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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2007年06月05日

劇団、本谷有希子『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット』06/04-24吉祥寺シアター

 劇団、本谷有希子はその名のとおり、本谷有希子さんの作品を上演するプロデュース団体です(過去レビュー⇒)。今作は2001年の『ファイナルファンタジー』のリメイクだそうです。

 吉祥寺シアターの空間を使いきれていないように感じましたし、役者さんもまだまだおぼつかない様子でした、が、最後は興奮~~~(笑)! あぁ、やっぱり私は本谷さんのフェティシズム(って言っていいのかわからないけど)が好きですね。

 ⇒CoRich舞台芸術!『ファイナルファンタジックスーパーノーフラット
 レビューを最後までアップしました(2007/06/10)。

 ≪あらすじ≫ 少々ネタバレしています。読んでから観に行っても問題ない程度だと思います。
 さびれた遊園地。ウサギの耳付きのカチューシャをつけた若い男・トシロー(高橋一生)のもとに女たちが集まっている。彼女らは自殺志願者サイトの掲示板でトシローに出会い、彼の励ましのおかげで自殺を思いとどまったのだ。皆んなトシローを慕っている。遊園地にほぼ軟禁された生活を送りながら、彼女らは従業員・縞子(笠木泉)の指導の下、トシローの昔の恋人ユクになるよう毎日特訓されている。白いシャツに青いスカートを着て、おかっぱの黒髪にして、話し方から動き方までユクそっくりになるように。
 小説家の琴音(吉本菜穂子)もトシローのもとに逃げてきた一人だ。琴音の夫・夏超(ノゾエ征爾)と琴音の後輩で同じく小説家の詠子(すほうれいこ)が、琴音を連れ戻すためにやってくるが・・・。
 ≪ここまで≫

 吉祥寺シアターの黒い壁を利用した四角い暗闇。舞台中央奥に観覧車の丸いブースがひとつ。同じく観覧車の一部であろう太くて真っ赤な鉄のパイプが、舞台下手に斜めにそそり立っています。

 インターネット、ひきこもり、同人誌、アニメ、「萌え」など、今どきの題材がいっぱいです。露骨に卑猥なセリフが多くてとっつきにくさもありましたが、大人が見る子供っぽい夢が、下世話な現実と隣り合わせになっている感覚に強い親近感を覚えました。

 「夢・理想を見る」⇒「それを得るために努力する」⇒「理想が得られない」⇒「辛抱強く求める」⇒「我慢する・耐えることが快感」⇒「その快感を持続させるために現実を見ないようにする」・・・というように、どんどん手段が目的化していき、本来の人生の目的が失われていきます。そんな自分を自覚しながら、その世界でどっぷりと楽しんでしまうから大変(笑)。どれだけ深くハマっていっても終わりがない、底なし沼のような自意識です。

 キャラクターの屈折した性格やそれゆえの愛らしさなど、脚本に書かれているはずの人物像を役者さんが表現できていないように思いました。舞台空間もがら~んとした印象がぬぐえず、演劇作品としては決して満足はできない仕上がりでした。
 でも、最後はホントにゾクっときて、興奮して、にんまり笑っちゃいましたね~(笑)。『乱暴と待機』の感覚と似てるかも。
 一言のセリフでパラパラと表裏が入れ替わっていくのがスリリングです。

 ここからネタバレします。

 トシローは決して自分を裏切ることのない二次元(漫画、アニメ)の世界を一方的に溺愛し、その中に没頭していたいと思っています。昔の恋人ユクの理想像を汚すことを最も恐れており、いつまでもユクのためだけを想い続ける自分に酔っています。

 でも人間は、漫画やアニメと同じく二次元のインターネットの世界で、掲示板の中傷書き込みに胸を痛めたり、見知らぬ誰かのメールで実生活を変化させたり(この作品では自殺をやめたり)しますので、いくら二次元と言っても関われば当然影響を受けるし、自分からも与えちゃうんですよね。トシローはそういう現実をわざと見ないで自分を騙し続けようとするのですが、当然のことながら無理が出てきます。 

 トシローの理想の恋人ユクとは、トシローにいじめられまくっている冴えない従業員・縞子だったとわかってから面白くなりました。インターネットの自殺志願者掲示板で知り合ったトシローとユク(縞子)は意気投合して恋人同士になりますが、そもそもユクというネット上の架空の人物を演じていた縞子は、トシローに本当の自分を知ってもらいたいと告白します。これにトシローが幻滅し、理想の恋人ユクを汚した縞子を虐待する日々が始まります。倒錯してるな~(笑)。

 でも、結局トシローは縞子のことが好きだったんですね。めちゃくちゃいじめてたんだけど、最後は縞子を連れて観覧車に向かいます。ピンクと黄色の照明がスモークに映って、電飾もぴかぴかして2人を無理矢理に照らします。「あぁ、来たよ、来た来たっ!」とわくわくする私を裏切るように、縞子が豹変!「私、トシローちゃんのこといやになるかもしれない。だって、なんか優しすぎて・・・」(言葉は正確ではありません)・・・そっか、縞子はそもそもマゾヒストで、サディスティックに接してくれるトシローだから好きだったのね!?私、また騙された(苦笑)! トシローは「それでもいい!」と叫んで縞子がいる観覧車に乗り込み、向かいの座席に座ってウサギの耳をはずします。もう、耳をはずすところで大興奮っ(笑)!
 生身の人間は二次元の少女(同人誌に載っている美少女など)とは違って、心変わりするし自分を裏切ると知っていながら、トシローが耳を取る(自分の夢の世界から出る)ことを選んだことにゾクっと来ました。

 スーツにネクタイ姿にウサギ耳を付けて「俺は現実に負けない」などとのたまいながら、ノリノリに歌って踊って接待カラオケしたり、自分からけんか腰になっておきながら、暴力にはめっぽう弱くてすぐにヘタったり・・・トシローはものすごく情けない男の子です。それを観て笑いたかったですね。母性本能をくすぐる可愛さを、高橋一生さんはまだ表現できていなかったように思います。私が拝見したのが2日目だったので、きっと今はもっと良くなっていることと思います。

 後輩小説家の詠子(すほうれいこ)は先輩小説家の琴音(吉本菜穂子)の夫である編集者・夏超(ノゾエ征爾)と愛人関係で、彼女も琴音と同様に小説が書けないことを悩んでいましたし、夏超が離婚してくれないことに強い嫉妬心を抱いていました。結局夏超が琴音を選んじゃうので、勝ち組に見えていた詠子が何もかもを失ってしまいます。このあたりのエピソードはまだまだ、という感じでした。

出演=高橋一生/笠木泉/吉本菜穂子/ノゾエ征爾/松浦和香子/高山のえみ/すほうれいこ/斉木茉奈
作・演出=本谷有希子 舞台監督=宇野圭一+至福団 舞台美術=中根聡子 照明=(株)ライトスタッフ・中山仁 音響=秋山多恵子 音響操作=藤森直樹(サウンドバスターズ) 衣裳=鈴木美和子 ヘアメイク指導=二宮美香 ヘアメイクアシスタント=田中講平 演出助手=福本朝子 宣伝美術=佐々木暁 イラスト=okama 宣伝写真=引地信彦 宣伝ヘアメイク=奥野展子 WEB担当=関谷耕一 制作助手=嶋口春香 安元千恵 湯川麦子    制作=寺本真美(ヴィレッヂ) 助成=財団法人セゾン文化財団 企画・製作=劇団、本谷有希子 主催=劇団、本谷有希子/(財)武蔵野文化事業団
【発売日】2007/04/28 前売:4,300円 当日4,500円
http://www.motoyayukiko.com/

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Posted by shinobu at 2007年06月05日 23:13 | TrackBack (0)