サンプルは松井周さんが作・演出される劇団です。青年団リンクから独立して初の公演は、三鷹市芸術文化センター・星のホールでの2週間公演。第3回にしていきなり大規模ですね。ポストパフォーマンストークのゲストが超豪華!私は初日の岩井秀人さん(ハイバイ主宰)の会でした。
『地下室』『シフト』に続いて今回もまた強烈な世界でした。驚いて、爆笑して、考えて、また裏切られて驚いて、爆笑して・・・。終わった時には「なんじゃコレ・・・」としばらく静止しました。上演時間は約1時間40分。私はめちゃくちゃ面白いと思います。でもほんとに強烈なので好みは分かれるかも(笑)。大人向けです。
⇒「映画芸術」に松井周さんの充実のインタビューあり!『カロリーの消費』を観る前に読むと良いかも。
⇒CoRich舞台芸術!『カロリーの消費』
レビューをアップしました(2007/09/21)。
≪あらすじ≫
老人介護施設エバーグリーンにあずけていた寝たきりの母親が誘拐された。息子夫婦と刑事は母を捜して町を徘徊する。
≪ここまで≫
ガランと黒い空間に、横に広い白い壁。同じ抽象舞台でも『シフト』とは違って、「これはお芝居ですよ」と観客に伝えることが意図されたものでした。
登場人物のとんでもない行動の連続に吹き出して笑ったら、となりの人はクスリとも笑っていないんです。でも私が真剣に観入っているところで、後ろの方から大きな笑い声が響いたりしました。観る人によって解釈が変わるので自由に受け取ってOKな、というか、それぞれが自由に受け取るしかない(笑)、大人の演劇だと思います。
全部観終わってから、関係ないようでいて実はつながっている(のであろう)1つひとつの事柄を、ゆっくりつなげて考えて、味わえばいいのではないでしょうか。
『カロリー』を基準にするという非常にドライな視点から、こつこつと人間の在りようを例証していきます。その例が過激で・・・笑えます(笑)。人によって信じるものが違うこと、人の気持ちは時間が経つと変わること、物事は突き詰めれば自ずと過剰になっていくことなど、人間が生きる社会で当たり前に起こっていることを、凝縮して舞台に乗せているように思いました。
遅ればせながら今、平田オリザさんの「芸術立国論」(2001年初版)を読んでいまして、芸術活動が資本主義社会の尺度であるお金に自動的に換算されることに似てるようにも感じました。
スロウライダー、チェルフィッチュ、ポツドール(あいうおえ順)という今注目の劇団の役者さんが、青年団の役者さんに混ざって自由に存在しているように見えました。それぞれの“個性対決!”みたいな楽しみがありましたが(笑)、できれば感情のぶつかり合いのような、濃い関係性も観たかったですね。でもそれは作品の意図からずれるのかも。
ここからネタバレします。
「歌を探している」チャコという女性の回想という構造でした。んー、でもそれさえも嘘っぽいような、何を頼りに鑑賞すればいいのかわからない感覚でしたね。松井さんはインタビューで「ロードムービー」とおっしゃっていますけど、そんな匂いさえしなかった(笑)。
ガウン着て手にはブランデーグラス&葉巻の院長(古屋隆太)が、ロッキングチェアーに座ってせり上がって登場するシーンは爆笑だったな~(笑)。院長と介護師(米村亮太朗)の鍛えられた肉体が、ものすごくムダに見えたり。いや、マッチョであることは全然ムダじゃないんですけど、使い方が・・・(笑)。
最後に全員が登場して"You're my sunshine"(だったかな)をヘナチョコに歌い演奏するところは、刑事がネコのように四つんばいになっていて、院長と介護師もベッドを引いてトナカイのように四つんばいで、ほぼ裸で(笑)、舞台に居る人間全員が動物に見えました。皆が自分勝手で考えなしに行動するし、しでかすことが卑劣なので「お前らみたいな奴ら、人間じゃねーよ!」と罵声を飛ばしたくなる意味でも、「カロリーを消費するのは人間も動物も同じだよね」と冷静に見る意味でも。
そうやって、何が人間らしくて何が人間らしくないのかを、考えるきっかけにすればいいんじゃないかと思います。「カロリーの消費」という科学的な尺度で人間をとらえることで、その逆側が見えてくるような気がします。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演=松井周/岩井秀人(ハイバイ)
同じ小金井市出身というつながりのあるお2人でした。おぼえていることだけ下記に。
岩井「(登場人物が)それぞれの世界を持っていて、すれ違ったり一緒に移動したりするけれど、やっぱりズレてたり。そのズレを修正しようとする人が追いつかなくて、さらにおかしくなっちゃう(みたいな)。」
岩井「(普通の人・観客視点の登場人物がいないから)誰の視点でも観られなくなる。視点がどこにも定められない。」
岩井「(松井さんは)笑いにしないのが、底抜けに怖い。」
松井「小学校、中学校の頃の思い出(など)をベースに書きました。」
松井「人の行動の善悪は置いといて、視点も置いといて、カロリーという基準で考えて書いてみた。カロリーをどれだけ消費したか、どれだけ蓄えたかという視点だけで。」
松井「痛みとズレとかに悩んだりするけれど、そんなのはあまりカロリーを消費していない。ベッドを運んで歩く方がよっぽど消費してる(笑)。」
観客「毎回キャストが変わるようですが、松井さんはどういう役者さんに出てもらいたいと思っていらっしゃるのでしょうか?」
松井「舞台上で反応する能力が高い人。ピンボールみたいに誰かに反応して、どっかに飛んでいくような。」
出演=辻美奈子、古舘寛治、古屋隆太、大竹直、渡辺香奈、山崎ルキノ(チェルフィッチュ)、米村亮太朗(ポツドール)、山中隆次郎(スロウライダー)、羽場睦子
作・演出=松井周 舞台美術=杉山至+鴉屋 照明=西本彩 音響=野村政之 衣裳=小松陽佳留(une chrysantheme) 舞台監督=小林智 宣伝美術=京 宣伝写真=momoko japan 記録写真=青木司 記録映像=深田晃司 WEB運営=牧内彰 制作補佐=有田真代(背番号零) 制作=三好佐智子、(有)quinada
ポストパフォーマンストークのゲスト=14(金) 岩井秀人(ハイバイ主宰)/ 16(日) 佐々木敦(評論家) 20(木)/松田正隆(劇作家・演出家)/21(金) 山下敦弘(映画監督)
※上演時間は1時間45分を予定しております。途中休憩はありません。
【発売日】2007/08/02 一般前売/2,500円 一般当日/2,800円 財団友の会会員 前売/2,200円 当日/2,500円(全席指定) 高校生以下 前売・当日ともに/1,000円
http://www.samplenet.org
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