青木豪さんが作・演出されるグリングの新作です。メルマガ2007年11月号でお薦めしておりました。
『Get Back!』というタイトルがただ「戻れ!」ってだけではなく、複数の意味で作品と関連していて「わぉ、かっこえ~っ」って思いました。柔らかいようで胸にぐっさり痛い、大人のお芝居。上演時間は約1時間50分。公演終盤はまだ残席あるそうです。
⇒CoRich舞台芸術!『Get Back!』
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
舞台は、山間部にある民泊施設。
都会を捨て、ロハス的な生活に憧れる人々が集う宿。
雪がもうすぐ降ろうという頃、とあるグループが宿を訪れた。
女が2人に男が1人。
彼女らの訪れは、やがて、おだやかな日々を壊していく。
「純粋な目的で集まっていた集団が、内部から崩壊していく姿」を描く、
青木豪、約一年ぶりの新作公演。
≪ここまで≫
人間の優しさや可愛らしさ、思わず吹き出してしまう笑いも盛り込んだ、無理のない会話劇だったと思います。でも、すごく、厳しい・・・。
青木さんの脚本は人間を優しく見つめてくれているけれど、残酷なほど意地悪(笑)。でもそこが好きだし、ありがたいです。ふんわりと浮かぶ夢物語は、その時は楽しめても心にも刺さらずにいつの間にか消えちゃったりしますものね。
役者さんが演技のための演技をしているように見えることがありました。ある感情が生まれるための準備をしているような。その場に生きて、その場でおのずと感情と行動が生まれてくれば、言葉や意味以外にももっと世界が広がってくるんじゃないかと思います。
私が拝見したのは初日ですので、どんどん面白いことになってくるんじゃないでしょうか。達者な役者さんばかりが揃っている贅沢な公演なので。
ここからネタバレします。
「戻る」ことについて。まず脚本が戻る構成になっています。いわば物語が大きな転換点を迎えるシーンがド頭に演じられます。「わぉ、この人たち誰?一体何をもめてるの?」と思ったら暗転して、1日ぐらい時間をさかのぼったシーンが始まります。徐々に冒頭のシーンへと近づいていくので、ちょっとしたサスペンスのようにも楽しめました。
冒頭シーンの後は額縁一杯の広さのスクリーンに、出演者のクレジットが入った映像が映されました。こんなに大きな映像を使うのって、私はグリングでは初めて観たのでとっても新鮮。内容は時間の経過を示すものでした(小さくなるろうそく、夜明けから夕焼けの空など)。
開幕の音楽がBeatlesの"Get Back"(Wikipedia)だったのも気分がノリノリに。
やってくるのは、3人組だった漫画チームがばらばらになっちゃうという結末。元に戻そうとしてじたばたして、あるきっかけで「やっと元に戻れる!」と思ったけど、結局、戻れないことを互いに思い知ることになります。「戻れ!」っていう言葉(タイトル)が、叶わないとわかっていても吐露してしまう願いのようにも解釈できるんですね。
漫画原作者(片桐はいり)は前途洋洋な将来が見えているけど20年付き添ってくれた支えを失うし、漫画家(萩原利映)は思いが伝わらない不満や相棒からの蔑視ともいえる視線から逃れられますが、20年続けてきた仕事を失います。そしてアシスタント(中野英樹)は上司2人の間で気を使う必要がなくなりますが、正気を失います。
私も失恋した時はフラれる前に時間が戻って欲しかったし(笑)、あの仲間ともう一度あの時のように出会いたいとか、今でもチラっと思ったりするんですけどね。「時よ戻れ!」って懇願しても絶対に戻らないし、それなら時間はそのままでもせめて関係ぐらいは昔のようになりたいと思ったりするんですが、実際のところ不可能です。こうやって自覚はしているのだけれど、目の前でまた見せられると、またずしんと重たく乗っかってくるものですね。
狂ってしまう人が1人いたのでそもそもが無理な相談だとは思うんですが、個人的にはできれば最後に、『海賊』で受け取ったようなささやかな希望のようなものが感じたかったです。これもまた、私が甘ちゃんだってことなのでしょう。
爆笑した言葉はこちら。
「(お前は)遠浅な人間だよ!」
「意外なとこ、マッハだな。」
出演=片桐はいり、萩原利映、杉山文雄、中野英樹、高橋理恵子(演劇集団円)、遠藤留奈、黒川薫、村木仁
作・演出=青木豪 照明=清水利恭 照明オペレーター=中山玲 美術=田中敏恵 舞台監督=筒井昭善 効果=青木タクヘイ 効果オペレーター=吉岡英利子 音楽=dubRIN' 峰岸信太郎 映像製作=岸健太朗 演出助手=田村友佳 宣伝美術=高橋歩 宣伝写真=仲西隆良 公演収録=(株)キース・コーポレーション 記録写真=鎌田伸幸 制作=菊池八恵 制作協力=嶌津信勝 企画・製作・主催=グリング
【発売日】2007/10/19 得割 3,500円 前売 4,000円 当日 4,500円 指定、自由とも
http://www.gring.info/
※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。
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