東京ノーヴイ・レパートリーシアターの第3シーズンが終了するとのことで、『ワーニャ伯父さん』『かもめ』続いて『どん底で』を拝見してきました。上演時間3時間50分(休憩15分を含む)っていうのは長すぎましたね(苦笑)。でも初ゴーリキが良い印象になって嬉しかったです。すごい脚本、でした。でもしばらく観たくないな、つらいから(笑)。
⇒CoRich舞台芸術!『どん底で、他』
⇒「マクシム・ゴーリキー『どん底』にみる社会主義体制崩壊の原因と現代日本に蔓延する社会問題の関係性」(“よろず小説取り扱いはっくん堂本舗”より)
≪あらすじ≫ パンフレットより
地下の粗末な木貸宿。泥棒、娼婦、前科者、アル中の役者など、様々な事情を抱えた男女がその日暮らしの生活を送っている。そこへ不思議な老人が舞い込み、彼らの生活が変化し始める。
≪ここまで≫
シーズンを通して基本になる装置は同じです。下手舞台手前から上手舞台奥へと、舞台を斜めに横切るように黒い壁が設置されています。壁といっても下手の方は奥がそのまま見える枠のような状態。上手では壁の前で演技をします。観客には見えない壁の向こう側の出来事を想像させてくれるので、この装置はとても面白いと思います。
『どん底で』はいかにもロシアっぽい、暗い、つらいお話です。前半は役者さんの演技にわざとらしさを感じて入っていけませんでしたが、後半の第3幕の大事件が治まった後の第4幕で、「そうか、そういうことだったのか」と腑に落ちました。なんて凄い脚本なんだ・・・。ゴーリキの作品、もっと観ないとな。
ずーーーーーーーーーと、おしゃべりが続くだけなんです、実は。人々はただ、何もせず、ぐだぐだ、だらだらとしゃべり続けます。第3幕で事件が起こるまでは・・・。事件後の第4幕でもやっぱりおしゃべり。でもそこには確実な変化があり、その変化を味わうことでやっと意味が理解できる、最後まで観てやっとわかる作品なんですね。
「事実、現実、真実なんてものは、必要なの? それこそが人間をダメにしてしまう、殺してしまう原因なのかもしれないよ。でも、それに蓋をして逃げることは決してできない。だったら、真実をパッケージに入れて外側から眺めて、夢や幻、想像の世界と平列に並べればいいんじゃないかしら」こんな風に思いました。
若い泥棒ペーペル役の渡部朋彦さんが登場するとパっと舞台が明るくなりました。3幕では愛嬌たっぷりに演技してくださり、客席に笑いも起きました。4幕のサーチン役の菅沢晃さんの長いセリフが素晴らしかったです。意味も気持ちも、ありのままに受け取ることができました。あんなに長い一人セリフを聞いたのは久しぶりかも、いや、初めてかも。
渡部朋彦さんは『ワーニャ叔父さん』の医者役、菅沢晃さんはワーニャ役でした。レパートリーシアターという名前の通り、この団体は手持ちの数演目を毎日演目を変えて上演しています。それって・・・凄いことですよね。役者さんは常に数役のキャラクターを持っていて、セリフをすべて覚えており、「今日は○○」「明日は△△」という風に上演するんです。この団体の演出家レオニード・アニシモフさんはロシアの方で、ロシアでのやり方をそのまま実践されているのでしょう。ひとつのシーズン中に複数の演目を観たからわかったことでした。
ここからネタバレします。
不思議な老人の思いやり、素直ないたわりの気持ちに触れて、安宿の住人達に変化が生まれます。泥棒が牢屋に入り、足にやけどを負った娘が失踪してしまうという悲しい事件の後、住人達は去ってしまった老人の話をします。そのシーンには、それまでにはなかった静けさがありました。
アル中の役者(安部健)が自分の持ちゼリフを言おうと客席に向かって立ちますが、すっかり忘れていることに気づいて落胆します。無言で客席を向いて立っている時の姿が、すごく光っているように感じました。自然に会話を続けるお芝居なので、あんなに堂々と客席に向かうことが少ないんですよね。正面を向いた時にあれだけの存在感があるのですから、今どきの普通のお芝居にこの団体の役者さんが出演したら、どんなことが起こるんでしょうね。
出演=コストィリョーフ:広中隆 ヴァシリーサ:池之上真理 ナターシャ:中澤佳子 メドヴェージェフ :小倉崇昭 ペーペル:渡部朋彦 クレーシチ:稲田栄二 アンナ:中村恵子 ナースチ:名児耶玲子 クヴァシニャー:浜中昭子 ブブノーフ:上原雄志 サーチン:菅沢晃 役者:安部健 男爵:天満谷龍生 ルカー:佐藤誠司 アリョーシカ: 和田裕貴 クリヴォイ・ゾーブ :後藤博文 ダッタン人:武藤浩助
作=ゴーリキー 演出=レオニード・アニシモフ
前売り3500円 当日3800円 学生2000円 シーズン通し券10,000円
http://www.tokyo-novyi.com/
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