青年団演出部の西村和宏さんの青年団内自主企画。『World's end』に続いて2度目になります。脚本はサラダボールの鈴木大介さん。
チラシの第一印象とはかけ離れた内容だったと思います。色んな深読みができて楽しめました。上演時間は1時間5分です。
⇒CoRich舞台芸術!『Unit』
レビューをアップしました(2007/05/05)。
≪あらすじ≫
ある新興宗教団体の事務所の地下。若い信者がぬる~い雰囲気で修行中。そこに新入りがやってきて・・・。
≪ここまで≫
青年団(とTHE SHAMPOO HAT)の役者さんによるごく自然な演技によって、カルトと呼ばれて世間からバッシングを受ける人々のある日の様子が淡々と描かれます。有名な集団のことを隠喩してることはすぐにわかります。たわいない対話やさらりと起こってしまう出来事の中に、皮肉の効いたユーモアがふんだんに織り込まれていました。爆笑ポイントがけっこうありましたね~。
でも私のように受け取った人って、そんなに多くなかったんじゃないかしら。あの集団のことを描いたパロディだと受け取るだけだと、「なんだ、それだけ?」って感想にならざるを得ないかもしれません。私は前回公演で疑問がいっぱい残っていたため、今回は観る前から懐疑的というか、裏読みをするつもりで伺ったので、運良く最初から楽しめたのだと思います。
「これは何かを暗示・隠喩しているのかも?」と観客がおのずと気づく(ひっかかる)ことになるような、演出的・演技的な工夫がもっと沢山、あからさまにあるといいんじゃないでしょうか。実在した集団のことを自己流に少々アレンジしただけだと受け取られるのはもったいないですよね。
ここからネタバレします。
モデルはオウム真理教でした。時代は地下鉄サリン事件が起こった直後あたり。教団のビルの周りには野次馬も含め、信者を糾弾する人々が集まっています。信者たちはバスに乗って違う土地へと移り住む準備をしており、部屋にはパッキング済みの段ボール箱がたくさん並んでいます。そんな危機的状況にいるにも関わらず、信者たちは呑気です。
あの地下室は地球、国、会社、学校、家など、人間が集まっている場所すべてに当てはまるように思いました。信者は国民とか会社員とか、ある集団の中で活動している人間を表します。
「嘘は破戒(ルール違反)だからね」と言いながら、自分も嘘をつきまくる信者たち。本音と建前もここまであからさまだと笑えます。
何かを街に散布して多くの人を殺したのは、おそらく自分の教団の上部の人間であることがわかってるにも関わらず、信者たちは「そうなのかもね、でも私は知らないし。」とひょうひょうとしています。自国が外国に軍隊を派遣しているのに、自分は戦争なんて知らないし関係ないと思っていること、ありますよね。
登場する女性信者は全員が青山と呼ばれおり、時々誰が誰を呼んでいるのかわからなくなります。でもそのまま放置。最終的に教団内で呼ばれる名前は本名ではないことも判明します。自分の本名を忘れてしまっている人もいました。家柄や学校、会社など、肩書きだけを振りかざして自分自身を見失っている人を表しているように思いました。
今さらなぜか入信を希望してきた女(滝沢恵)の行動がとても荒っぽく、おごそかに見守られる“聖なる火”をサクっと吹き消したのには爆笑しました。全く予想が付かないことが起こるのが、この世の中なんですよね。そんな不測の出来事に対応しようとして(対応しないでいようとして)どたばたする姿が失笑を誘いました。何もかも“金髪の男”のせいにする安直さが最高に可笑しかった。
男の信者が血液型がAB型の人をずっと探していましたが、見つかりません。なんと教祖が刺されて倒れていたというのが後からわかりますが、皆、知らん顔。「AB型の人、いませんか?」とビルの外に出て探しに行き、ボロボロにされて帰ってくる様はおおげさに演出されていました。緑色の服の男(佐藤誠)なんてズボンがビリビリに破れていて、あれには爆笑しましたね。
女性信者(山本裕子)が「人間はいつか必ず死ぬ。だからいつどうやって死んでもそれが運命。誰のせいだとかは関係ない(考える必要がない)。良い転生をするよう祈りましょう。」という意味のことをいけしゃあしゃあと言い切ります。ひどい詭弁ですよね。
出演者=村井まどか、佐藤誠、滝沢恵(THE SHAMPOO HAT)、小林亮子、山本裕子
脚本=鈴木大介(サラダボール)、西村和宏 演出=西村和宏 照明=岩城保 舞台美術=濱崎賢二 舞台監督=畑中友仁 衣装=兼松光 宣伝美術=西村和宏 制作=西村企画 総合プロデューサー=平田オリザ
【発売日】2007/04/01 予約・当日共 全席自由・日時指定1,800円
http://unit07.web.fc2.com/index.html
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。