2006年02月02日
ク・ナウカ『山の巨人たち』02/01-05旧細川侯爵邸(和敬塾本館)3階
和敬塾正門の看板
昨年ザ・スズナリで上演された『山の巨人たち』は、途中から『作者を探す六人の登場人物』に変わってしまうというトリッキーな演出で、私にとっては昨年のNo.1演出作品でした。今回は最初から最後まで『山の巨人たち』です。美術・演出は深沢襟さん。20代の女性だそうです。凄いですね。
和敬塾の中にある旧細川侯爵邸の3階が会場で、わかりづらい場所でした。チラシの地図ではたどり着けない人もいるんじゃないでしょうか。実際、開演してから遅れて入ってくるお客様が多かったです。地図は和敬塾サイトのものをプリントアウトされることをお勧めします。
≪あらすじ≫ チラシより引用。(役者名)を追加。
世界に絶望して山荘に隠棲する魔術師(牧野隆二)のもとに、とある劇団がやってくる。彼らの唯一のレパートリー『取りかえられた息子の物語』は大傑作。だがなぜか世間の趣味に合わず、すっかり落ちぶれている。主演女優イルゼ(寺内亜矢子)は正気と狂気を行き来している。イルゼはかつて、彼女に恋する詩人にこの戯曲を最後まで書かせるため気のあるそぶりを見せ、完成後に拒絶したのだ。その詩人は自殺した。それでもイルゼの天才的演技をまのあたりにする劇団員たちは、この落魄した劇団から離れることができない・・・。そこで魔術師は提案する。「山の巨人たち」の結婚式で、その芝居を演じてみてはどうか―――
≪ここまで≫
残念ながら会場への誘導が不親切でしたし、座席の環境も私にとってはイレギュラーなもので(劇場で直接スタッフにその旨は伝えました)、開演前から不満がつのってしまいました。そして肝心の内容は、役者さんの演技に筋が通ったものが見えず、何かにつけおぼつかないように感じてしまい、遠くで眺めるままに終わってしまいました。
『山の巨人たち』はピランデルロの遺作で未完であり、ムッソリーニの政権下で本当に書きたいことを堂々と書けるような時代ではなかったこともあって、そもそもわかりやすい戯曲ではないそうです。煙に巻くような曖昧な表現になったり、メルヘンになったりするのです。つまり、私の勉強不足、素養不足というのも楽しめなかった原因だと思います。
チラシに書かれている深沢襟さんの文章がすごく面白くて、作品についてとても詳しく述べられています。ご覧になる前に読まれると作品の意図がよくわかると思います。それを読んでいたために、開演前から私はちょっと期待と予想をし過ぎちゃったのかもしれないですけど・・・。下記、深沢さんの文章を一部引用いたします。
『今回の上演では世界に絶望したピランデルロに芽生えた葛藤を明確に描き出す。彼は2つの欲望を戦わせている。世界を遮断し思うままに生きたいと願う欲望を魔術師コトローネが引き受け、世界に立ち向かい人々の中で作品を生かしたいと願うもう一方の欲望を女優イルゼが引き受ける。』
ここからは作品に関係ない、制作および受付まわりについて、一観客として感じたことを書きます。普通の劇場ではないので、いろいろ大変なのだと思います。気軽に入れない場所で演劇公演をしてくださることにすごく感謝はしているのですが、今回については事前の情報が少なすぎました。
まず、チラシに不備が多いですよね・・・。“ク・ナウカ若手演出家シリーズ”ということなので、本公演の扱いじゃないからでしょうか。でも、和敬塾やその中の旧細川侯爵邸については写真や解説があった方が良いですし、まず地図がわかいづらいのは困ります。その意味ではホームページも不親切だと思います。私は最初から和敬塾サイトの地図を見ていたので護国寺駅から歩いていきましたが、チラシもホームページも目白駅からバスに乗ることしか想定していません。それでいてチラシの地図にバス停が明記されていないのは・・・おかしいですよね。
また、和敬塾に入ってから旧細川侯爵邸の近くの受付に行くまでに、目印や誘導がないのは心細いです。受付の近くにお一人だけいらっしゃいましたが、それまでが長いので。私は前を歩いている人にくっついて行ったので無事でしたが、受付で苦情を言っている方もいらっしゃいました。そして帰り道も何もなかったんですよね・・・。「お帰りはこちらです」と一言そえてくれる人がいてくれないと、広い構内を迷い歩く人がいるんじゃないでしょうか。和敬塾は学生寮ですから、人が普通に住んでいる建物です。部外者がふらふらうろつくのはNGですよね。
あと、これは個人的な好みなんですけど、チラシのイラストがとっても可愛くてデザインとしてもステキなのに、ホームページに載ってないのが寂しいです!
出演=牧野隆二/寺内亜矢子/本多麻紀/大内米治/高橋昭安/大道無門優也/石川正義/池田真紀子/本城典子/安齋芳明/齋藤頼陽/池田留美
作=ピランデルロ 訳=田之倉稔 演出・美術=深沢襟 SV=中野真希 照明=大迫浩二 衣裳=忠内もも/鈴木美和子 舞台監督=藤本康宏 作=大石多佳子 主催=特定非営利活動法人ク・ナウカ シアターカンパニー
全席指定【前売】3,500円 【当日】3,800円 全7ステージ
公式=http://www.kunauka.or.jp/
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文学座『湖のまるい星』01/26-02/05紀伊國屋サザンシアター
劇団八時半の鈴江俊郎さんの脚本目当てで観に行きました。残念ながら演出が・・・合ってないというか、わかってない・・・ように、思いました。私は結末が知りたかったし脚本目当てだったので最後まで観ましたが、途中休憩のときに帰られる方もチラホラいらっしゃいましたね。文学座のお客様は厳しい目を持ってらっしゃいます。
チラシの下の白い部分は穴が空いているのです。湖に映るまるい星が、穴になっているっていうのは面白いですよね。
あらすじはこちら。
湖のあるリゾート地のペンションが舞台です。その湖は、誰もが「死」をふんわり思い浮かべてしまうような、神々しいくらい美しいけれど、霧が掛かっていて陰鬱で、誰も死んでいないのに「自殺の名所だ」という噂がたつような、この世とあの世との間にあるような、湖である・・・・という設定なのです。いい感じですよね~。そんな湖のほとりのペンションって、すごいドラマとか物語が生まれそうですよね。だけど、そのムードを感じられませんでした。
鈴江敏郎さんの脚本は、現実にはありえないよねって思うような空想的なところがあって、セリフはロマンティックで、時には乙女チックともいえる可愛らしさがあります。その一見やわらかい言葉や設定の中に、グサっと胸に突き刺さり、お腹の底まで重く入りこんでドシンと碇をおろすような、社会に対する辛らつで厳しい視点があって、それゆえの本物の優しさがじんじんと伝わってくる脚本だと思います。阿佐ヶ谷スパイダースでの二人芝居、劇団八時半での鈴江さん演出作品、新国立劇場での松本祐子さん演出作品を拝見する限りでは、鈴江さんの脚本ならではの重みを感じることができたのですが、今作では伝わってきませんでした。
ここからネタバレします。
ペンションオーナーの娘(尾崎愛)は命がけで従業員の明神(粟野史浩)に恋しているのに、明神にはあられもなくフラれて、恋が叶わない。書けない作家(早坂直家)は編集者の女(目黒未奈)を抱きたいのに、イン○テンツだから一線を越えられない。ペンションに居る人たちは皆、望みが成就しない状況にもがいています。悩みがすごく滑稽で笑えるのと、それが叶わないことで苦しむ姿に共感するのとが重なるのが面白いと思うのですが、そのバランスがぼやけていて意図がわかりませんでした。
目の前には湖をはじめとする美しい自然があって、人々は、自分が生きていなくても自然は豊かに生い茂り、地球は回っているという現実に心をさいなまれます。これがオーナーの娘(尾崎愛)のセリフにそのまま表れていたんですが、登場人物全員で群読しちゃったのは・・・どうなんでしょ。松本演出でもラストはそうでしたが、意味が全然違いますよね・・・。
行方不明になっていた作家が戻ってくると、彼は執筆が出来るようになっています。彼は「森の中の木に抱きついていたら、天から(書く力が)降りて来た」と言います。叶わない夢を夢見て、手に入らないものを欲し続けて、それを公言し、実行すると人間はトブんですよね。平たく言うと「たたけ、さらば開かれん」ってことかな、と。
パンフレットの鈴江さんの文章より引用いたします。
『私にとって、あの日のノックは、ある明確な「幸せのイメージ」なのだ。一瞬すべてを忘れる。一瞬、記憶も消える。一瞬、大きな驚きと。そして発見と。自分が成長する、その証拠。
くよくよ悩んでる大人の皆さん。とべ! ほしいと思え! 「ボール!」……この奇跡のような湖が、皆さんにそういう幸せの一瞬をもたらしてくれますように。祈っています。』
う~ん・・・こんな奇跡を感じたかったな~。
柔道合宿に来ている大学生4人組はもったいなかったですね・・・。男3人全員(植田真介/細貝弘二/清水圭吾 )が1人の女(愛佳)にぞっこんで、皆で彼女を取り合いしているのだけれど、抜け駆けするのは避けている・・・なんていう相当面白いグループだと思うのですが、普通にやっちゃって浮いてました。ありえない設定を受け入れる気になるような、何らかの仕掛けが必要だったんじゃないでしょうか。
美術は奥村泰彦さん。木々の奥にある湖と山の景色がきれいでした。でも、どこかに影になるような暗い場所を作った方が良かったのではないかと思いました。山の配置以外がシンメトリーになっているのもあんまり・・・。上下の出入り口になる木枠は良かったですね。
照明が活躍していませんでした。ずっとペンションの地明かりが続いてクライマックスの大文字焼きのところだけ青くなるっていうのは、もったいないんじゃないでしょうか。登場人物は普通の会話の中で相当きっついことしゃべってるんですから、そこは照明でもっと空気を作れたと思います。
文学座は好きな俳優さんが多いので、新劇の劇団の中では一番多く拝見しています。だから「あ、あの役者さんは今回はこんな役で出てるんだな」とか、まるで歌舞伎か宝塚のように楽しむ自分がいて、ちょっと困ってます(苦笑)。それにハマるのは避けたい・・・。
粟野史浩(あわの・ふみひろ)さん。ペンションのオーナーについてきた元部下の明神役。粟野さんのことは去々年から何度か拝見して(1、2、3)注目していました。今回もうまいつっこみ(早口なのが残念)が聞けましたし、堂々と女に冷たくする演技もクールで良かった。
愛佳さん。3人の柔道部員(?)に愛される愛ちゃん役。オープニングの剣道の稽古に本気の熱が感じられて良かったです。アグレッシブに怒る演技が魅力的でした。
それにしても「私はモテるのよ」と自分で言う女がたくさん出てきましたね。役者さんは演じづらいんじゃないかな(笑)。でも、そういう女、好きです。男なら誰かれ構わずモーションをかけまくる人妻を演じる塩田朋子さんは、貫禄もあるし美しいし、説得力がありました。娘との対話シーンはあんまりでしたけど。
出演=松下砂稚子/赤司まり子/塩田朋子/名越志保/目黒未奈/築野絵美/愛佳/尾崎愛/早坂直家/外山誠二/石川武/粟野史浩/植田真介/細貝弘二/清水圭吾
作=鈴江俊郎 演出=藤原新平 美術=奥村泰彦 照明=古川幸夫 音楽=上田亨 音響効果=望月勲 衣裳=中村洋一 アクション指導=渥美博 舞台監督=寺田修 演出補=今村由香 制作=白田聡/川上裕子 票券=松田みず穂
前売・予約開始=2005年12月24日(土)一般5500円 ユースチケット3800円 (25歳以下、取扱い文学座のみ) 中・高校生2500円(取扱い文学座のみ) 11ステージ
公式=http://www.bungakuza.com/maruihoshi06/index.html
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