POTALIVE(ポタライブ)とは、「散歩をしながら楽しむライブ」のこと(公式サイトより)。好評だった2006年3月公演の再演だそうです。私は初体験。5/13に伺いました。
15:30に駒場東大前駅で待ち合わせて、案内人の岸井大輔さんが約15人の観客(というか参加客)一人一人に、今回の“お散歩”についての丁寧な説明をされました。
この作品のために岸井さんが駒場を歩き回り、住人にインタビュー取材をした期間はなんと3ヶ月!その成果が溢れんばかりに詰まった約2時間のお散歩は、1930年代の日本陸軍の若者とともに軍事演習所だった駒場野と出会う旅でした。
あぁ、写真撮ればよかった・・・。そんな気分にならないほど、どっぷりとお散歩を味わっていたんですね。POTALIVEの次回公演は今年の8/4~9/4。こまばアゴラ劇場夏のサミット内の企画です。
CoRich舞台芸術!⇒『museum』
レビューをアップしました(2007/07/31)。
駒場東大前・・・。20代の頃の私にとっては鬼門でした。学生時代に東大で劇団活動をしていたんですが、それがほとんどトラウマになっていてですね(苦笑)、数年前までは駅に降り立つことさえもできませんでした。でも今ではこまばアゴラ劇場の最寄駅ということで、ウキウキする場所になっています。
待ち合わせ前に昔の彼氏のアパートを見に行ってみたら(←痛いよ、しのぶさん!)、大きなマンションに建て替えられていました。もう15年以上経つのかな。
そんなプライベートな思い出が満タンの駒場東大前が、岸井さんのガイドによって全く違う側面を見せてくれるようになります。京王帝都井の頭線・駒場東大前駅から東大敷地内の森林、駒場小学校の明治天皇駒場野聖跡碑を見て駒場野公園へと進みました。
1936年(昭和11年)のニ・ニ六事件(Wikipedia)等にまつわる膨大な知識を披露しながら、岸井さんは時に案内人、時にインタビューを受けた老人などになりきって語りつつ、散歩を誘導していきます。最初はとっつきにくかったんですが、ただ導かれるままについていって、森林浴をし、語られる情報を頭に入れて味わって、無理をしないで考えながら歩きました。それは単純に気持ちのいい“団体散歩”の時間でした。
ダンサーの木室陽一さんが坂を駆け下りるように舞う姿を彼の背後から見つめた瞬間、自分が観ていた風景がぐにゃっとうねる様に変化しました。「駒場野公園の脇の道」がただの「道」ではなくなったのです。童話に出てくる空に浮かぶ道のような、夢に見た秘密の抜け道のような、私の死んだ曽祖父・曾祖母が今も歩いている道のような、三次元以外の性質(っていうのかな)を持つものになったのです。
そこからは驚きの連続でした。淡島通りの車道を馬が走っているように感じたり、自分が歩いている歩道や壁が「いらっしゃい」と語りかけてきたり。大砲の訓練をしていた広場では、汗だくで走る若い兵隊さんが見えたような気がしました。昔の男子学生がぽつんと佇んでいる風景は、どこかの写真集とか映画とかで見たような、ものすごく絵になるものだったりもしました。岡田利規さんはアンゲロプロスっておっしゃってますね。
道に、演劇がある。家に、物語がある。日常の中に、夢がある。演劇は、私が今見ている、生きている瞬間に存在しているものなんですね。それを可視化してくれたんだと思います。劇場というハコの中に入って夢を見るのも素晴らしいことですが、実は何も特別な行動をしなくたって、目の前にソレはあるんだってことを証明してくださいました。
生半可な努力では成立せし得ない作品だと思います。体験しながら構造のことを探ったって徒労になるだけな気がします(あまりに深くて巧妙だから)。だから観客は、難しいことを気にせず、ただ素直に味わうことが大事なんじゃないかしら。一人の人間として、触れて、感じること。それを大らかに許してくれる参加型演劇でした。
ここからネタバレします。
最初の集合場所で岸井さんから「タイトルを『museum』から『アラ』にアラためます」と言われました。「ミュージアムって言ったって、駒場の駅前にはそういうのは見当たらないし」という理由だったのですが、ちゃんと最後に『museum』も上演されたんです。
歩兵第1連隊中尉だった栗原安秀の家から松見坂に出て、終幕。最後に上演された短編『museum』には、山の手通りとそこから見える風景全体が、外国人に日本を紹介するために作られた美術館だったという結末が用意されていました。それを深く納得するために、駒場東大前駅からの散歩(『アラ』)がありました。確かに最初から『museum』というタイトルだったら、2時間の散歩が『museum』を説明するためのものになってしまい、興ざめだったかもしれません。
実は『museum』も散歩の始まりから『アラ』と平行して味わっていたんですよね。戦時中の学生のような風貌の男の子2人と、テンションが高すぎるヘンな女性ダンサー(笑)が、道中のところどころで「駒場っていいな~♪」という歌を大声で歌ったりしつつ、演技をしていました。『アラ』という全く違う作品を体験することで『museum』(の結末)が理解できるという仕掛けは見事だと思います(『museum』に『アラ』が含まれていたと考えればいいのかも)。
車が激しく行き交う山の手通りをバックに、戦時中の男子学生と女性ダンサー、岸井さんが現れたラストシーンでは、昭和の日本人(私のご先祖様)と私とが東京の町(道)に溶け合ったように感じ、しばらくその風景の中に、じーっとたたずむことにしました。でも次の予定が詰まっていてすぐに帰らなきゃだめだったんですよね・・・残念。
人間は変わりますね。全く解決されないまま放置された問題も、時間が経過することで何らかの形になるんですね。でもその形状が変化し続けるんですが。私たちはその変化の瞬間瞬間を生きているんだと思いました。
『アラ』
出演:垣内友香里(ダンサー/BennyMoss主宰) 木室陽一(振り付け家・ダンサー/POTALIVE主宰) 笠木真人(俳優) 愛川武博(俳優・演出家/演劇集団 移動する羊主宰)
作・演出・案内=岸井大輔(劇作家/POTALIVE主宰)
『museum』
出演:垣内友香里(ダンサー/BennyMoss主宰) 笠木真人(俳優) 愛川武博(俳優・演出家/演劇集団 移動する羊主宰)
作・演出・案内=岸井大輔(劇作家/POTALIVE主宰)
http://d.hatena.ne.jp/POTALIVE/
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