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2007年04月10日

【稽古場レポート】新国立劇場演劇『CLEANSKINS/きれいな肌』4/3(後)新国立劇場Cリハーサル室〔4〕

 新国立劇場の2007年4月の新作『CLEANSKINS/きれいな肌』の公式稽古場レポート〔4〕です。

 ⇒稽古場レポート〔〕〔〕〔〕〔このページ〕〔〕〔
 ⇒公式サイト
 ⇒CoRich舞台芸術!『CLEANSKINS/きれいな肌

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中央のテーブルで和やかに

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 英国の小さな町、母ドッティー(銀粉蝶)とその息子サニー(北村有起哉)が二人で暮らす公営住宅の一室。そこへ薬物中毒で行方不明となっていた娘ヘザー(中嶋朋子)が突然、イスラム教徒の姿で帰ってきた!
 反イスラムのデモに参加しているサニーは、イスラム教徒となった姉になぜ改宗したのかと激しく詰め寄る。そんな弟を言葉少なに見つめ、静かに語る姉。次第に姉弟の話は自分たちを捨てた父へと及ぶが、母はそんな二人を前にただおろろするばかり。
 やがて、父の去った本当の理由が明らかになっていく……。
 ≪ここまで≫

 ほそぼそと二人で暮らす母親ドッティ(銀粉蝶)と長男サニー(北村有起哉)、そして突然帰ってきた長女ヘザー(中嶋朋子)。母親と長男、長男と長女、長女と母親という風に2人ずつの対話のシーンが積み重ねられて、徐々にこの家族の実体がわかってきます。血の繋がった家族なのに、最初のうちは腫れ物に触るようにしか言葉を交わせません。でも長女が持ち込んだある事実が、その関係に取り返しの付かない大きな亀裂を生じさせて・・・。

 フィードバックの時間は先週に比べてさらに朗らかに、楽しいものになっていました。言葉の意味についての鋭い解釈は、聞いていて涙がにじみそうになるほど登場人物およびこの家族のお話への愛に満ちています。そしてお茶目な遊び心も忘れていません。

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栗山さんの提案にキャストは大笑い

 栗山「このシーンは巧妙に作られてる。ひとこと話されるごとにお母さんがプラスになったりマイナスになったりして、どんどんと(サニーとの位置関係が)変わっていくんだよね。」
 栗山「なんかもっとイメージが欲しいな、“移民”って言葉に。」
 栗山「ドッティーはあそこ(あのセリフ)で一瞬すっと温度が下がるんだよ。」
 栗山「そのセリフは、顔面にバンバンバンババーン!と、声が張り付くように。」
 栗山「ここの『そうじゃなくて』というセリフは、『1、2、3、5、6・・・そうじゃなくて、3と5の間には4があるでしょ!?』という時の、『そうじゃなくて』(笑)。」

 部屋の中を歩く動きや細かい所作について、繰り返し練習することがありました。どこでコートを脱ぐか、脱ぎながら話すのか、脱いだ後に話すのか、脱いだコートをどこに置くのか・・・。セリフとセリフの間、もしくはセリフの最中の動きを加えることで、気持ちがどんどん増えていくんですね。「探し出されていく」と言った方が正確かもしれません。

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演じてみせる栗山さん

 銀粉蝶さんは、夫に捨てられてジャンキーの長女に家出されて、残された長男と2人で平和に暮らそうとしている母親ドッティーを演じます。この情報だけだと、あからさまに不幸な女性ですよね。でも銀さんが演じるドッティーは思わず顔がほころんでしまうほど、おどけたムードがいっぱいなんです。悲壮感を漂わせたかと思いきや、一転してすごくユーモラスな佇まいも見せてくださいます。同時に長年苦労をしてきた女性のギラっとした厳しさや、母親ならではの傲慢さも、大きくて鋭い目の奥からじわりと伝えてくださいます。

 そして私がすっかり見とれてしまった中嶋朋子さんは、細くて小さな身体に静けさと熱さが常に同居しているように映りました。休憩時間に打ち解けた気さくな雰囲気でくったくなく笑うかと思えば、長い髪をクルクルと器用にまとめて縛る動作は少女のように可憐です。中嶋さんが演じるヘザーは、バラバラになってしまった家族に自分の胸の奥深くにある悲しみ、愛情を、控えめになりながら必死で伝えようとします。その姿は、ものに例えるとすると・・・深い藍色の宝石のようでした。

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ヘザー(中嶋朋子)とサニー(北村有起哉)

 今回もまた北村有起哉さん演じる長男サニーの、新たな一面を発見することができました。お母さんと話す時とお姉さんと話す時とでサニーの態度は全く違うんですよね。当然といえば当然ですが、役者さんはシーンごとに細切れに演技をされますから、その豹変振りに驚かされます。止まることなく、くるくる変化する“サニー”という青年は、稽古場でもよく話題に上るんですよね。
 栗山「イギリスなんて大学に入ったらみんな寄宿舎に入るから、20歳過ぎてまだ親と一緒に住んでるなんて考えられない。サニーは相当ダメなヤツだよ(笑)。」
 栗山「サニーの歌は高音と低音で音域が広く飛ぶけれど、それはね、シャン・カーンがコーランとの差を表してるんだと、僕は思う。コーランは同じぐらいの音域の中で単調なリズムで読まれるでしょ。」

 レポート〔2〕でも書きましたが、サニー(北村有起哉)が小石のように丸く固まってしまうシーンがあります。サニーは一度信じたら鉄砲玉のように一直線に飛んでいってしまう、軽率で、甘えん坊の困った青年ですが、湧き水のように澄んだ純粋な心を持っています。その彼が、身から出た錆びとはいえ心底傷ついて、誰かに必死で寄りかかって泣き崩れるのを見て、色んな感情が混ざった複雑な状態になってしまいました。笑えば笑うほど、涙が溢れ出てきてしまうのです。

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一人で練習!

 北村さんって、止まったら死んじゃうサメみたい(笑)! いつも何かをしていて、何をしていても絵になる方です。その絵もただの静止画じゃなくて、アニメーションみたいに連続したコマ送りの絵になって記憶に残ります。短い休憩の間に外に出て、すぐに帰ってきたかと思ったら「マーボー丼食べてきた!」ですって(笑)。
 ←ドアでこっそり何かの練習されています。
 栗山「君はずーっと一人でやってなさい(笑)。」

 ⇒稽古場レポート〔5〕に続く

出演=中嶋朋子/北村有起哉/銀粉蝶
脚本=シャン・カーン 翻訳=小田島恒志 演出=栗山民也 美術=島次郎 照明=勝柴次朗 音響=秦大介 衣裳=宇野善子 ヘアメイク=佐藤裕子 演出助手=宮越洋子 舞台監督=米倉幸雄 照明オペレーション=田中弘子 音響オペレーション=黒野尚 演出部=川原清徳/大野雅代/藤波三幸 プロンプター=山本美也子 美術助手=松村あや 制作助手=庭山由佳 制作担当=茂木令子 広報=高梨木綿子 芸術監督=栗山民也 主催=新国立劇場
【発売日】2007/02/12 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円
公式サイト=http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/10000121.html
ぴあ=http://info.pia.co.jp/et/play-p/cleanskins/cleanskins.html

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Posted by shinobu at 2007年04月10日 11:24 | TrackBack (0)