青木秀樹さんが作・演出されるクロムモリブデンの2週間公演です(過去レビュー⇒1、2、3)。東京公演の後に大阪公演もあります。上演時間は気持ちの良い1時間30分。
タイトルがかなり私好み。もらったパンフも『パンフ地獄』だった(笑)。
⇒CoRich舞台芸術!『マトリョーシカ地獄』
≪あらすじ≫ ちょっとネタバレあり。でも読んでから観に行っても問題ないと思います。
文房具店で万引きをした女(奥田ワレタ)が、店員(久保貫太郎)に見つかって事務所に連れて行かれた。女は「警察や会社に届けられたらどうしよう?自分の人生はここまでなの?!」と恐怖におののく。一方店員はというと、前々から目をつけていた好みの女だったから事務所に連れてきたのだった。男は「弱みにつけこんで脅迫して、襲っちゃおうか?いったいどうやったら彼女は僕と結婚してくれるだろう!?」とよからぬことを企む。2人の妄想は、それぞれの中から色んな人格を生み出していき・・・。
≪ここまで≫
小さな机が等間隔に並ぶ抽象美術は赤と黒が基調になっていて、登場人物はわかりやすくヴィヴィッドな色分けをされた衣裳を着ています。空間全体としては尖がっててキッチュな印象。劇画タッチなセリフ回しやダンスなど、演技にバリエーションがあって、普通にストーリーを追うだけではない楽しみがあります。
描いているテーマやセリフ、演出は個性的で面白いと思いました。色んなことを考えながら帰れるのって嬉しいです。でも役者さんの舞台上での存在の仕方や動きの雑さが気になって、上演中はあまり入り込めなかったですね。
ここからネタバレします。
タイトルのマトリョーシカのように、一人の人間の中から色んな人格が出てきます。善悪や本音と建前の間を揺れ動く心理状態を、多人数の役者さんを使って表現するのは面白いです。また、多重・多層になっている心の中の何かひとつに責任をなすりつけて、てっとり早く解決してしまおうとする、人間の悪い癖がよく表れていました。
いつも“良い子”でいようとして冒険をせず、自制心ばかりを大切にしてきた現代人が、ちょっぴり悪いこと(万引き)をすることで気持ちが開放される様子は、滑稽だけれど爽快だし少し共感します。でも悪事はやはり悪事、甘い罠にはまった代償が壮大な設定で、でもチープに描かれます。このテイストがクロムモリブデンの個性ですよね。戦車の被り物が可愛かった。
人間の身体から悪意や暴力性が外に飛び出して、それが集まって怪物(この場合は象)になって人類に襲いかかってくるのは、現実社会をうまく風刺しているように思いました。その暴力が最後には自分自身に跳ね返ってくるのも納得です。
暴力が有形化した象(象の形をした風船)を手にとってみると、その象もまた入れ子構造になっていて、大きな象から小さな象が生まれてしまうというラストも気が利いていますよね。
暴力を振るうシーンをストロボ照明の中でダンスを踊るように振り付けていたり、車に乗っている状態を身体を立てのりに揺らして表現したり、「おぉっ!」と乗り出して引き込まれるところもありました。でももっともっと、グルーヴ感が高みに登っていけるはずだと思うんですよね。
それはたぶん、私の感覚ですが、役者さんの演技の質感に因るのではないかと思います。顔を真っ赤にして熱く早口でがなりたてたり、いかにも「がんばって走ってます!」といわんばかりに走ったり、そういった目に触れやすい一生懸命さに気持ちが冷めてしまうことがありました。やみくもに突っ走るだけでなく、高みから舞台および自分自身を見下ろす冷めた視点をもった演技も、取り入れてもらいたいと思いました。
≪東京、大阪≫
出演=森下亮、金沢涼恵、板倉チヒロ、重実百合、奥田ワレタ、木村美月、久保貫太郎、渡邉とかげ、板橋薔薇之介
作・演出=青木秀樹 音響効果=笹木健司 照明=床田光世 美術=ステファニー(劇光族) 舞台監督=塚本修 演出助手=北川大輔(劇団綺畸) 小道具=man 板子誠 美粧=増田加奈 平野美沙子 宣伝美術=藤永純一郎 さくらの 宣伝写真=安藤青太 パンフレットデザイン=鈴木由紀子 ビデオ撮影=菊地佳貴 制作=金澤裕 塩田友克 安井和恵 野崎恵 プロデューサー=遠山浩司 企画・製作=office crome
前売り2800円 当日3000円 4/26昼は昼ギャザ 中高生割引(当日のみ)1000円
http://crome.jp/
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