新国立劇場演劇研修所1期生の初めての試演会に伺ってきました(⇒記事)。いわば研修所自体の公のデビューの日でもあるんですよね。2005年4月の開講前から勝手に注目してきたので、ただの観客なのに超緊張しながらの観劇になりました(苦笑)。上演時間は約3時間弱(休憩15分を含む)。
CoRich舞台芸術!⇒『音楽劇「三文オペラ」』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
19世紀末のロンドン。乞食の元締めのピーチャム(北川響)の娘ポリー(小泉真希)は、盗賊団の首領マクヒス(前田一世)にかどわかされ、両親に黙って結婚してしまう。ピーチャムは、仕返しのためマクヒスをロンドン警視庁に密告するが、その総監ブラウン(古川龍太)はマクヒスとは、かつての戦友で、裏で手を握っていた。そこでピーチャムは智恵を巡らし、ブラウンとマクヒスを追い詰めようとする・・。
≪ここまで≫
新国立劇場の小劇場で生演奏付きで・・・ホントに贅沢!演出の宮田慶子さんをはじめ美術は松井るみさん、衣裳は前田文子さんと、スタッフには新国立劇場の本公演を担当されるようなプロばかりが名を連ねています。これで無料なんですから1観客としては何も文句はありません。この後、今年度中にあと2回の試演会があるそうです。・・・すごい。若い役者さんは迷わず受験すべきでしょう。こんな贅沢な演劇学校は日本ではここだけです(今のところ)。
さて、小劇場をぐんと広く使ったステージでした。縦に長い長方形で、凹型に客席が囲みます。高さは最前列の客席と同じレベルで、正面奥の方に数段登れる階段はありますが、何もない床ががらーんと広がっている感じでした。役者さんは舞台で演技をするとき以外、舞台の周りに置かれたイスに腰掛けて待機するスタイルです。皆さん出ずっぱりってことですね。横側の客席後方に大道具、小道具(机、イス、衣裳など)が置いてあり、使うときだけ客席の通路を通って舞台に持ってきます。大掛かりな美術の転換などはなく、役者さんの力量がより大きく問われる空間だったと思います。
『三文オペラ』はブレヒト作、クルト・ワイル作曲の超有名な音楽劇。ストーリーが深くて面白いし、歌詞も音楽も素敵だし、個人的にとても好きな作品です。私が舞台で観るのはこれが3度目(過去レビュー⇒1、2)。有名なミュージカル俳優が出演しても、新劇の老舗劇団が上演しても満足させてもらえるとは限らない、難易度の高い作品だと思います。だから、若い研修生が発表会で上演するには、『三文オペラ』は少々荷が重かったのではないかしら・・・というのが第一の感想ですね。開幕の時のあの堅さ、驚くほどのガチガチムードでした(笑)。でも作品について新しい発見があったり、登場人物一人一人について深く味わうことができたので、観客としては充分に楽しめました。
演技については、私がよく拝見する20~30代の役者さんと何かが違いました。何なんだろう・・・。声、なんじゃないでしょうか。“澄んでいる”というのだと簡単すぎるんですよね。足の裏がぴったり地面に張り付いていて、存在に疑いがないというか・・・もともとの声以上の声が出ているように見えるんです(「あんなか細い体から、どうしてこんな凄い声が出るんだろう!?」とか)。響きの中に不思議な説得力があって、聞き入ってしまったんだと思います。
アンサンブルがとても良かったですね。2年間、毎日朝から晩まで一緒に学んできた15人ならではのコミュニケーションなのか、あ・うんの呼吸を生む訓練の賜物なのか、私には理由はわかりませんが、役者さんたちは恐る恐る探りあったり、妙な距離を持ったりすることなく、スムーズに関わりあっていました。あの呼吸はなかなか観られないものだと思います。
研修所は歌の専門学校ではないので最初から期待していませんでしたが、歌だけで感動させてくれた役者さんはさすがにいなかったですね。ルーシー役の内田亜希子さんの歌はソロで聞いてみたいなと思いました。
役者さんは皆はつらつとしていて魅力的でしたが、特に印象に残ったのはポリー役の小泉真希さん。大悪党に惚れてしまうお嬢様を無邪気な愛情たっぷりに、大胆に演じてらっしゃいました。長いソロで声が出なくて、はらはらして今にも泣き出しそうになっているように見えたんですが、それさえもすごく愛らしくて目が離せませんでした。何に例えたらいいのかしら・・・不安定でぷるぷるしてて壊れそうで、ものすごく柔らかくて透き通りそうなほど可憐で・・・。甘いプリンみたいな女の子、かな(笑)。
ソロで聞かせてくれたのは娼婦ジェニー役の河合杏奈さん。あんなに細い身体でこんなに太い声が!?
セリフは少ないんですが、娼婦フィクセン役(アイロンがけをしていた女)の高島令子さんは堂々と落ち着きのある存在感で、ただ座っているだけでも目を引きました。どんな役でもできそうな感じ。
マクヒス役の前田一世さんとピーチャム役の北川響さんは、膨大なセリフと歌を担っている大役でした。若い男優さんには大変な仕事だと思います。お二人とも言葉をとても大切にしてらしたので、意味がわかりやすかったです。
オカマの悪党ウォルター役の山本悠一さんが、きびきびした動きと艶の有る声で目を引きました。
警官スミス役(ロバート役も)の窪田壮史さんがアドリブ(おそらく)で笑わせてくださり、メタ芝居的な要素が付加されたように感じられて良かったです。演出にそういう意図はなさそうですが。
ネタバレ感想をアップする予定です。・・・と思ったんですが、曲目のみ追加(2007/10/20)。
【曲目】
「モリタート」
「そのかわりのソング」
「海賊ジェニー」
「大砲ソング」
「愛の歌」
「バルバラソング」(ポリー「ダメ!」)
「人間関係のもろさについて」
「色の道のバラード」(ジェニーとピーチャム夫人)
「ヒモのバラード」
「快適な暮らしのバラード」
「焼きもちデュエット」
「人間は何によって生きるのか?」
「心の努力の足りなさの歌」
「乞食の歌」
「墓穴からの呼びかけ」
「ソロモン・ソング」
「馬に乗る使者の登場」
「モリタート」
“光があたりゃ報われるけど やっぱり俺たちゃ真っ暗みさ”
『三文オペラ』Die Dreigroschenoper by Bertolt Brecht 初演1928年8月、ベルリン・シッフバウアーダム劇場
出演:新国立劇場演劇研修所第1期生15名:内田亜希子(ルーシー)/岡野真那美(ドリー)/河合杏奈(ジェニー)/小泉真希(ポリー)/高島令子(フィクセン)/二木咲子(ピーチャム夫人)/眞中幸子(ベティー)/北川響(ピーチャム)/窪田壮史(ロバート/スミス)/野口俊丞(ジェイコブ)/古河耕史(マティアス)/古川龍太(ブラウン警視総監)/前田一世(マクヒス)/三原秀俊(フィルチ)/山本悠一(ウォルター)
演奏:高良久美子(パーカッション)・中秀仁(サックス、クラリネット)・阿部一樹/木坂麻美(トランペット)・中條純子(ピアノ/キーボード)
作:ベルトルト・ブレヒト 作曲:クルト・ワイル 演出:宮田慶子 音楽監督:久米大作 美術:松井るみ 照明:川口雅弘 音響:福澤裕之 衣裳:前田文子 振付:夏貴陽子 歌唱指導:伊藤和美 衣裳助手:佐野友余 演出:松井美保 小松みどり 演出助手:松森望宏 舞台監督:増田裕幸 稽古ピアノ:中條純子 協力:馬場順子 演劇研修所所長:栗山民也
入場無料(予約制) 受付開始:2007年4月23日~
公式=http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000038.html
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