昨年見逃していた新国立劇場こどものためのオペラ劇場「スペース・トゥーランドット」。再演をしてくれたので伺えました。第一弾「ジークフリートの冒険」ではメルマガ号外を出したんですよ~。
子どもたち(小学校低学年以下)が初めてオペラを体験するには最高のイベントだと思います。上演時間は約1時間15分。そもそも『トゥーランドット』の音楽の大ファンの私は、幸運なことに前から3列目で、すんばらし~歌声に涙が流れっぱなし!
⇒CoRich舞台芸術!『スペース・トゥーランドット』
≪ものがたり≫ 公式サイトより。原作オペラとは違うオリジナル・ストーリーです。
はるかかなたの大宇宙。氷でできた惑星、ジェラート星の女王トゥーランドットは美しいけれど、心は氷のように冷たく、自分が一番美しくなければがまんできません。そこで、自分よりも美しいといわれるフローラ星に住むラベンダー姫をつかまえて、自分が宇宙一の美女になろうとします。トゥーランドットは、三人のギャング、ペペ、ロン、チーノにラベンダー姫をさらってくるよう命令。ラベンダー姫は18歳の誕生パーティで、先祖代々伝わるふしぎな鏡を王様からプレゼントされます。そこへ三人のギャングがあらわれ、助けにやってきた宇宙警備隊のロケットが墜落したすきにラベンダー姫をさらっていきます。宇宙警備隊のヒーロー、キャプテン・レオは、体にコンピューターが内蔵されたサイボーグのタムタムと宇宙船に乗って、ワープしながらラベンダー姫を助けに旅立ちます。寒くて不気味なジェラート星についたレオとタムタムは、カプセルに閉じ込められたラベンダー姫をみつけます。レオとラベンダー姫はひとめで恋に落ちます。そこにあらわれたトゥーランドット女王は、「この娘を助けたかったら、三つの謎ときに挑戦して全て正解しなければならない」とレオに言います。1問でも間違えると、女王の冷凍銃で殺されてしまう危険な謎解きです。愛するラベンダー姫のためにピンチに立ち向かうヒーローの運命や、いかに!
≪ここまで≫
歌と演技、そしてプロのサービス精神については、満足を通り越すほど堪能させていただきました。作品の一番の特徴は、中劇場の額縁をまるまる覆う巨大なスクリーンに映写される宇宙空間の映像でしょう。「スペース(宇宙の)トゥーランドット」の世界は、最先端の技術とそれを使いこなす人間の豊かな知恵で支えられていました。プロフェッショナルのオペラ関係者の大人たちが、子供のためのエンターテインメント・オペラ作りに徹していることを嬉しく思いました。
「トゥーランドット」の音楽をアレンジしたものが何度も流れます。もーその音楽が流れる度にグっと熱く胸にこみあげるものがあり、また、メインのキャストの方々の歌が素晴らしくて、音だけで身体がシビれましたね。極上の幸せってこういうこと!やっぱりオペラは素敵~♪
ただ、前作「ジークフリートの冒険」と比べると、ストーリー展開や演出は残念な結果だったと言わざるを得ません。「小さな子供に見せる舞台芸術はこうあって欲しい」という具体的な考えが、台本・演出を手がけられた田尾下哲さんと私とでは、ちょっと違うのかもしれません。
ここからネタバレします。
開演直前に「無事に家に帰れると思うなよ~!」という、トゥーランドット女王の怖い声が客席に響き、そばに居た可愛らしい男の子が「こわい~・・・」と横に座るお母様の顔を覗き込んでいました(笑)。
サイボーグのタムタム(直野容子)が幕開けからストーリー・テラーのような役割で導入をしていましたが、タムタム以外の役についても言葉による説明が多すぎましたね。ペペ(高橋淳)、ロン(米谷毅彦)、チーノ(峰茂樹)の3悪党がフローラ星に乗り込んできてラベンダー姫(中村恵理)を奪うシーンで、やっと音楽と歌、演技がぶつかって調和していく舞台芸術の醍醐味が出てきました。
キャプテン・レオとタムタムが宇宙船に乗って、ラベンダー姫がさらわれていったジェラート星に向かいます。宇宙空間の映像の中にサッカーボールが浮かんでいたり、サイコロが転がってきたりと、そこまでは良かったのですが、Nintendo DS Liteが出てきたのには首をかしげましたね。
宇宙船に乗っているところをパシャっと何者かに隠し撮りされ、降車したらその写真が1500円で販売される(ディズニーランドなどのテーマパークでありますよね)というネタには閉口でした。
日常生活と舞台の世界をつなげることで子供の気を引くことは有効な手段ですし、子供たちも喜びの歓声を上げます。でも、現実のことはほんの触りで使うぐらいにして、「スペース・トゥーランドット」自体の世界の面白さで勝負してもらいたいんですよね。空想の世界を安易な発想で壊して媚びることはないと思いますし、子供は底抜けに豊かな想像力で物語の世界にざぶんと飛び込んでくれるはずです。
オペラ歌手って、歌も歌って踊りも踊って、しかも演技もできなきゃだめなんて、なんて偉大な職業なんでしょう。タムタム役の直野容子さんはダンサーのように足を高く上げて、サイボーグのおサルっぽい少年をキュートに熱演。その他にも全身全霊でユーモアたっぷりにおどけたキャラクターを演じきってくださる方が多数いらっしゃいました。
最大の爆笑ポイントはやはり3つのエニグマ(謎)でしょう!
謎1:「タロウさんが風邪を引いて学校を休みました~~牛&蝶々~~さて、タロウさんはなぜ学校を休んだのでしょうか?」
答え:レオ(小原啓楼)「(盲腸ではなく)それは、風邪だ~~~っ!!」
小原さんの歌声があまりに堂々とした麗しいものだったので、おマヌケな答えとのギャップに笑いが止まりませんでした(笑)。あ、でも子供たちは真剣に聞いていたようですよ。3問目はキャプテン・ネオにしか解けない難しい問いだったのが良かったですね。
謎3:「これは私にもわからないことだが、このジェラート星の氷を溶かすことができるものがある。それは何だ?」
答え:「それは、女王の涙!」
トゥーランドット女王(高橋知子)が改心して涙を流したことで、ジェラート星の氷が溶け始めます。トゥーランドットが純白から真紅のドレスに早替えしたのは見事!音楽はサンバっぽくアレンジされたものになり、風船を組み合わせて作った大きなフルーツもいっぱい登場して、劇場全体がトロピカルな祝祭ムードに変身します。キャストがみんな楽しそうに歌って踊りますし、子供たちも明るい顔になっていました。でも私には、地球温暖化が進んだせいで、南極がブラジルになったようなイメージばかりが浮かんできてしまって・・・。ちょうど『小泊の長い夏』を観たばかりでしたしね(苦笑)。
最後は無数の銀色のテープがパーン!と客席に向かって放たれ、子供たちの歓声が響きました。劇場を出ると、長い銀色のテープを体中に巻きつけて歩く幼稚園児ぐらいの女の子がいて、もー可愛くってたまんなかったです♪
オペラ「トゥーランドット」(プッチーニ作曲)による 全1幕【日本語上演】
出演=【フローラの王】大澤建 【ラベンダー姫】中村恵理 【タムタム】直野容子 【キャプテン・レオ】小原啓楼 【氷の女王トゥーランドット】高橋知子 【ペペ】高橋淳 【ロン】米谷毅彦 【チーノ】峰茂樹 【合唱】新国立劇場こどもオペラ・ヴォーカルアンサンブル 【管弦楽】新国立劇場こどもオペラ・アンサンブル
【編曲・指揮】三澤洋史 【台本・演出】田尾下哲 【美術】増田寿子 【衣裳】ひびのこづえ 【照明】八木麻紀 【音響】渡邉邦男 【振付】佐藤ひろみ 【舞台監督】高橋尚史 【主催】新国立劇場 【共催】朝日新聞社 【協力】ヤマハエレクトーンシティ渋谷
全席指定 2,100円
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000042.html
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