ガルシア・マルケスさんの小説を坂手洋二さんが戯曲化し、蜷川幸雄さんが演出。そして音楽がマイケル・ナイマンさんという、超豪華スタッフが集結した公演。何年も前から話題になっていた企画ですよね。
上演時間は約4時間10分(途中10分、15分の休憩を含む)・・・長っ!第3幕では朦朧としてしまいましたが、作り手の方々と一緒に『エレンディラ』を旅することができたことに満足です。
オープニングが素晴らしかった!ほぼ10分間、涙が流れっぱなしでした~。
⇒CoRich舞台芸術!『エレンディラ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。一部改行を変更。
砂漠に風が吹くとき、その娼婦のテントは突然あらわれる。
伝説の美しい少女娼婦エレンディラを求め、今日も男たちの行列は続く。
翼の生えた老人が語り始める、彼が生涯愛し続けて女性の思い出・・・。
彼の名はウリセス(中川晃教)。そしてその女性とはエレンディラ(美波)。
美少女エレンディラは、冷酷な祖母(瑳川哲朗)に召使のように酷使されていた。ある日、彼女の過失から祖母の家が全焼する。祖母はその“借り”を返させようと、エレンディラを娼婦に仕立てて一日に何人もの客をとらせる。彼女はたちまち砂漠中の評判となり、そのテントの前には男たちが長蛇の列をなす。ある日、彼女はウリセスと出会い、恋に落ちる。駆け落ちするも、祖母に追いつかれて遠く引き離される二人。恋するウリセスは不思議な力を身につけ、彼女を探し当てる。結ばれるために、二人は祖母を殺そうと企てるのだが・・・。
祖母の運命と恋人たちのその後の物語をマルケスと思しき作家(國村隼)が、語りついでいく・・・。
≪ここまで≫
薄くて白い幕で三方をぐるりと囲まれた、何もない広大な舞台。正面を見つめると、その奥は果てしなく遠くまで続く(ように見える)深遠。マイケル・ナイマンのあの力強い音楽(感情に直接的に訴えかける情熱的な旋律と、機械のように確実で単調な繰り返し。露骨な性的イメージとともに冷徹な知性も感じられます。「ピアノ・レッスン」は大好きな映画です。)が満ちる世界で、深い闇から小さく点るように登場する登場人物たち・・・。
不幸なヒロイン・エレンディラ(美波)とその恋人ウリセス(中川晃教)が見つめ合うシーンでは、まぎれもない熱い恋の感情が2人の瞳の間に存在しているように感じて、自然と涙がこぼれ続けました。美波さんが舞台で全裸になることはニュースになっていましたが、必要な演出だったと思います。壊れそうなほど細くて美しい若い女の肢体は、娼婦エレンディラの悲惨な人生をその存在だけで雄弁に説明し尽くしていました。
赤や青などを大胆に使った照明が、スモークがたかれた舞台をしっかり染め上げていました。何もないステージに次々と大道具・小道具が繰り出され、自在に場面転換します。4時間以上に及ぶ長時間の舞台で、これでもか!これでもか!と次々と仕掛けが!最後の最後まで「わぁっ・・・♪」という驚きと喜びがまざった声が、私の心の中で響きました。
正直、長いです(苦笑)。2幕、3幕と開幕の時の音楽が鳴る度に「また始まっちゃったよ~、ウム、行くぞ!」と腹をくくる!!・・・みたいな。もうヘトヘトなのに「出演者と一緒に長い旅に挑むゾ!」・・・みたいな。ある意味マラソンのような(笑)体育会系な観劇環境でした。でも観られて良かったと心から思っています。
名セリフの宝庫だったな~。乱暴な言い方をすると、物語としては普通のお芝居の3~4本分の内容だったんじゃないかしら。エレンディラの話、ウリセスの話、エレンディラの祖母の話、そして3幕に登場する作家の話などなど。
祖母役の瑳川哲朗さん。大・大・大・大活躍。ひどいバーちゃんだけど愛嬌があって決して嫌いにはなれません。この公演、マチソワ(1日に昼と夜の2公演)の日もありますね・・・凄い(汗)。
ここからネタバレします。
幕開けから10分間が至福でした。突然マイケル・ナイマンの音楽。はかなく破れた白くて薄い幕(緞帳)に、もやもやとした映像が写されます。徐々に舞台の中が明るくなってくると、大きい透明な塊(中が光っている・ダイヤモンド)、エキセントリックな表情の魚、猫足のバスタブが、ふわふわと上手から下手へと舞台を横切って飛びあがりました!奥から登場する人々はまるで蜃気楼のよう・・・。幻想的なカーニバル(パレード)にも心躍りました。
エレンディラとウリセスの恋のシーンでは、必ず胸にグっと来て泣かされました。2人とも儚いんですよね。シーツを両端から畳んでいって2人が徐々に近づいていくところなんて、ホントにうっとり♪互いに上半身裸になって抱き合うベッド・シーンは、カラッカラに乾いた喉を潤すために無心になって1滴の水の求め合うようで、その必死さが美しかったです。真っ赤な照明に包まれたのも、愛の象徴であることがわかりやすかったです(後から同じ照明が使われますし)。
3幕で作家(國村隼)が「エレンディラ」の真相を探り当てます。祖母にお金を返すためにこき使われていたエレンディラは、こっそり飼っていた白い孔雀をウリセスと呼んでいました。つまりウリセスはエレンディラの想像の産物であり、実在の人物ではなかったのです。それまでに描かれた全て(一目ぼれの一夜、恋ゆえの逃避行、2人協力しての祖母殺しなど)が、可哀想なエレンディラの想像でした。この顛末には・・・悲惨さがさらに上乗せされたので、びっくりしました(汗)。でも全てが明らかになった後に、海と空で2人が互いを求め合うシーンが続いたのが凄かったですね。「全ては嘘(夢)だった、でも、愛は本物だった」と言ってくれているような気がしました。ちょっとポール・オースターみたいだな~と思ったり。
エレンディラ「永遠なんてない。あるのは瞬間だけよ。」
さすがに4時間以上ともなると、少々退屈したところもありました。2幕のカーチェイス(笑)は平板すぎたような。3幕では(もう疲れきっていたのもありますが)、祖母の歌が長すぎるように感じました。横で抱き合うエレンディラとウリセスが手持ち無沙汰に見えたのも原因だと思いますが。
≪埼玉、大阪、愛知≫
出演:中川晃教、美波、瑳川哲朗、國村隼、品川徹、石井愃一、あがた森魚、山本道子、立石涼子、藤井びん、日野利彦、青山達三、戸井田稔、冨岡弘、新川將人、今村俊一、福田潔、堀文明、井面猛志、野辺富三、佐々木しんじゅ、田芳鴇紀、羽子田洋子、難波真奈美、太田馨子、今井あずさ、山崎ちか、川﨑誠司、石田佳央、さじえりな、本山里夢、安齋芳明、明石伸一(翼の男)、Juggler Laby、しゅうちょう、松延耕資、大口俊輔、木村仁哉、舩坂綾乃
原作:ガブリエル・ガルシア・マルケス(「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」鼓直訳 新潮社刊「ガルシア・マルケス全小説」より) 脚本:坂手洋二 演出:蜷川幸雄 作曲:マイケル・ナイマン(Michael Nyman) 美術:中越司 照明:原田保 衣裳:前田文子 音響:井上正弘 ヘアメイク:佐藤裕子 振付:広崎うらん 音楽助手:阿部海太郎 演出助手:井上尊晶/石丸さち子 舞台監督:小林清隆 主催:財団法人埼玉県芸術文化振興財団、ホリプロ、テレビ朝日、朝日新聞社 企画:ホリプロ 制作:財団法人埼玉県芸術文化振興財団、ホリプロ
【発売日】2007/04/14 S席12,000円 A席 7,000円
ホリプロ公式=http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=92
公式=http://hpot.jp/erendira/ ←音が鳴ります
公式ブログ=http://blog.e-get.jp/eren/
イープラス=http://eplus.jp/sys/web/theatrix/special/erendira.html
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