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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年08月01日

新国立劇場演劇研修所1期生 試演会2『「あぶらでり」/「かどで」』07/27-29 新国立劇場Cリハーサル室

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あぶらでり/かどで

 新国立劇場演劇研修所1期生の2回目の試演会を拝見しました(⇒試演会1)。久保田万太郎戯曲(⇒過去レビュー)の2本立てです。A、Bのダブルキャスト公演だったので初日と千秋楽に伺いました。

 前回の『三文オペラ』とは打って変わって、ビシッと和の世界♪ 若い女優さんの着物姿が美しく、目にも嬉しい舞台でした。久保田万太郎の世界をじっくり堪能できて満足です。上演時間は約2時間40分(15分の休憩を含む)。

 レビューは途中です。アップしました(2007/08/09)。

 美術(中根聡子)はちょっと抽象の日本家屋。箪笥などの道具は本物が出てきますが、壁が灰色で柱と床が黒(に近い灰色?)なのでシックなイメージで統一されています。壁を抜いて窓やふすまに変えるので、シンプルながらダイナミックな場面転換を見せてくださいました。
 そして音楽はなんとスタンダード・ジャズなんですよ!かなり驚きました(笑)。でも意外にしっとりと大人のムードでフィットするんですね。

 一人で話すセリフが長い目なので、役者さんによっては途中で退屈してしまうこともありましたが、演劇学校の試演会なのでそういったことは気にしませんでした。日本の国立の俳優学校の生徒が在学中に体験しておくべきこととして、久保田万太郎作品が選ばれた意味を受け取ろうと思いました。

 作業(着物を仕立てる、革に漆で模様をつける等)をしながらの会話や、その時代の日常の所作など、普段の生活ではもう体験しないであろうこと尽くしの舞台でした。まず道具(おひつ、お膳、こて、火鉢など)に触れることがないでしょう。所作についてはすっかり自分のものに出来ている人と、まだおぼつかない人がいらしたように見えました。
 着物姿はずいぶん板についていて、日本の粋を感じましたね。特に「あぶらでり」の芸者役(高島令子)は何度も着替えて登場し、その度に見とれました。白と紺の浴衣に白い帯、そこに赤い帯締め!超かっこいいです。かつらも変えてましたね~。

 基本的にここの研修生さんたちは、存在感がものすごく爽やかできれいなんです。そこに居る姿が、それだけで愛らしい。若いからというだけではないと思います。そして、言葉に嘘がない(人がほとんど)。本物の感情に裏付けられた言葉の説得力というのは、私が普段の劇場で出会う20代中盤の俳優さんにはめったに見られないものです。

 「あぶらでり」では切ない恋心と報われない思いやりにほぼ号泣。「かどで」ではたわいないおしゃべりが全て伏線になっているという構造の見事さに感服。久保田万太郎の世界・・・素晴らしかったです。

■「あぶらでり」
 ≪あらすじ≫ パンフレットより
 若くして寡婦になったおみつ。母親と子どもひとり抱えての苦しい生活だが、その人柄もあって、亡き夫の弟や、亡き夫の親方に支えられ、なんとか生きている。そこへおみつには願ってもない縁談がもちあがるのだが、盛り上がる周囲とは裏腹におみつひとりは、人知れず悩んでいる……。
 ≪ここまで≫

 突然夫を失って義理の弟・民治に息子ともどもすっかり養ってもらうことになり、罪悪感に苦しむ未亡人・おみつ。亡き夫の親方とおみつの義理の母らが、無口で働き者で、誰からも一目置かれる立派な男・民治とのおみつの仲をとりもとうとするのですが・・・。

 働く女(芸者)と嫁いだ女(おみつ)や、親方と母親の1対1の対話などから、その時代の風俗や習慣などが自然と伝わるようになっています。
 常に話題にのぼる民治の登場シーンが少ないのが素晴らしいですね。三幕の終わりに民治が出てきた瞬間の顔や息遣いで、全てが解けるようにわかり、涙がしぼりだされました。

 ここからネタバレします。

 「おみつと民治が夫婦になれば誰もが幸せになれる」という筋書きに対して、おみつは「民治さんの幸せが考えられていない」と頑なに反発し、結婚に同意しません。本当は民治の方も、ものすごくおみつのことを好きなのに。
 最後は芸者がカゴの中で松虫が既に死んでいたことを告げます。「おみつもサ、民治もサ、だまってないで好きなら好きって言っちゃいなYO!そのままだと松虫みたいに死んぢゃうYO!」って言いたいところなんですが(苦笑)、そうはいかないのが大正の人々。あぁ、じれったい、あぁ切ないっ!

 できれば最後はおみつが松虫を見てどう感じたかまでを見せてほしかったですね。「松虫のように私も死んでしまおう」なのか「やっぱり民治さんが好き!」なのか。観客が自由に受け取れるようにとの演出意図だとしても、あまりに何も起こらなさ過ぎなんじゃないかな~と思いました。

 特に心に残ったのは芸者役の高島令子さんと、親方・茂八役(A)の山本悠一さん。母親役の二木咲子さんは、三幕でしょぼくれて泣きそうになっていたところが良かったですね(初日)。
 千秋楽では、初日の硬さが解けたせいもあるかと思いますが、おみつ役の内田亜希子さんがとても色っぽくなられていて驚きました。息子の寝床に蚊帳をかけた後、そのそばで小さく泣き崩れる姿がなんとも切なかった。欲を言えば、おみつが自分で言う“継子(ままこ)根性”をもっとどぎつく感じたかったですね。これは演技ではなく演出意図かもしれませんが。

■「かどで」
 ≪あらすじ≫ パンフレットより
 今日は印伝屋(近常〔きんつね〕)の職人、秀太郎の年季が明けるめでたい日。ところが同じ日、以前に女中として「近常」で働いていたおせんが、遠くで働くことになったとおのぶに別れを告げに来る。それぞれの人生模様に思いを馳せるおのぶだが、秀太郎は思いもかけない事実を告げられて帰ってくる……。
 ≪ここまで≫

 舞台は袋物屋(ふくろものや・印伝屋のこと)の作業場とその主人の部屋。「真面目に働いていれば幸せになれる」わけではなくなった近代日本で、社会の荒波にもまれゆく人々の数時間を描きます。

 “職人の三”(前田一世)の「労働?」というたった一言のセリフが、この公演での私の宝物になりました。しばらく笑いが止まらなかったんです(笑)。「親方の息子が労働をしている」という噂を耳にして、とっさに出てしまった一言なんですよね。「あのドラ息子が“労働してる”だって?やつが“労働”の何を知っているっていうんだ?もしかしたら、本当に心を入れ替えて“労働”ができるようになったのか!?」という、驚きと怒り、疑問などが複雑に混ざった気持ちの表れだったと思います。「労働?」と言った前田さんの姿には、“職人の三”の頑固な職人気質とそれゆえの素直さがにじみ出ていました。それが微笑ましくって愛らしくって、笑いがこみ上げてきてしまいました。東京ノーヴイ・レパートリーシアター『かもめ』を思い出しました。役者さんの存在がリアルであればあるほど、笑いを狙ってないところで笑ってしまうことがあるんですよね。久保田万太郎作品にも笑える部分はいっぱいあるんだと思います。

 ここからネタバレします。レビューは途中です。アップしました(2007/08/09)。

 情報に疎いだけで大きな財産を失ったり、機械の出現のせいで手についた職を失ってしまう、弱肉強食の資本主義の時代。気づかない内に社会の変化にすっかり取り残されてしまった市井の人々の、飾らない日常を生き生きと描きます。それによって冷酷な現実を生々しい感情とともに立体的なものとして受け止められるようになっているんですね。なんともしたたかでスマートな戯曲です。もちろん人々への暖かい眼差しも感じられます。

 袋物屋をたたんで大屋になった彦市(北川響)は、「近常」で女将さんに食事とお酒を振舞ってもらい、しまいにはその客間で寝てしまいます。実はその彦市こそ、手工業の袋物屋には未来がないことを知っていながら、「近常」の人々にはだまっていた、非情な人間(いわば裏切り者)だったんですよね。冒頭のシーンで話題にのぼっていた、“登記ができなくなることをわざと土地の持ち主には黙っておいて、相手が気づいて困った時にさらに値切ろうとする輩”と同じです。

 「初めて強盗に入った若者が、入った家の主人に切り殺された」事件について、職人たちが新聞に載った顔写真を見ながらわいわい騒ぎます。これも新聞を読んだ者だけにわかることであって、情報化社会に乗り遅れ、取り残されるかどうかが端的に表されています。
 夫がストライキに参加したため職を失い、北海道に行くしかなくなった元・女中のエピソードも、“ストライキ”とは何なのかを知らなかったことが、彼らの運命を変えたのでしょう。

 洋服を着た親方の息子から、袋物屋(手工業)には未来が無いことを聞かされて絶望した秀太郎(窪田壮史/野口俊丞)と、そのことをしっかりと聞きながらも手を休めずに作業を続ける“職人の三“(前田一世)との対比が鮮やかで、その静かで残酷な風景が目に焼きつきました。

出演:新国立劇場演劇研修所第1期生15名と第2期生2名と子役
「あぶらでり」出演=内田亜希子(おみつ:未亡人)/高島令子(おつる:芸者)/二木咲子(おまき:母親)/山本悠一(民治B:死んだ大工の弟・茂八A:親方)/古川龍太(民治A:死んだ大工の弟・茂八B:親方)/小泉真希(おきみB:芸者の妹)/眞中幸子(おきみA:芸者の妹)/柴田秀(勝太郎:子役)
「かどで」出演=北川響(彦市:大屋さん)/岡野真那美(Aおのぶ:女将さん・B女中)/河合杏奈(Bおのぶ:女将さん・A女中)/小泉真希(Aおせん:北海道へ行く)/眞中幸子(Bおせん:北海道へ行く)/三原秀俊(職人の一:一番えらい職人)/窪田壮史(B職人のニ:上手奥・A秀太郎)/野口俊丞(A職人のニ:上手奥・B秀太郎)/前田一世(職人の三:最後まで残る)/古河耕史(職人の四:意見を言う)/阿川雄輔(職人の五:掃除する)※第2期生/角野哲郎(職人の六:職人の四にちゃちゃを入れる)※第2期生
作=久保田万太郎 演出=西川信廣 美術=中根聡子 衣裳=中村洋一 照明=田中弘子 音楽=上田亨 音響=吉澤真 所作指導(和裁)=本山可久子 所作指導(印傳職人)=関輝雄 演出助手=黒澤世莉 演出部=中山宣義 松森望宏 衣裳操作=梅山茂 制作助手=金子紘子 夢工房(専修定雄) 高津映画装飾(烏城清) 東京衣裳 新国立劇場技術部 TCS レンズ 研修所所長=栗山民也
http://www.nntt.jac.go.jp/training/drama/index.html

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Posted by shinobu at 2007年08月01日 15:24 | TrackBack (0)