李六乙(リー・リュウイ)さんと平田オリザさんが脚本・演出を手がけ、日本・中国の両国からキャスト・スタッフが揃った作品です。香港、北京公演を経ての日本初演。
新国立劇場で上演された平田オリザさんの国際共同製作といえば『その河をこえて、五月』です。だからメルマガ2007年5月号で一番のお薦めだったんですが・・・見終わった時の第一の感想は「全然意味がわからない!!」でした。でも・・・めっちゃくちゃ面白かった!そんな感触です(笑)。「意味わかんなくてもいいよ~」という方は、ぜひ♪ 上演時間はカーテンコールを含めて2時間ちょうどぐらい。
⇒CoRich舞台芸術!『下周村(かしゅうそん)』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
中国四川省あたりの町外れの宿屋。近くの古代遺跡の村では300年にわたり贋の文化財を作ってきたが、最近新しい古代遺跡が発見され、村の住人、噂を聞きつけた中国人、考古学者、日本人学生やサラリーマンなどさまざまな人々が宿屋に集まってきた。新遺跡発見で歴史が塗り替えられるとはどういうことなのか。数千年前の文化財と300年前の先祖が作った偽物とは何が違うのか。歴史とはいったい何か。急速に発展する中国で様々な価値観を持つ中国人と、遺跡騒動のなか、中国奥地までやって来た日本人との出会いから、日中の現在が浮かび上がる。
≪ここまで≫
舞台三方が白い布で囲まれており、真四角の空間になっています。その布に描かれているのは美しい山などの水墨画。いかにも“中国”らしいムードです。置かれている家具も中国風ですが、塗りが施されていない白木の状態なので、空間全体が白と黒(灰色)のモノトーンに近い色彩にまとまってスタイリッシュでした。上手奥には山の上から水を引いているのであろう水場があります。
最初のうちは、歴史を書き換えるかもしれない大遺跡が発見されて、考古学者やサラリーマンなど、色んな人たちがそれぞれの思惑を持って集まってくる・・・という、いわば普通によくできた群像劇だったのですが、途中で演出が大転換します。
「何だ、コレ!?」と驚くままに置いてけぼりにされ(笑)、繰り出される難解なセリフたちに煙に巻かれ(字幕なのでさらに難解)、変貌する役者さんの演技に圧倒され、キョロキョロとどこを観ていいのかいけないのかもわからないままに・・・没頭していました。色んなことを考えましたね・・・。次々と新しいイメージが出てきて、舞台と自分を近づけようとするんだけど、すぐに遠ざかって・・・。観て知ったことも、そこから想像したことも全て断片のまま、放置したままに終演を迎えてしまいましたが、私にとってはものすごく豊かな時間でした。
中国人の役者さんが面白かったです。自然な演技やメロドラマ的な演技をしたかと思ったら、突然アングラ劇みたいにケレン味たっぷりになるんです(笑)。何をやっていても堂々として揺らがないのがかっこ良かった。じーーーーっと凝視するのに耐えられる存在感でした。あと、女優さんは皆さんすごく美人ですよね。
前方の座席の観客には字幕の文章をすべて印刷した冊子が配布されていました。舞台左右にある字幕が読みづらいためです。親切ですね~!私は3列目で運良くゲットできました♪見づらいといえば確かに見づらかったですが、冊子をいただけたし役者さんを間近で観られたので、前の方で良かったです。
ここからネタバレします。
たしか「ニおじいさんの家が崩れた!」みたいなセリフをきっかけに、舞台を囲んでいた水墨画の幕がカーテンを開けるように取り除かれていきます。後ろから表れたのは不気味に赤く染まった空。ところどころに登場人物(であろう人間)が描かれていて、みんな驚いていたり怖がっていたり、ヘンな顔をして空にぶら下がっています。抽象画といえばいいでしょうか。
シンプルだった照明もどんどん大胆に変化するようになり、役者さんは対話のセリフを独白みたいに話したりし始めます。考古学者(于洋)が豚の気持ちを代弁するのは面白かったな~。パンダのおばさんを演じる時なんて、あれは京劇の女形の振付??目も心も奪われました(笑)。
この作品のメッセージや大意は「全然わからなかった」というのが正直なところです。私が勝手に考えたこと、想像したことを下記に:
予想以上に大きな遺跡が発見されたため、歴史の教科書が書き換えられる可能性が出てきます。そうなるとそれを認めなくない学者がいたり、発掘現場に工場を建設することになっていた日本企業が困ったり、遺跡が出てきてもすぐに儲かるわけではないので、村の住民も工場ができた方が良いと思っていたり・・・。世紀の大発見よりも現実の生活の方が重視されることがあるんですよね、それも頻繁に起こっているのでしょう。
遺跡は発見されたら存在するけど、発見されなければ無いものとされています。本当は地中に存在していても。「目に見えないものは存在しない」なんて論理的には間違っているはずです。でも、見つからないうちには「ある」って言えないし・・・。ジレンマだな~。つまり、それほど私たちが信じている「歴史」なんて曖昧なんですよね。
遺跡が見つかったと言ったって、それが本物かどうか、どうしてわかるのでしょう?研究者だって間違うかもしれないし、嘘をつくかもしれません。
農民の三爺(果静林)が自宅で見つけた300年前の模造品は、いまや骨董です。「正真正銘のニセモノ」というセリフも可笑しかった。「新しい遺跡」という言葉も、それ自体が矛盾をはらんでいて可笑しいです。
本物も偽物も、今も昔も、全部がぐっちゃぐちゃに混ざったような気がしました。私は本物なのか、一体何者なのか、誰がどうやって証明できるのかしら・・・。自分で、しかないのかな。いや、私一人では無理ですよね。でも・・・何かに頼ることでは証明できないんだなと思いました。
≪香港、北京、日本≫
花に嵐のたとえもあるさ・Lost Village
出演=篠塚祥司(父)、内田淳子(母)、粟田麗(娘・大学院生)、能島瑞穂(めがねの大学院生)、佐藤誓(サラリーマン)、果静林(三爺・農民)、陳煒(宿の女主人)、韓青(私服警察・黒スーツ)、于洋(考古学者・豚になる)、林熙越(犯罪者・白い服)、薛山(玩家・うんちくを言う)、劉丹(女主人の妹・北京で働く)、王瑾(通訳)
脚本=平田オリザ、李六乙 演出=李六乙、平田オリザ 美術・衣裳=嚴龍 照明=岩城保 音響=嚴貴和 共同制作=新国立劇場/中国国家話劇院/香港アーツフェスティバル
【発売日】2007/03/18 A席4,200円 B席3,150円 Z席1,500円 当日学生券=50%割引
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/10000122.html
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