパクさせ、トランクがしゃべっているように見せるのです。トランクの神様が、トラを閉じ込めた・・・あ、トランクだからトラなのかな?
 瀧川さんの衣裳が良かった・・・。綿素材のカジュアルなカットソーとパンツなのですが、洗いざらし感とか首周りの開き具合が絶妙。瀧川さんの首に悩殺されました。首限定かよ(笑)。


 【まとめ】
 例えば『ゴドーを待ちながら』のように、人によってさまざまな解釈が可能で、時間も空間も越えて、自由奔放、変幻自在、融通無碍・・・というような演出も可能な戯曲だと思いました。なので、A、B、Cの中で私はA(前川バージョン)が一番好みでしたが、カチっと1本の筋道に沿った作品にしてしまうのはもったいない気もしました。
 1本だけ観るのと2本以上観るのとでは、意味の違う体験になると思います。ぜひ複数バージョン体験してください。

原作=岡田利規(チェルフィッチュ)『二人の高利貸しの21世紀』
演出=前川知大(イキウメ)/大久保亜美(mon)/瀧川英次(七里ヶ浜オールスターズ)
A・前川バージョン=板垣雄亮(殿様ランチ)VS岩本幸子(イキウメ)
B・大久保バージョン=若狭勝也(KAKUTA)VS瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ)
C・瀧川バージョン=帯金ゆかり(北京蝶々)VS大森智治(七里ガ浜オールスターズ)
前売り・当日ともに1500円/ リピーター割引 2回目:1000円 3回目以降:500円/ 全公演共通フリーパス:2800円
公式=http://stars.moon.st/
ギャラリー・ル・デコ=http://home.att.ne.jp/gamma/ledeco/

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Posted by shinobu at 14:10 | TrackBack