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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2007年09月21日

新国立劇場演劇『アルゴス坂の白い家-クリュタイメストラ-』09/20-10/07新国立劇場 中劇場

 鵜山仁さんが新国立劇場の新・芸術監督になられた2007/2008シーズンの最初の作品です。ギリシャ悲劇を題材にした「三つの悲劇」三部作の第1弾。

 めっちゃくちゃ面白かったですっ!!ギリシア悲劇の物語をそのまま現代日本に置き換えるような、スタンダードな脚色ものではありません!それどころか、それどころか~っ!うーん素晴らしい!最後がちょっと腑に落ちなかったのでメルマガ号外を出すのは控えますが、それくらい興奮しちゃった初日でした。

 ロビーにはこれまでの公演の全チラシが展示され、美術模型や衣裳なども並んでいてとっても楽しかったです。上演時間は2時間50分(途中休憩20分を含む)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『アルゴス坂の白い家-クリュタイメストラ-
 レビューをアップしました(2007/09/21)。

 終演後に一緒に観ていた演劇関係者の方々とお話したところ、「新芸術監督ならではの色が出たのではないか」「鵜山さんは関西の方だから、笑えるところを堂々と出してますよね」「でもちょっとシャイなところもありますよね~」「そして何よりロマンティストだよね」等など、愛のある感想がいっぱいでした。

 私は新芸術監督による新シーズンがこの冒険的な大作で幕開けしたことを、すごく嬉しく思いました。難解かもしれませんが、それが楽しいです。次に続く「たとえば野に咲く花のように」「異人の唄」も俄然楽しみになりました!

 ≪ものがたり≫ 公式サイトより
 夫アガメムノンへの憎悪を抱く妻クリュタイメストラは愛人のアイギストスと計って、夫を殺害するが、息子のオレステスと娘エレクトラに復讐の機会を狙われる・・・。『アルゴス坂の白い家』は、この「ギリシャ悲劇」を題材にした現代演劇を上演しようとしている現代日本人の物語。「女優」「映画監督」「シナリオライター」「新進作家」が家族として住む「アルゴス坂の白い家」におこる悲劇を軸に、原作の作家であるエウリピデスを劇中に登場させ、現代の劇作家の悩みにこたえるシーンも盛り込みながら「ギリシャ悲劇」の構造を分かり易く立体化。実の子供たちに命を狙われる母クリュタイメストラの行きつく先は?
 ≪ここまで≫

 公式サイトのあらすじを読んでもちょっとわからないかもしれないぐらい、複雑な構造の脚本でした。ロビーに人物相関図のパネルが置いてありますので、しっかり頭に入れておいた方が良いかも。
 んん~、何を書いてもネタバレしちゃう気がするな~(笑)。前知識なしで観たい方は、どうぞこの先は読まないで下さいね。

 “アトレウス家の悲劇”を現代に置き換えた物語として書こうとする劇作家(中村彰男)が、エウリピデス(小林勝也)に悲劇の書き方を相談します。劇作家が書いた戯曲が上演される場にエウリピデスが入っていって、オレステス(山中崇)に「早く母親を殺しに行きなさいよ」と話しかけたりしちゃうんです(笑)。※セリフは正確ではありません。

 中劇場の“ありのままの魅力”を大々的に利用したシンプルかつ大胆な美術と照明でした(座席によって印象は異なるかもしれませんが。私は真ん中ブロックほぼ中央で、客席後方でした)。10列目が最前列で、そのまま舞台へとつながっていますので、かなりせり出していますね。『INTO THE WOODS』みたい。
 豪華キャストの劇画タッチの演技も遊び心があって面白かった~!衣裳も役柄の個性をわかりやすく表現していておしゃれ。

 ここからネタバレします。

 とりあえず、オープニングのミュージカル的開幕にはビビりました。だって歌がヘンだし動きもダサイし、もーどうしようかしらって(苦笑)。でもそれがネタだったんですよね~。「ギリシア悲劇はミュージカルには合わないよ!」と、演出家(有薗芳記)がツー・ステップ踏みながらダメ出しして爆笑でした。

 「悲劇を量産するのは戦争だ。戦争を知らない劇作家に悲劇が書けるわけがない」(by エウリピデス)という論理から、劇作家は戦場になった東京(新宿で突然テロが起きる)を経験します。「トロイの木馬」事件(Wikipedia)をテロと位置づけ、ギリシア時代のアルゴスと現代の新宿とが重なるという仕掛けでした。

 戯曲の中でも同様にテロが起き、映画監督および女優、作家が揃ったスター一家も“戦争”に巻き込まれますが(戦争を美化する映画を作る等)、“アトレウス家の悲劇”のように家族内で殺しの連鎖が起こらないのがすごく面白かったです。
 弱々しい夫・アガメムノンを殺す気になれないクリュタイメストラ。実は性的不能(なんて理由!笑)でクリュタイメストラの愛人ではなかったアイギストス。父が死ななかったから、敵討ちのために母・クリュタイメストラを殺すことができないエレクトラとオレステス。「いったいこの先どうなるの!?」とわくわくドキドキしながら見守りました。

 「高尚な(?)悲劇を完成させるために(だったかな)、自分達の名前に運命付けられた殺しは実行しなければならない」と考えたクリュタイメストラは、みんなで「殺し、殺される振りをする」ことを提案します。舞台上で呪われた家族を演じる登場人物(=役者)が、茶番とわかっていながらおおげさな殺人の応酬を演じたことで生まれたのは、心をあるがままに開放した対話でした。その結果、それぞれが全く新しい人生を生き始めることになります。

 「殺し合いではなく対話を」はまさに今、人類に求められていることです。「演じる」ことで人が変化し、新たな関係が生み出されるという結末は、“演劇ができること”を強く示しています。丸裸の劇場を使った劇中劇構造の演劇が、古代と現代をつなぎ、作り手と観客が今を共有していました。それこそ“劇場”の存在意義だと思います。新国立劇場の新しい宣言だと受け取り、感動しました。

 ただ、最後が思いっきり母親(女性)賛美になっちゃったことには疑問が残りました。考えてみたらサブタイトルが「クリュタイメストラ」なんですね。しかも公式サイトに「母・妻・娘という女性の3つの側面を異なる作家・演出家が三様に表現。」と書かれています。最初からテーマが「母」と決まっていたってことですね。それは仕方ないな~と思いながらも、やっぱりちょっと腑に落ちなかったです。クリュタイメストラが白いシャツに黒いパンツの男らしい衣裳になっていたのは、現代の“働く女”かな?私には幸せのイメージにつながらないんですよね。

 戦場になった新宿でクリュタイメストラ(佐久間良子)がシチューを作りながら独白するシーンは、古代から現代、未来へと時空を超える母の像を見たように思いました。舞台全体に文字(ギリシャ文字など)が映写されてうごめくのがかっこ良かった。
 
 心に残ったセリフは下記(完全に正確ではありません)。
 「なぜテロの死者が戦死者と呼ばれないのか」
 「現代において、もはや神の光臨は喜劇にしかならない」
 「“先のことなど考えない無責任な男らしい夢”のおかげで高度成長をとげた日本(でもその時代はもう終わった)。」

「三つの悲劇」ギリシャからVol.1
出演=佐久間良子、小島聖、李丹、山田里奈、篠崎はるく、磯部勉、有薗芳記、山中崇、松本博之、中村彰男、石田圭祐、小林勝也
作=川村毅 演出=鵜山仁 美術=島次郎 照明=服部基 音楽=久米大作 音響=上田好生 衣裳=原まさみ ヘアメイク=宮内宏明 演出助手=上村聡史 舞台監督=北条孝 総合舞台監督=矢野森一
【発売日】2007/07/21 S席7,350円 A席5,250円 B席3,150円 Z席1,500円 ※料金は消費税込み Z席=1,500円/当日学生券=50%割引※「三つの悲劇」3作品特別割引通し券あり
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000032.html

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Posted by shinobu at 2007年09月21日 00:20 | TrackBack (0)