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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年12月20日

明治座/シーエイティプロデュース『眉山~びざん~』12/02-23明治座

 歌手のさだまさしさんの小説の舞台化です。映画化もされています。上演時間は約3時間(途中30分の休憩を含む)。

 明治座は2003年にモーニング娘。主演ミュージカルを観に行った時に初めて伺ったんですよね。これで3度目になるのですが、今回はじめてマチネ(昼の回)のチケットを取り、いい意味で明治座らしい客席を味わえました。とりあえず開幕してから20分ぐらいは私語が止まないんです(笑)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『眉山

 開演直前に隣の席にやってきた奥様に「私が隣の席です、よろしくお願いします」と言われました。こんなことは初めてだったので「あ、はい、こちらこそ」とキョドりながらお返事しつつ、なんだか少し嬉しい気持ちに。だって“一緒に観てる”って気がしますよね、見知らぬ人なのに。

 客席を見回すとご年配の女性のグループが大勢いらっしゃいます。遠くの席からお名前を呼び合ったりして。久しぶりに再会されたのかご旅行中なのか、皆さん、社交・観光スポットとして明治座にいらしてるんですね。

 休憩時間は30分。テレビで流れる明治座アカデミーの宣伝映像を観ていたら、上品そうな女性が「前を失礼いたします」と一言添えて私とテレビの間をササっと通り抜けられました。こういう一言ってすごく嬉しいし、私自身、襟を正さなければと思いました。

 マチネの休憩はちょうど昼食時ですから、団体客は場内のレストランでお友達と楽しくお食事されるのでしょう。そしてお土産も買い込んで、ブザーの音とともに客席へ。そうなるとやっぱり1幕の開演時と同様、私語が止まらないんですよ。ビニール袋のガサゴソという音も断続的に続きますし。

 でも、それも含めて明治座なんだと気持ちよく受け入れられました。開演前と休憩時間に出会った女性たちのおかげです。明治座の観客はショーを観に来ることだけが目的じゃないんですよね。ハードとしての劇場により親密に触れているのだと思います。商業演劇というジャンルの存在意義が少しわかったような気がして、充実の観劇になりました。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 東京の旅行代理店で働く咲子(石田ゆり子)は、故郷の徳島で一人暮らす母・龍子(宮本信子)が末期癌で数ヶ月の命と告知される。
 徳島に滞在し、母を看取ろうと決心した矢先、咲子は母が自分にだまって「献体」を申し込んでいたことを知る。
 なぜなのか?やがて咲子は、まだ会ったことのない父の存在と、母の想いに辿り着く。
 母のある願いを叶えるために、咲子は母を熱狂の阿波おどりに連れ出す・・・。
 毅然と生きてきた女性の切なく苦しい愛が胸を打つ大作!
 ≪ここまで≫

 回り舞台の具象美術。額縁の藍色が効いています。
 あらすじを読んでから観に行ったので覚悟はしていました。私の苦手な病院ものだってことを。でもそんなにつらい気持ちにはならなかったですね。闘病生活というよりは宮本信子さん演じる龍子という女性の生き様に焦点が当てられていて、それを自分や自分の家族の人生と重ね合わせながら色々考えることができたので。

 圧巻なのは、赤、オレンジ、黄色の無数のちょうちんをバックに大人数の役者さんが舞う阿波踊りのシーン。阿波踊りならではのなまめかしい手の動き、艶っぽいかけ声(っていうのかな)、老若男女を問わず浮世を忘れ、誰もが踊ることだけに熱狂する時間。まるで生と死の間のカオスに集団でトリップしたみたい。
 ちょうちんの暖色に青や白などの突き刺すような照明が加わっていきます。最高潮に達する熱気を冷淡に見据える悪魔(死)のようにも見え、恐ろしさも感じました。このシーンで涙がボロボロこぼれました。

 宮本信子さんが肝の据わった江戸っ子ママとして、ガツンと見得を切ってくれるのがかっこいいです。観客はこれを観に来てるんだろうなって思いました。
 コメディ担当として脇をしっかり固める役者さんが頼もしかったです。特に印象に残ったのはポロシャツと短パンを着ていた福本伸一さんと、下手のベッドを陣取っていた入院患者役の女優さん(お名前はわかりません)。

 ここからネタバレします。

 咲子は、母・龍子と不倫の関係にあった外科医(山本學さん・・・ですよね?)との間に生まれた私生児でした。咲子の計らいで、病床で死を目前にした龍子と年老いた外科医は、30余年の年月を経て再会します。宮本さん演じる龍子があまりにかっこいい女性だったものだから、外科医もその彼女を魅了し続けた説得力のある男性として登場してもらいたかったですね。

 舞台のために書き下ろされたさだまさしさんの新曲がかかるのはご愛嬌ですが、せっかく阿波踊りで作った立体的な空気が浅くなったように感じました。

出演者: 宮本信子 石田ゆり子 山本學 石倉三郎 熊谷真実 高橋和也 正司花江 曽我廼家文童 阪田瑞穂 大鷹明良 福本伸一 木村靖司 朝倉伸二(各順不同)  ほか
原作: さだまさし「眉山」(幻冬舎文庫) 脚本:齋藤雅文 演出:栗山民也 テーマ音楽:さだまさし 主催・制作: 明治座 企画・制作:シーエイティプロデュース 協力: 幻冬舎 さだ企画 徳島市
A席12,000円 B席5,000円
http://www.meijiza.co.jp/info/2007/12/main.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。
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Posted by shinobu at 2007年12月20日 18:03 | TrackBack (0)