マーティン・マクドナー戯曲を長塚圭史さんが演出するパルコ・プロデュース第三弾(⇒『ウィー・トーマス』(初演、再演)『ピローマン』)。
初日3日前にキャスト変更が発表されました(黒田勇樹さんから長塚圭史さんに)。
長塚さんの演出の確かさに心から満足した、贅沢な4人芝居でした。マクドナーの脚本もやっぱりすごく面白いです。上演時間は約2時間30分(休憩15分を含む)。
⇒CoRich舞台芸術!『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
真っ黒いユーモア、猛毒の悪意、不吉な沈黙。
島、家庭、閉ざされた環境で恐ろしいほどに歪んでいく母娘関係。
一瞬輝いた光が照らし出したのは、思いがけない結末だった・・・
アイルランドの片田舎、ゴールウェイ コネマラにあるリナーンに暮らす母と娘。自分勝手で支配的な母親マッグ(白石加代子)は、病身を理由になにひとつ自分でしようとはせず、娘に全ての世話をさせている。娘モーリーン(大竹しのぶ)も負けてはいない。母の頼みをわざと無視したり、いやがらせをしたりと、二人の戦いが毎日続いている。
ある時モーリーンが出かけている間に、近所に住むレイ(長塚圭史)がパーティの知らせを持ってやってくる。イングランドで働いている独身の兄パートー(田中哲司)も久しぶりに帰ってくるという。しかしモーリーンが結婚して出て行ってしまうと困るマッグは、その伝言を彼女に伝えない。ところがモーリーンは帰宅の途中、レイに出会ってその話を聞いていた。
モーリーンは新しいドレスを買ってパーティに出席。その晩、パートーを家に連れて帰ってくる。
翌朝二人を見つけたマッグは激怒、そしてモーリーンに精神病歴があることを暴露してしまう・・・
≪ここまで≫
たった4人しか登場しないことを忘れるほど、アイルランドのある小さな町の営みがリアルに伝わってきました。美術(照明含む)も音楽も大人がゆったり、じっくり、安心して味わえる、上品で完成度の高いものだったと思います。
ただ、初日だったのもあってか、役者さんの演技についてはまだまだこれから充実させられる余地があるように思いました。キャスト変更が大きく影響していることは間違いないですよね。ステージを重ねるごとにどんどん進化することと思います。
白石さん(母)と大竹さん(娘)の演技はそれぞれにとっても個性豊かで面白みがあるのですが、お互いに一方通行のように見えて、前半は遠くから見物する感覚でした。例えば白石さんはマッグという老婦人のキャラクターを固めて、その中にご自身をはめこんでいるようで、他の3人の役者さんの演技とは異質に見えました。それはそれでとっても魅力的なおばあちゃんだったんですけどね。私の好みじゃなかっただけかもしれません。
モノローグのシーンは軽妙ながらしっかり芯がとおっていて見ごたえがありました。
パートー役の田中哲司さんは背が高くてかっこいいし、演技もゆるりとリラックスされているようで気持ちが良かったです。コミカルなところも自然。
パートーの弟レイ・ドゥーリー役を、黒田勇樹さんに代わって長塚圭史さんが演じられました。ダメな若者を本当にダメそうに演じ(笑)、でも愛嬌もたっぷり。演出をしながらあんなに見事に演じられるなんて、ほんっとにかっこいい人だなって思います。家に帰ったらちょうど『R30』に出演されていました。そんなところもかっこいい。
ここからネタバレします。
母と娘の会話から、2人が長年憎しみ合いながらもべったり一緒に暮らしているということが信じにくかったです。ののしり合っているかと思ったら突然「お茶飲む?」と話しかけたりします。それに無理を感じてしまったんですよね。そういう気持ちが起こるまでセリフを発することを待ってもいいのになと思いました。
『ロンサム・ウェスト』に登場するコーナー兄弟も、この母娘のようにケンカばかりしているのですが、演劇集団円版(演出:森新太郎)では、彼らが突然に仲良くなったりすることにリアリティがあったんですよね。どうしても比べて観てしまいました。
あと、これは私の個人的な考えなのですが、娘モーリーンは本当は美しくないんじゃないかしら・・・?大竹さんがすごくきれいなので、パートー(田中哲司)に「リナーン1の美人」と言われても、自分から「リナーン1の美人」と言っても、すんなり受け入れることができてしまったんです。もったいない気がしました。
後半はじめのパートーが手紙を読むモノローグがとても面白くて魅力的でした。突然曲が変わるのも、美術の転換(装置が上下に割れてパートーの部屋が生まれる)も良かったな~。アイルランドから離れた外国のムードを大胆に、躍動的に演出していました。
いくつかは脚本で指定されているようですが、全体の選曲もすごく私好みでした。チーフタンズの曲、どこかで聴いた気がします。
シーン終わりの暗転前に母親(白石加代子)が1人で佇むことが何度かあったのですが、それは最後に空席のロッキングチェアーが揺れる演出に通じてたんですね。渋い!
『ロンサム・ウェスト』の登場人物についての噂話がいっぱい出てきてすごく楽しかった!ウェルシュ神父とか(笑)。『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン The Beauty Queen of Leenane』、『スカル・イン・コネマラ A Skull in Connemara』、『ロンサム・ウエスト The Lonesome West』で“リナーン三部作”なんだそうです。
≪東京、大阪≫
長塚圭史×マクドナー 第三弾 The Beauty Queen of Leenane
出演:大竹しのぶ 白石加代子 田中哲司 長塚圭史 ※黒田勇樹が体調不良のため降板。代役に長塚圭史。
脚本:マーティン・マクドナー(Martin McDonagh) 演出:長塚圭史 訳:目黒条 美術:二村周作 衣裳:前田文子 照明:佐藤啓 音響:加藤温 演出助手:坂本聖子 ヘアメイク:高橋功亘 舞台監督:菅野将機 製作:山崎浩一 企画:佐藤玄・田中希世子 プロデューサー:毛利美咲 企画製作:株式会社パルコ
【発売日】2007/10/14(全席指定税込)8400円 学生券(当日指定席引換)4500円
http://www.parco-play.com/web/page/information/beauty/
※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。
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