藍色りすと(あいいろ・りすと)は福岡の劇団です。2001年設立で、今作は西鉄ホールのgrow up企画に選ばれた公演です。
西鉄ホールは客席数が最大464席で本多劇場よりちょっと大きめですね。デパートが入ったビルの最上階にあって、劇場の中は全労災ホール/スペース・ゼロみたいでした。「本多劇場みたいなところかな~」と勝手に想像していたので、ちょっと意外でした。
⇒劇評『FPAP高崎の「さくてきブログ2」』
⇒CoRich舞台芸術!『ハルカナ』
⇒T★1演劇グランプリ・第一次審査通過団体です。
≪あらすじ≫
木下カナタ(井田直美)は精神病院に入院している。病院の医師や看護士ともぎくしゃくするし、たった一人の肉親である姉ハルカ(白井晶子)ともうまくいかない。カナタはいつも、昔一緒に遊んでいた“ゆうと”(峰尾かおり)という少年のことを思い出していた。
≪ここまで≫
病院らしい白を基調にした具象と抽象がまざった美術でした。下手に“ゆうと”が登場する2階分の高さのロフトがあり、上手奥には巨大な観覧車がそびえていました。いつもはキャパ約100席(ぽんプラザホールなど)の劇場で公演をしているようなので、大きな劇場で横幅も高さも奥行きもがんばって使っているなと思いました。
病院が舞台になっている時点で私の苦手ジャンル・・・。深刻すぎるわけではなかったので不快感はゼロでしたが、都合よく話が進みすぎるし役者さんの演技がおぼつかないしで、退屈しました。なかなか観客の予想可能な域を超えてくれないんですよね。気持ちや状況などを言葉で説明しすぎだと思いました。
でも、最後の最後にすべてが夢の中の出来事だったかのようにひっくり返す演出があり、作品がふんわりとパッケージ化された気がして、「なるほどな~」と落ち着くことが出来ました。
主役のカナタを演じられた井田直美さんの声の響きが良かったです。
ここからネタバレします。
父親に捨てられ母親は早くに逝ってしまい、2人で生きてきた姉ハルカと妹カナタはいわば一心同体(になりたがっている)の姉妹なはずなんですが、その関係が薄かったですね。タイトルも『ハルカナ』になっているのに残念。
藍色リストは女性キャストの中に1人だけ男性キャストを入れるというやり方を続けられていて、今回は医師役(上瀧昭吾)がそうでした。でもあまり効果が感じられませんでした。カナタがハルカと医師の恋愛関係の間にむりやり入り込んで、悲しい三角関係になるシーンもありましたが、それには前半からもっと伏線が必要でしょう。
カナタは患者仲間と姉のおかげで自殺を思いとどまります。すると次の病院のシーンでは黒いエプロンをしてロボットのように動いていた看護士たちが普通のナース服に変わっていました。患者の服も濃い青色のスモッグ(?)から薄い水色のシャツに変わり、衣裳と美術全体が柔らかなパステル調にまとまります。演技もいわゆる幸せな病院の風景とマッチした優しいものになるので、これまで描かれてきたことは全てカナタの心の中のできごとだった(のかもしれない)と受け取れます。そうなると“ゆうと”もカナタの想像の産物だったかもしれないんですよね。
最後のカナタの独白で、この作品を通じて作者が言いたかったことがはっきりと述べられたようです。「姉が変化したのでこれからはうまくいくと思ったが、やっぱり以前のような関係に戻ってしまった。でも、私はここに居ます!」(セリフは大意を汲んだもので、正確ではありません)という、前向きで思いっきりハッピーに演出された結末でした。
現状を認め、将来の不安も受け入れて、今ここで生きていることを表明するという考えには大賛成ですが、全部ことばで説明してしまったのはもったいないと思います。舞台奥の大きな観覧車がガタガタに崩れたままハッピーエンドになったのは救いでしたが(幸せの裏側が見えている)、役者さんの演技や美術、照明、音楽などの存在がセリフの意味を伝えるための道具(脇役、引き立て役)であり続けるのは残念です。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演:今企画プロデューサー/劇評フリーペーパー発行者(?)/太田美穂(藍色りすと主宰)
太田さんご自身がADHD(注意欠陥・多動性障害/Wikipedia)だという告白には驚かされました。今作品では感じていることをストレートに表現したということでした。
私は私戯曲が悪いとはまったく思いません。でも自分のことを題材にする時は、より鋭い客観性を求められると思います。この公演で自らをさらすことで、色んな面で苦労し、勉強されたことと思います。それをホップ、ステップにして、次はぜひジャンプしてくれたらいいなと思います。
西鉄ホールgrow up 企画
出演=一ノ宮亜葵、井田直美、今村映子、宇ノ木靖子、沖静香、白井晶子、永幡桂子、中村公美、ヒガシユキコ、峰尾かおり、上瀧昭吾
作・演出:太田美穂 舞台監督:権藤智海(U.J.Channel) 照明:鳥原淳(SLI) 音響:菊池純哉(西鉄ホール) 音響オペ:一ノ宮寛子 大道具:大隈謙司・兄弟船 衣裳:オーイシヤスヨ メイク:BE-STAFF MAKE UP UNIVERS 制作:土肥聖子 受付協力:烏山茜・萩原あや・劇団PA!ZOO!! 託児協力:はらっぱSUN 主催 : 藍色りすと / 提携 : 西鉄ホール(西鉄ムーブ98) 後援 : 福岡県・福岡市・福岡市教育委員会・(財)福岡市文化芸術振興財団 製作 : 藍色りすと / 企画 : 西鉄ホール / 協力 : 劇団PA!ZOO!!
【発売日】2007/07/01 前売:2000円 / 当日:2500円 2劇団共通チケット:3000円 未就学児童のご入場はご遠慮ください。
http://aiiro.jp/
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