第1回公演から拝見しているハイリンドの第3回公演(過去レビュー⇒1、2)。加藤健一事務所の俳優教室を卒業された役者さんが旗揚げした劇団です。カトケン事務所公演にも出演された方々なので、観客の年齢層が広い!なんと次回はTHEATER/TOPSに進出です。
『法王庁の避妊法』は1994年に自転車キンクリートSTOREで初演された名作。私は2003年のホリプロ版ですごく感動したんです。この戯曲に触れたことのない方にはぜひお薦めしたい、約2時間15分でした。14日まで。
CoRich舞台芸術!にひとこと感想を載せています。
レビューをアップしました(2007/01/10)。
≪あらすじ≫
排卵日がわかれば女性は望んだ時に妊娠できるし、望まれない子供を生まなくて済む。若き産婦人科臨床医・荻野(伊原農)は医学界の大きな謎=排卵日の特定を目指して、昼夜仕事と研究に没頭する。果たして謎は解かれるのか、そしてその発見は女性を幸せにできるのか。
≪ここまで≫
舞台は大正の終わり頃、新潟にある荻野先生の診療所。美術全体が「劇」小劇場の空間にうまく溶け込んでいて、レトロな家具と衣裳がムード満点です。派手ではありませんが、繊細な照明の変化も良かったです。
下手に入り口と待合室、中央から上手に診察室があるのはホリプロ版と同じです。2003年の俳優座版は逆だったみたいですね。
役者さんは、のびのび、生き生きと生活する当時の日本人を、少し大げさ目だけれど好感の持てる前向きさを持って演じていらっしゃるように感じました。そもそも自分の立場、生き方、希望に素直でまっすぐな登場人物がほとんどなんですよね。この戯曲に込められた、女性の祈りのような、大切なメッセージをストレートに伝えることができていたと思います。
ただ役者さんによって、役柄としてその場に居るかどうかの段階に差があったように思いました。これは第2回公演の時は感じなかったことで、少し残念。私は初日に拝見しましたので、きっと回数を経て調和してこられていることと思います。
ここからネタバレします。
さまざまな立場の女性が登場します。子供がほしいのにできない女・ハナ(はざまみゆき)、7人の子供に恵まれてもう妊娠はしたくない女・キヨ(大森美紀子)、結婚はしないと決心している看護婦・津島(チャン・リーメイ)。そして荻野の妻・とめ(枝元萌)は、荻野による排卵日の発見のおかげで「妊娠するかしないかを選ぶことができる世界で最初の女性」になります。
妊娠するかしないかの選択の自由が得られ、ハナ、キヨ、津島の悩みはほぼ解決しました(キヨには間に合いませんでしたが)。でもそこで終わらないのがこの戯曲の良いところだと思います。
とめは「“天からの授かりもの”だったはずの子供が“男女の性交の産物”になってしまうなら、むしろそんな子供は欲しくない」と、荻野の“研究(実験)”に反発します。確かに私もちょっと戸惑いました。出産は受精の結果でしかないと受け入れるには、命はあまりに神々しく、尊すぎます。
しばらくはこう着状態だった二人ですが、荻野自身もすごく子供を欲しがっていると知ったとめが、「私も子供が欲しいです」と荻野に告白して一件落着します。男と女が互いに望んで子作りをした結果に子供が生まれるなら、たとえそれが計画的だったとしても、人間同士の心が通じ合った奇跡だと解釈することもできるんですよね。
荻野の妻・とめ(枝元萌)が何度も着物を着替えて出てきてくれたのがすごく嬉しかったですね。夏にはちゃんと絽(たぶん)の着物になっているし。
蛇足ですが、私は「子供は親を選んで生まれてくる」と勝手に信じています。だから妊娠して子供が生まれたら、それは親が選んだ行為の末に生まれただけでなく、子供の意思だと考えます(全く根拠はありません。ただそう信じているだけです)。
出演=伊原農/枝元萌/多根周作/はざまみゆき/大森美紀子(演劇集団キャラメルボックス)/チャン・リーメイ/田中しげ美(愛情爆弾)/黒坂カズシ/鍋谷ナナオ/浅井伸治/竹下ヨシユキ
作=飯島早苗・鈴木裕美 演出=春芳 舞台監督=井関景太(るうと工房) 照明=豊山ゆうこ(y/s company) 音響=高橋秀雄(Sound Cube) 音響オペ=岡田悠(Sound Cube) 舞台美術=向井登子 衣裳=阿部美千代 衣裳補佐=石垣沙香栄 放言指導=根立久美子 宣伝美術=西山昭彦 スチール=夏生かれん 撮影ヘアメイク=田沢麻利子 webデザイン=古川健司/藪地夏子 制作=竹内佐江(Double-Decker)
全席自由 前売3300円 当日3500円 賛助会員2300円
公式=http://www.hylind.net/
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