堤春恵さんの書き下ろし新作ということで(⇒過去レビュー)、とても期待して新しい劇場に伺いました。上演時間は2時間10分(途中15分の休憩を含む)。
あうるすぽっとはJR池袋駅から徒歩8分、東京メトロ東池袋駅直結の、巨大な高層ビルの中にありました。ガラス張りのエントランスを見てびっくり。まるで大企業のオフィスみたい!高層マンションも隣接し、豊島区立中央図書館も同じビル内にあるそうで、ロケーションは最高ですよね。
⇒CoRich舞台芸術!『駅・ターミナル』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
文明開化を急ぐー伊藤博文を中心としたー政治家と、7歳でアメリカに官費留学し、後に津田塾大学の創設者となった津田梅子の青春から晩年までの人生を、明治のエリートたちの欧米文明受容の葛藤、史実とフィクションをまじえて描き出す。富国強兵を進める初代総理大臣・伊藤博文と、自由で自立した女子教育に情熱を燃やす津田梅子の関係は微妙な男女の心理もからんで対立を生む。駅・ターミナルは、様々な人が通り過ぎる「人生の起点」のシンボルであり、「開かれた世界」への登竜門。追いつき追い越せの欧米文明を乗せた線路が現代の日本の文明までつながり、そしていま、国境を越えていく。
≪ここまで≫
明治時代の実在の人物たちが列車に乗り合わせて語らうことになる、史実をもとにしたフィクションです。舞台はずっと列車の中。時代と場所が変わるので車両が変化します。暗転が長いですが、大胆な転換もあって楽しめました。
でも演技が・・・。いかにも説明口調で自己紹介するし、不自然に客席に向いて立つし、相手の反応に関係なく、振付がついたように動くし、朗々と歌うようにしゃべるし。舞台の上で役者さんが生きていません。せっかくの脚本もこんな演技で語られては・・・。
前半はがっかりして集中できませんでしたが、後半は開き直って、言葉の意味を追いかけるようにしました。
日本を縦横に走るようになった列車の終着駅はどこなのか。終盤で伊藤博文と津田梅子が、線路と駅に思いを馳せながら語るシーンで涙が流れました。
初日の客席はいかにも演劇界の重鎮らしき人々が揃っていました。まるで新国立劇場の初日みたいに。新しい建物ですけど、中身が新しいわけではなさそうです。
ここからネタバレします。
※セリフは一部パンフレットより引用。正確ではないものもあります。
伊藤「(線路は伸びる。東京-神戸、上野-青森、北海道へも。)そして海峡を越えると・・・国境だ。」
この「国境だ」というセリフを聞いた途端、涙があふれました。私達が使っている電車は日本中をくまなく走るようになりました(過疎地もありますが)。その先には海があり、海の先には国と国との境目があります。インターネットが発達して生活に浸透した今、見えないけれど確かに存在するその線を、私達はこれまでにはなかった視点から見つめることができるようになっているはずです。伊藤と梅子にとっての「国境」と私の「国境」の違いがはっきりと感じられました。
トックビル著「アメリカン・デモクラシー」という分厚い洋書が伊藤と梅子の間を行ったり来たりします。その本の第十章はアメリカの白人至上主義について書かれており、2人ともが最も関心を持って、日本人であることのアイデンティティーを互いに確認することになった箇所でした。なのに伊藤は日本を守り、発展させるために、韓国を植民地化する道を選びます。
梅子「男たちは線路に汽車を走らせ、その汽車で軍隊を運ぶ。軍隊が国境を越えれば戦争が始まる。」
この言葉の意味そのままでも充分に歴史を振り返って学ぶことはできますが、それだけでは物足りなく感じました。24時間インターネットで海外とつながっていて、中国から黄砂が降ってきて、原油価格の上昇で物価が上がってきた、今の日本。そこで生きている私たちにとっての「国境」とは何なのか。もっと今とつながるように踏み込んだ演出で観たかったです。若い演出家に演出してもらいたいな。
川上音ニ郎(Wikipedia)と貞やっこまで出てきて(三谷幸喜さんが新作で題材にされています)ちょっと嬉しかった。
あうるすぽっとこけら落とし公演
出演=外山誠二、久世星佳、村上博、金子由之、林次樹、本田次布、内田龍磨、岩下まき子、森源次郎、宮内宏道、長谷川敦央
作:堤春恵 演出:末木利文 主催: 木山事務所・豊島区・(財)としま未来文化財団 企画製作: 木山事務所・あうるすぽっと
【発売日】2007/07/23 全席指定 一般5000円 学生割引3500円 (学生割引は木山事務所のみ取り扱い) 区民割引4700円 としまみらい友の会4500円
http://www.owlspot.jp/performance/071004.html
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