演出家の西沢栄治さんが主宰されるJAM SESSIONを初めて拝見。ハイリンド『牡丹燈籠』での演出が印象に残ったのと、同じく『牡丹燈籠』で美しかった谷村実紀さんが出演されるので伺いました。ドストエフスキーの『罪と罰』(Wikipedia)を約1時間40分で上演。
⇒CoRich舞台芸術!『罪と罰』
長編小説の『罪と罰』を短時間にまとめるので、登場人物やエピソードはかなりカットされているようです。私はちゃんと原作を読んだことがないのでえらそうなことは言えないのですが、最後の最後が腑に落ちなかったので、なぜこの作品を上演したのかな~と不思議に思った、というのが終演後の第一の感想でした。
舞台中央に2畳ぐらいの大きさのひし形の台があり、その一辺に頑丈なドアが固定されています。装置はいわばそれだけのシンプルな空間。音楽と照明、俳優の演技で物語を進めていきます。ひし形の台をぐるぐる回し、ドアを乱暴に開け閉めして場面転換するのは躍動感があります。
役者さんの声がびっくりするほど大きいんですよね~。「劇」小劇場では珍しいタイプのように思います。そして音楽が雄弁・・・過ぎました。言葉をはっきりと話せる役者さんが揃っているのなら、あんなに説明的に音楽を使う必要はないんじゃないかと思いました。
『牡丹燈籠』の時も思いましたけど、西沢さんの演出は大きな劇場でも魅力が発揮できるんじゃないかしら。次は再びハイリンドで安部公房・作『幽霊はここにいる』を演出されます。劇場はTHEATER/TOPSですか、楽しみですね。
役者さんではやはり主役のラスコーリニコフを演じる谷村実紀さんが素敵でした。でも『牡丹燈籠』の時の方が良かったな~。
ここからネタバレします。
ラスコーリニコフは、平たい言葉で言うと「くだらない人間1人を殺して立派な人間1000人が助かるなら、そのくだらない人間を殺した方がいい」という考えを持った貧乏学生です。彼は強欲な金貸しの老婆を殺し、偶然そこに居合わせてしまった善人・リザベータをも道連れに殺してしまったことに、さいなまれ続けます。大事なのは1人の人間の命は1000人の人間の命と同じように大切でかけがえがないものだと、ラスコーリニコフが気づくことだと思います。その気づきをどのきっかけで、どのように得て自首にいたったのかが見えてきませんでした。
この作品では、親友のラズミーヒンや予審判事ポルフィーリの説得(?)でラスコーリニコフは自首しますが、原作ではアル中のダメ親父マルメラードフの娘で、娼婦のソーニャのおかげで改心します。しかもソーニャが殺されたリザベータの友人っていうのもミソなんですよね。そのソーニャが出てこないっていうのは・・・ちょっと難しいんじゃないでしょうか。
老婆とその妹がラスコーリニコフに殺されるのも、金持ちのスビドリガイノフ(京極圭)が恋に破れて自殺するのも、アル中のマルメラードフが馬車に飛び込んで自殺するのも、1人の人間の命が失われる意味では同じことなんだと感じられたら、それで良かったのかもしれませんね。
アル中のマルメラードフと金貸しの老婆を一人の男優さん(亀田真二郎)が、運悪く殺された老婆の妹リザベータとラスコーリニコフを追い詰める予審判事を一人の女優さん(斉藤範子)が演じられていたのは、効果があったように思います。
出演=谷村実紀(スターダス・21)/斉藤範子/岡村まきすけ(THE黒帯)/京極圭(劇団東京ヴォードヴィルショー)/塚本淳也/赤荻純瞬(劇26.25団)/渋谷はるか(文学座)/亀田真二郎(東京パチプロデュース)/中地健太郎(スターダス・21)/山田英真
演出=西沢栄治 原作=ドストエフスキー作品より 照明=大島 早保子 音響=角張正雄(SoundCube) 衣裳=木村江梨子 舞台監督=井関景太、鈴晴香(るうと工房) 宣伝美術 SNEA WEB=SORAism 制作=松谷章代、中村真弓(Theatre劇団子) 企画・製作=JAM SESSION
チケット発売日 4月28日(土) 全席自由/日時指定 前売・当日共3000円 学生2000円(要学生証) 平日マチネ割引 2000円 リピーター割引 1500円(要チケット半券)
http://www.jam-session.info/
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