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REVIEW

2007年10月07日

InnocentSphere『獅子吼~シンハナーダ~』10/04-07紀伊國屋サザンシアター

 InnocentSphere(イノセントスフィア)は西森英行さんが作・演出される劇団です。青山円形劇場、シアタートラムを経て今回は紀伊國屋サザンシアターに進出。

 時事問題に真っ向から立ち向かった、直球ど真ん中の真剣勝負。InnocentSphereの作風は社会派エンターテインメントと言われることもあるそうですが、オンタイムすぎて驚くほどでした。観られて良かったです。上演時間は約2時間弱。

 ⇒CoRich舞台芸術!『獅子吼~シンハナーダ~

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 歴史vs人間
 彼らは歴史に、最後の孤独な戦いを挑む。

 2007年。
 巨大な地下空間で共同生活をする若者たちがいた。
 「地上では『戦い』が続いている―。」
 彼らはやがて訪れる「来たるべき日」に向けて、日々心身の修養に励んでいる。
 彼らは一体何者なのか。
 革命の志士か犯罪者か。それともただ闘争の果ての平和を夢想する者たちか。
 まだ見ぬ敵への闘争心を抱えたまま、果てしなく続いていく平坦な日々…。
 ある時、彼らはふとしたきっかけからひとつの疑問を持ち始める。
 「『戦い』のためにここを出る日は、本当に来るのだろうか…。」
 やがて彼らは自分たちの信念を疑い始め、動揺し、激しく混乱していく。
 その時、ひとりの女が、
 彼らの存在をめぐる重大な秘密を告白する―。
 そして彼らは、強大な敵を相手に、最後の戦いを挑むことになる。
 ≪ここまで≫

 作・演出の西森さんは現在29歳。若い作家が今感じたことを、今演劇にして上演していること、そして役者さんがとても真面目に、本気でぶつかっていること。それだけでInnocentSphereならではの価値だと思います。
 さらに今回は戯曲が演劇ならではの構造になっており、作家が伝えんとすることを素直に受け取ることができました。きれいに治まる(まとまる)かと思いきや、さらに先へと、これでもか、これでもかと突き詰めていくあたりにも、作家の熱意が感じられます。

 現在の都合で過去(歴史)を塗り替えることに対して、力の限りに問題提起をされていたように思います。おおげさに正義漢ぶることなく、ただ真摯に、演劇という表現を使って。

 ここからネタバレします。

 地下空間とは1945年夏の沖縄の壕。そこで暮らしている若者とは、地下で死んでしまった兵士や民間人でした。戦死者が自分達が死んだ日のことを芝居(劇中劇)にして演じていくことで、その日に何が起こったのか、いったい彼らは誰にどうやって殺されたのかが明かされていきます。
 同時に2007年現在のシーンも平行します。沖縄戦での「集団自決」から日本軍強制の記述が削除される教科書問題(沖縄戦「集団自決」問題)について、意見が対立する老人(壕から脱出して生き延びた兵士)とその孫が登場します。老人が地下壕の仲間達のことを回想し、60年前の出来事が現在とつながります。

 あからさまな外国人差別(琉球人、台湾人、朝鮮人らを下級とみなす)や日本による植民地支配(劇中ではそう呼ばれることもありました)の惨状なども、劇中劇の中で純粋に演じられる登場人物によって言及されます。今の若者が知った日本の太平洋戦争の姿が、そこにありました。

 今を生きている若い俳優が劇中劇として戦争を演じることで、60年前の出来事が私自身にとってのリアルに近づきました。それは素晴らしいことだと思いますが、できれば、見事に仕上がった社会派演劇というパッケージの、さらに外側の世界も生み出してくれたらいいなと思いました。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演=吉田鋼太郎 西森英行 中井出健(AUN) 司会=柳悠美

 彩の国さいたま芸術劇場『オセロー』主演中の吉田鋼太郎さんが、終演後に駆けつけたそうです。すごいですね。

出演=狩野和馬 坂根泰士 倉方規安 日高勝郎 足立由夏 四十八願智子 黒川深雪 三浦知之 間野健介 八敷勝 こうのゆか 中井出健(AUN) 久野一洋(劇がく杜の会) 吉川博史(黒色綺譚カナリア派) 小櫻健一(AUN) 杉本政志 高田淳 中田真弘 長谷川耕(AUN) 山下潤 伊藤優 小澤恵(劇がく杜の会) 桑原なお 小垣外翔 吉田真由美
作・演出=西森英行 照明=斎藤真一郎(A.P.S.)  音響=ヨシモトシンヤ(SoundCube)  選曲=高橋秀雄(SoundCube)  美術=松本わかこ  大道具製作=イトウ舞台工房  小道具=蕪木久枝  衣裳=村瀬夏夜  ヘア・メイクプランナー=泉淑  宣伝美術・映像=冨田中理(SelfimageProdeukts)  スチール=坂田峰夫  演出助手=田村友佳(KAKUTA)  舞台監督=筒井昭善  票券管理=萬代純子(penguin jam)  制作補佐=柳悠美 ・筧尚子 ・中田豪一 ・風見尚子 ・宮永琢生(ZuQnZ)  制作=佐竹香子  企画製作=InnocentSphere 協力=ライドアウト・田中浩補  助成=芸術文化振興基金
全席指定 ■前売 一般:3500円/ペア:6400円 大学・専門学生:2000円 中・高校生:1000円 ■当日 一般:3500円 大学・専門学生:2000円 中・高校生:1000円
公式=http://www.innocentsphere.com/

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Posted by shinobu at 2007年10月07日 21:21 | TrackBack (0)