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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年04月30日

こまつ座『紙屋町さくらホテル』04/29-05/05俳優座劇場

 もともとは新国立劇場のこけら落とし公演として上演された作品です。新国立劇場、こまつ座で何度も再演と多地域公演をを重ねています。私は2度目(⇒1度目のレビュー)。
 やっぱりボッロボロ涙を流しての観劇になりました。家族を連れて行って良かったです。上演時間は約3時間20分(15分の休憩を含む)。当日券は完売していました。
 
 ⇒CoRich舞台芸術!『紙屋町さくらホテル
 レビューをアップしました(2007/05/01)。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。改行を変更。
 昭和二十年、五月、広島。
 紙屋町ホテルは、名優丸山定夫(木場勝己)とスター女優園井恵子(森奈みはる)を迎えた。そして、女主人(中川安奈)をはじめ宿泊客までが、まるごと移動演劇隊「さくら隊」に入隊することになる。公演は2日後。演し物は「無法松の一生」。しかしかれらの前途には山のような困難が待ち受けていた。
 役者はみな素人。しかも薬の行商人を装う男は、じつは海軍大将(辻萬長)。傷痍軍人もじつは陸軍省の密偵(河野洋一郎)。さらに彼ら全員を、特高刑事(大原康裕)が監視している。
 はたして。「さくら隊」はぶじに芝居の幕をあけることができるのだろうか。
 大日本帝国存亡のときに、全国を行脚した天皇の密使。海軍大将長谷川清(辻萬長)が、広島で邂逅した、あのかけがえのない三日間。
 原爆で逝った愛しき人びとの歌声が、青空のかなたから、いまも長谷川の胸に、清らかに響く。
 ≪ここまで≫

 こまつ座ならではの歴史音楽劇。2度目ですが改めて知りなおした事実やメッセージも多くあり、やっぱり観に行って良かったと思いました。
 でも、幕開けが私の期待するこまつ座っぽくなかったんですよね。新国立劇場での再演では最初の「すみれの花、咲く~♪」という歌声とともに涙があふれ出してしまうほど、そのホスピタリティや人物の輝きに胸打たれたはずなんですが、今回は第1幕全体が説明っぽくて、歌にも力がなく、「いったい何が起こった(変わった)んだろう?」と勘ぐりたくなるぐらいのがっかり感に襲われました。

 しかしながら第2幕からはコミカルな劇中劇や偽名を使った人物の正体探りなど、熱くてスリリングな場面が続き、徐々に井上戯曲の中へと入り込むことができるようになりました。戦争の犠牲になった(これから原爆で死んでしまう)人々の思いを愛をもってつぶさに伝えながら、こんなに大きな犠牲を払ってまで守る国体とは、戦争の意義とは何なのか、誰がその責任を取るべきなのかという確信へと迫ります。勇猛で優しいことばに、涙が溢れ続けました。また、自分が前回とは全く違う考えを持っていることにも気づき、この数年で演劇に教えられたことの大きさを再確認しました。

 ある舞台俳優さんがこのお芝居のことを、「井上ひさしさんから役者に贈られたプレゼントだ」とおっしゃっていたと聞いたことがあります。俳優さんはぜひご覧になると良いと思います。

 暗転中の音楽が全体的にミスマッチな気がしましたね。NHKの昔の幼児番組で使われてそうな曲が、真新しく録音されたような状態で流れます。ブンチャカ、ブンチャ、みたいな。「いくらこまつ座でも、それはないんじゃないかな~」って感じるぐらいの時代遅れ感でした。ノイズを入れて古さを演出するとか、何らかの加工がある方が受け入れられやすいんじゃないかと、個人的には思います。

 ここからネタバレします。

 終戦直前に昭和天皇から陸軍の実体を調査してくるよう言われた元・海軍大将(辻萬長)は、GHQの職員(元・陸軍省の密偵:河野洋一郎)のもとを訪れ、「自分の目、鼻、耳は御大(天皇)のものであった。すなわち自分自身は天皇である」と自負した上で、巣鴨拘置所に自分を戦犯として収監するよう迫ります。日本軍がアメリカ軍と戦っても勝ち目がないことを知りながら、和平交渉への決断を遅らせたことでどれだけの人命が失われたか。『夢の痂(かさぶた)』を思い出し、前回とは反対の感想を持ちました。

 元・タカラジェンヌの新劇女優役の森奈みはるさんは、新劇をやっている時よりもタカラヅカをやってる時の方がきれいでした。歌の声が出ていなくて残念。
 言語学者役の久保酎吉さんが、教え子の遺言を読むシーンで号泣。久保さんの存在感は私がいつも期待しているこまつ座の空気を最初から作ってくださっていました。

≪他地域公演ののち、東京≫
出演:辻萬長、中川安奈、木場勝己、森奈みはる、久保酎吉、河野洋一郎、大原康裕、栗田桃子、前田涼子
作=井上ひさし 演出=鵜山仁 音楽:宇野誠一郎 美術 :石井強司 衣裳 :前田文子  照明 :服部基   音響 :斉藤美佐男   振付 :謝珠栄  歌唱指導 :宮本貞子   方言指導 :大原穣子   宣伝美術:和田誠 演出助手 :宮腰洋子 舞台監督 :加藤高 制作=井上都 高林真一 谷口泰寛
【発売日】2007/03/24 学生割引3,150円 一般5,250円
http://www.komatsuza.co.jp/

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Posted by shinobu at 2007年04月30日 21:05 | TrackBack (0)