REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2007年09月03日

Bunkamura『ドラクル GOD FEARING DRACUL』09/01-26シアターコクーン

 長塚圭史さんが劇作家・演出家として初めてシアターコクーンに進出!主役に市川海老蔵さん、宮沢りえさんを迎えた話題の公演です。初日に伺いました。

 シアターコクーンで上演される演劇公演というと、蜷川幸雄さんの演出作品や野田秀樹さんの作・演出作品が思い浮かびます。今作はちょっと違いました。こんなにストイックで緻密な会話劇になるとは・・・!長塚さんの勇気ある挑戦だと思いました。

 前半は装置の転換がまだこなれていない様子。後半で濃密な対話をじっくりと見せてくださいました。宮沢りえさんが素晴らしかった。何度も涙しました。上演時間は約3時間20分(途中休憩15分を含む)。

 ⇒「文學界」2007年10月号に戯曲掲載(9/7発売)
 ⇒CoRich舞台芸術!『ドラクル

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 18世紀終わりのフランス西部。
 人目を避けるように森の奥に建つ小さな屋敷で、信心深く暮らすレイ(市川海老蔵)とリリス(宮沢りえ)。リリスはレイと離れることを何よりも恐れ、病身でありながら病院へ行くことすら拒む。
 だがある日、「自分の街を救って欲しい」と一人の使者がリリスを訪ねて来る。そこは、かつて彼女が領主の妻として過ごした街だった。その領主(勝村政信)と現在の妻(永作博美)の願いを断ったリリスは強引に誘拐され、それを知ったレイはリリスを救うため旅立つ。
 それは、リリスとの誓いを破り、封印した自分の暗黒の力を解き放つことを意味していた。
 ≪ここまで≫

 どっしりとした重量感のある、会話劇でした。笑いはほぼ無し。前半でじわじわとバックグラウンドを積み上げて行き、後半で核心に迫ります。若い俳優さんが多いキャスティングなので、ついアクション・エンタメな作風を予想していたのですが、良い意味で裏切られました。
 長塚さんらしいホラー・テイストは、いつもより少々控えめながら顕在。典型的な吸血鬼(山本亨、明星真由美)が出てきたのもちょっと楽しかった。

 美術(島次郎)は大掛かりでしたね~!前半は深い闇と(レイとリリスの)孤独がはっきりと表現されていて、特に舞台奥へとまっすぐ伸びる細い道が効果的でした。照明は蜷川さんのお芝居でよく見る雰囲気でした(原田保さんですから当然ですね)。スモークを利用して光の線を際立たせたり、空間全体を一色に染めてしまうものは、ちょっと大味な気もします。

 私にもっとも響いたテーマは“告解(Wikipedia)”と“赦し”でした(もちろんテーマはそれだけではないと思います)。今、世界中で起こっていることや、自分自身にも重ね合わせて、涙しました。
 執筆時は翻訳調の言葉づかいを心がけたそうです(パンフレットより)。後半は長い独白と少人数の対話で構成されており、特に1対1の対話に力が注がれているように感じました。この戯曲はぜひ他の演出家にも手がけてもらいたいな~。シンプルに抽象化したものも観てみたい。

 宮沢りえさん。か細いはかなさの中にダイヤモンドのように硬く美しいものがあるような。言葉が丁寧で、ひとつひとつに心が乗っています。後半の長い独白が素晴らしかった。
 市川海老蔵さん。冷酷無比な怪物なのに、なぜあんなに可愛らしく見えるのかしら・・・♪
 永作博美さん。適役だった気がします。宮沢さんと2人で話すシーンの心の揺れにリアリティが感じられました。

 ここからネタバレします。

 前半はレイとリリスが暮らす粗末な家、後半は昔リリスが暮らしていた宮殿が舞台。はっきりと2部に分かれた構造です。

 かつて愛した女(※ジャンヌ・ダルク)を奪われ神に失望していたレイは、数百年の時を経てリリスと出会ったことで再び神を信じ、許しを請うようになります。しかしながらリリスもまた虐待(毒を盛られる)・誘拐されたため、レイは神を信じることをやめて悪魔と化すことを選びます。後半、悪魔に戻った海老蔵さんは本領発揮のご様子。華がありますね~。
 ※レイのモデルはジル・ド・レ男爵。ジャンヌ・ダルクを聖女としてあがめていました(パンフレットより)。

 レイは死ぬ前も死んだ(吸血鬼になった)後も、数え切れないほどの人を殺しています。リリスもまた自分が生んだ子を殺すという罪を犯していました(夫ではない男との交わりから生まれたから)。
 我ながらホントに単純だな~と思いつつも、この作品で描かれる罪(レイの大量虐殺・リリスの子殺しなど)が、今、数多く起こっている自爆テロと重なりました。信仰を汚されたり、容赦なく奪い取られたことを恨み、人間は復讐をすることで失われたもの(こと・人)に報いたり、自分の心を鎮めようとします。でも、それは決して解決(幸福)には結びつきません。
 延々と続く悪循環を断ち切ることができるのは、自分が感じていること(怒りや悲しみ)を知り、それを認めること、そしてどうしても許せない相手(敵)のことも赦すことなんじゃないかと思いました。実行するのはこの上なく困難なことですが。

 リリスの里のニュイラクーペの城で牢に閉じ込められたレイに向かって、リリスは子供を殺したこと、自分が救われることだけを考えてレイに近づいたこと告白し、懺悔します。そしてレイは、彼女のことを赦します。お互いを赦しあった2人に白い太陽光が降り注いで終幕。レイの手が温かくなるという奇跡も起き、まさに神の光臨でした。

出演:市川海老蔵、宮沢りえ、永作博美、渡辺哲、山崎一、手塚とおる、山本亨、市川しんぺー、明星真由美、中山祐一朗、勝村政信、堀川政信(子役)、窪田壮史(新国立劇場演劇研修所1期生)、古川龍太(新国立劇場演劇研修所1期生)
演奏:DRACUL QUARTET:保科由貴(ヴァイオリン) 塚本弥生(ヴァイオリン) 深谷由紀子(ヴィオラ) 橋本歩(チェロ)
作・演出:長塚圭史  美術:島次郎 照明:原田保 衣裳:前田文子 音楽:上野耕路、今堀恒雄 音響:加藤温 ヘアメイク:鎌田直樹 アクション:渥美博 映像:上田大樹 音楽監修:澤井宏始 演出助手:坂本聖子 舞台監督:福澤諭志 宣伝美術:東學 宣伝写真:谷敦志 宣伝ヘアメイク:宮内宏明、黒田啓蔵 宣伝衣裳:矢野恵美子 営業:加藤雅広 票券:岡野昌恵 制作=橋本芳孝(松竹) 大宮夏子(Bunkamura) プロデューサー:加藤真規 制作:松竹/Bunkamura 主催:Bunkamura
【発売日】2007/07/08 S¥11000 A¥9000 B¥7500 コクーンシート¥5000
http://www.bunkamura.co.jp/

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2007年09月03日 11:26 | TrackBack (0)