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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年03月22日

劇団俳優座LABO vol.21『地獄の神』03/17-24俳優座稽古場

 劇団俳優座の役者さんである田中壮太郎さんが翻訳・演出されるサム・シェパードの戯曲です。同じく田中さんが翻訳・演出された『不寝番』が良かったので今回も伺いました。上演時間は約1時間45分。

 サム・シェパードといえば映画俳優としても有名ですが、劇作でピューリッツァ賞も受賞しています。メジャーなところだと映画『パリ・テキサス』の脚本家でもあり、最近だと私はパルコ劇場で『フールフォアラブ』を拝見しました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『地獄の神

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 チーズの故郷といわれるアメリカ中西部ウィスコンシン州。酪農農家として繰り返しの毎日を送る夫婦フランク(神山寛)とエマ(高山真樹)の元をある日スーツ姿の一人の男(松島正芳)が訪れる。男はセールスマンさながらエマに愛国心を売りつけ、そして家の地下室に誰かを匿っていないか問いただしてゆく。このとき、夫婦の家の地下室にはフランクの旧友であるヘインズ(蔵本康文)が泊り込んでいた。しかし押し売り男の質問に答える義理はないと感じたエマは地下室には誰もいないと言い張り、スーツの男を追い返す。やがてヘインズが国家機密に関わるプロジェクトに関与していたことを聞く夫婦。そして二人はヘインズの身体に正体不明の青い電流が流れるのを目撃する。
 ブッシュ政権を痛烈に皮肉ったサム・シェパードの快作。どうぞご期待ください。
 ≪ここまで≫

 いかにもアメリカの田舎らしい家庭的なリビングが舞台。親しみやすいのどかな会話が続くかと思いきや、唐突に不条理劇へと変わる攻撃的な作品でした。やっぱりサム・シェパードは面白いな~と、じっくり展開を楽しめました。

 ただ、殺風景過ぎるリビングや台所など、美術は行き届いていない感がありました。役者さんの演技もまだ戸惑いが見える状態で、演劇作品としては期待どおりのものではなかったです。途中で「もっと照明や音響(音楽)の演出を追加してもいいんじゃないかな」って思っちゃったんですよね。たぶん役者さんの演技に物足りなさを感じたからだと思います。

 私の隣りの席に座っていた公演関係者っぽい若い女性が、役者さんがセリフを間違ったり、トラブルがあった時に(クッキーが割れたり)、ここぞとばかりにクスクス笑っていました。その人は役者さん自身を見ていて、登場人物や作品を観ていないんですよね。気が散りましたし良い気分ではありませんでした。

 ここからネタバレします。

 セールスマンもどきの行動をしながら、実は政府の権力を持つ不気味な若者ウェルチが、ヘインズだけでなくフランクまでも洗脳して、どこかへ連れて行ってしまいます。愛国心や名誉等を売り文句に、政府が市民を戦場へと送り込んでいくことを表しているのかなと思いました。大事にしていた子牛も売り飛ばし、フランクは平凡だけれど幸福だった日常生活を手放してしまいます。一緒に暮らしていた妻のエマは一人取り残されます。ウェルチが「ウィスコンシンで昔ながらの平穏な生活を享受し続けるつもりだったのか?甘えるな。少しぐらい国家に責任を果たせ。」というような意味のセリフを、まことしやかに彼女に浴びせました。詭弁です。でもそれがまかり通っているのが戦争ですよね。

 二人の男が汚染されたのは、チラシにも書かれていた「プルトニウム」のせいでしょう。静電気(?)が光る仕掛けはすごいですね。あの火花はどうなってるのかしら?!
 ヘインズ「一度プルトニウムが毒物を発しはじめたら、それがどれぐらい続くか知ってますか?50万年です。」※セリフは正確ではありません。

 ウェルチはヘインズのペニスに黒いゴムひもをゆわえつけて、そのひもの先につながったスイッチを押して電流を流し、彼を拷問します。ペニスは人間の根源的な欲望や性(生)の象徴だと思われます。それを縛られ攻撃されるので、痛いのはもちろんですがヘインズはすっかりウェルチの言われるがままに動く奴隷になってしまいます。サム・シェパードらしい隠喩だなと思いました。

 ヘインズの急所についてウェルチは「ペニス」と言いましたが、エマは「おちんちん」と呼びました。翻訳のこだわりが感じられました。

出演=神山寛・高山真樹・松島正芳・蔵本康文
作:サム・シェパード 訳・演出:田中壮太郎 美術:宮下卓 照明:伴静香 音響:小山田昭 衣裳:石川君子 宣伝美術:キヨエコイ→ヅカ 舞台監督:宮下卓 制作:高橋かずえ・LABO委員会
前売開始 2月13日 一般3500円 学生3000円(税込)
公式=http://www.haiyuza.com/

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Posted by shinobu at 2007年03月22日 22:57 | TrackBack (0)