新国立劇場の2007年4月の新作『CLEANSKINS/きれいな肌』の公式稽古場レポート〔2〕です。
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⇒CoRich舞台芸術!『CLEANSKINS/きれいな肌』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
英国の小さな町、母ドッティー(銀粉蝶)とその息子サニー(北村有起哉)が二人で暮らす公営住宅の一室。そこへ薬物中毒で行方不明となっていた娘ヘザー(中嶋朋子)が突然、イスラム教徒の姿で帰ってきた!
反イスラムのデモに参加しているサニーは、イスラム教徒となった姉になぜ改宗したのかと激しく詰め寄る。そんな弟を言葉少なに見つめ、静かに語る姉。次第に姉弟の話は自分たちを捨てた父へと及ぶが、母はそんな二人を前にただおろろするばかり。
やがて、父の去った本当の理由が明らかになっていく……。
≪ここまで≫
【俳優が生きることで、世界が生まれる】
役者さんが舞台で演技をされてる間、私は驚いたり笑ったり泣いたりながら、普通の観客のように楽しませていただきました。そしてフィードバックの時は私も皆さんと一緒にシーンを振り返り、新しい提案や解釈などを「なるほどーっ!!」と大きく頷きながら(笑)、聞かせていただきました。
舞台はイギリスの小さな公営住宅のリビング。シーン1で銀さん演じるドッティーが登場してからの数分間で、彼女が古びたアパートでどんな生活をしてきたのかが手に取るようにわかりました。ドアの開け方、料理の仕方、小さな微笑みや仕草など、銀さんはドッティーの気持ちのままを素直に、細やかに演じられます。
銀さんの無邪気な笑顔は本当に可愛らしく、観ている私も自然と微笑んでしまいます。でもちょっと曲がった背中やおそるおそる何かに触れる動作などから、ドッティーが置かれている状況や彼女の生きてきた人生がにじみ出てきて、そのせつなさに思わず涙が・・・。結局このシーンは3回観たのですが、3回とも同じ場面で泣けてきてしまいました。
サニー(北村有起哉)は反イスラム主義を掲げる政党を心酔していて、母親に尊大な態度を取る少々おバカな、でもにくめない青年です。北村さんはゴムやバネのように柔軟で、舞台上をいつも跳ね回っているような軽やかさ!でもサニーが落胆するシーンでは、突然ちっぽけな小石のように堅く丸まったりします。そんな見事な七変化を目を丸くしながら拝見しました。
北村さんが栗山さんの注文に応えて創作された演技には、稽古場にいた全員が笑っちゃいました。なんて豊かなイマジネーション!そして勇気!北村さんは常に何か新しいことを生み出そうとしているようで、存在自体が躍動感に満ちています。
【静かで穏やかな、創造の空間】
自然に見える演技にも、きっかけや動線などの沢山の決まりごとが隠れています。一言のセリフに何重もの意味が込められていたりもします。役者さんは演じる人物の感情のままを身体で表現しながら、同時に決まりごともなぞっているんですね。その内容をひとつずつ決めていくのがフィードバックの時間です。
栗山さんの演出はとても穏やかでエレガントでした。決して怒鳴ったり怒ったりはなさいません。間違いを指摘されたりもしません。細かい動きの指示をしたり、新しい設定を増やしたり、演技の意味を簡潔に伝えたり、自分で演技をして具体例を示したり・・・それがとてもシンプルで明快なのです。無駄がない、と言えるかもしれません。初めて稽古場に入った私にも理解できるような、易しい言葉でユーモアいっぱいにお話をされます。
栗山「このシーンは、見えない敵を嗅覚で察知するシーンだから。」
栗山「それは運命を決める一言。“それさえ言わなければ、こんなことにはならなかったのに”となる。だから大切に、はっきりと。」
栗山「日本語ってボキャブラリーが多いから、音で(意味が)決まっちゃうんだよ。」
栗山「2人だとなんとなくコント風になりがち。だから話す相手だけじゃなくて、向こう側(の部屋・人物)を意識して。」
お稽古は役者さんと演出家、演出助手の方々が謙虚に、真面目に、集中して創造する時間です(笑いも絶えませんが)。それを支えているのは見守っているスタッフの方々。休憩時間のちょっとした談笑や演出家との打ち合わせ以外には、ほぼ一言も私語がありませんでした。何もかもが“あ・うんの呼吸”で動いて機能し合う、とても静かで充実した時間です。プロフェッショナルの大人の寛容さを感じました。
休憩の時にはいま流行しているインフルエンザの感染経路についてや、栗山さんが実際にドイツで目撃したネオ・ナチの話など、興味深いお話が聞けました。
栗山「本物のネオ・ナチの集団を見たことがあるんだけど。両腕に刺青をしてて、ものすごいヘアスタイルで、黒い旗を掲げてバイクに乗ってるんだ。スローガンはちゃんとしてるんだけど、全共闘みたいに大声でシュプレヒコールを上げたりはしない。ただダラっと立っていて、静かなんだよね。それがものすごく怖い。」
⇒稽古場レポート〔3〕に続く
出演=中嶋朋子/北村有起哉/銀粉蝶
脚本=シャン・カーン 翻訳=小田島恒志 演出=栗山民也 美術=島次郎 照明=勝柴次朗 音響=秦大介 衣裳=宇野善子 ヘアメイク=佐藤裕子 演出助手=宮越洋子 舞台監督=米倉幸雄 照明オペレーション=田中弘子 音響オペレーション=黒野尚 演出部=川原清徳/大野雅代/藤波三幸 プロンプター=山本美也子 美術助手=松村あや 制作助手=庭山由佳 制作担当=茂木令子 広報=高梨木綿子 芸術監督=栗山民也 主催=新国立劇場
【発売日】2007/02/12 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
公式サイト=http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/10000121.html
ぴあ=http://info.pia.co.jp/et/play-p/cleanskins/cleanskins.html
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