斎藤憐さんが数百冊におよぶ資料をもとに、執筆だけで「1年間苦闘した」力作だそうです(朝日新聞2007/09/29夕刊より)。佐藤信さんが美術と演出を手がけます。
脚本に惹かれて観に行って正解でした。上演時間は約3時間(15分の休憩を含む)。私が観た回はNHKのカメラが入っていました。
⇒CoRich舞台芸術!『豚と真珠湾』
≪あらすじ≫ 劇場公式サイトより
敗戦後の八重山諸島に米軍は進駐しなかったため、役所も警察もない無政府状態におかれていた。八重山の豚や米を食い尽くした日本軍人を本土に帰還させる船もなく、蔓延するマラリアを食い止める医師も薬もなかった。島民たちは仕方なく自治共和国を建国したのだが……。
≪ここまで≫
舞台は戦争直後の沖縄・石垣島。サカナヤー(料理屋)を営む家族と彼らを取り巻く人々の、1945年~1950年の約5年間を淡々と描きます。高くて真っ白な壁に三方から囲まれた空間は、最小限の大道具・小道具で広々としながら、隔離された島の閉塞感も表していました。上下(かみしも)の壁には大きな青い開き戸がはめ込まれており、家の外を歩いているはずなのにドアを開け閉めして出はけします。
前半2時間は説明的なセリフで単調に進むことが退屈で仕方なかったのですが、後半になってからじわじわと引き込まれていきました。淡々と時系列に起こる出来事の裏側に、当たり前のように翻弄される人間、流されて変わっていく人間、過去がすっかり塗り替えられるように変化しても、やはり大昔と同じように命をつないでいく人間・・・など、むき出しの人間の姿が見えてきたからです。涙がボロボロこぼれました。
知っていたつもりだったけれど、やはり知らなかった。歴史劇や古典劇を観る度に感じることです。私は賢くないので本を読むことでは充分に咀嚼できないような気がするし、性格がヘンクツなので、映画のように焦点を決められると(顔のアップのシーンなど)誘導されているように感じて素直に受け取れなかったりします。だから今作のように、さまざまな立場の人間のそれぞれの言い分や思い込みが同じ土俵に並べられ、その誰(どれ)を観ていてもいいような群像劇ほど、自由に解釈ができるし、より多くのことを学べるように思います。
斎藤憐さんの脚本から多くを教えてもらいました。
沖縄もハワイもどちらも海に浮かぶ島。沖縄は日本軍の基地が、ハワイにはアメリカ軍の基地が作られた。だから石垣島と真珠湾は標的になった。
沖縄にアメリカ軍用の空港がなければ(飛行機が給油できないため)、長崎に原爆は落ちなかった。
平日マチネとはいえ、客層の年齢層の高さに驚きました。半分以上が白髪交じりの男性でした(だいたいは女性の方が多いんです)。こういう作品こそ、教養の演劇として戦争を知らない世代(私を含め)に広まってくれたらなぁと思います。NHKで放送されるのはとても良いですね。
ここからネタバレします。※セリフは完全に正確ではありません。
巣鴨プリズンに入れられた戦犯の多くが死刑判決を受けたことについて、料理屋の女主人ナベ(大塚道子)の息子・英文(田中壮太郎)が言ったセリフが胸に残ります。
「(死刑にして)今殺さなくたって、50年たてばみんな死んでるさ。」
今は2007年ですから、もう57年経っているんですよね。
出演=大塚道子、阿部百合子、長浜奈津子、生原麻友美、小澤英恵、可知靖之、中野誠也、塩山誠司、田中茂弘、西川竜太郎、田中壮太郎、松島正芳、林宏和
作=斎藤憐 演出・美術=佐藤信 音楽=中村透 照明=黒尾芳昭 音響=田村悳 衣裳=若生昌 舞台監督=石井道隆 演出助手=安藤勝也 制作=山崎菊雄 村田和隆 主催=劇団俳優座
一般5250円 学生3675円
http://www.haiyuza.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。ご了承下さい。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。