ハイバイの岩井秀人さんが作・演出される4人芝居です。出演者には岩井さんを含め、注目されている若手のクセものが勢ぞろい。
中盤でグイっと心のど真ん中から引き込まれて、終盤はほとんど泣きっぱなし・・・。岩井さん、すごすぎる。
上演時間は約1時間20分。土日は1日3ステージあります。ベンチシートの小さな劇場です。お早目に劇場に到着されることをお勧めします。終盤はまだ残席あるそうです。
⇒CoRich舞台芸術!『投げられやす~い石』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。一部削除。(役者名)を追加。
美術学生時代に「4、5年に1人の天才」と言われた佐藤(岩井秀人)。
その親友の山田(山中隆次郎)は佐藤に憧れていた。
絵を描けばキャンバスを破って燃やし「燃えていく様が作品だ」と言い、彫刻にトライすれば「今目の前にある木々に勝る芸術はない・・」と遠い目をする。
そして山田の憧れであった大学のマドンナ、美紀(内田慈)も佐藤は恋人としていた。
そんなある日、佐藤は忽然と姿を消す。
「海外に修行に行った」、「あまりの芸術性の高さに発狂した」
憶測が飛び交う中、佐藤から山田にだけ、連絡が入る。
(ネタバレ防止のため一部削除)
待ち合わせ場所に向かった山田の前に、変わり果てた佐藤が現れる…。
≪ここまで≫
突然ニョロっと開幕したんです。私は心の準備があまりできておらず、妙な気分でヘンな格好をした役者さんたちがぼそぼそ話すのを眺めていました。「一体、この設定で、このムードで、何を描こうっていうのかしら・・・」といぶかしげに。でも、立っているだけで世界をきっちり表現してくれている役者さんに夢中にもなりつつ、劇の行方を見守っていました。
タイトルの『投げられやす~い石』に関連するのであろうシーンがありました。でも「一体、何なの、これって???」と、得体の知れない動物を観察するように舞台で行われる意味不明なことを見ていたら、その直後のひとことのセリフで、がっしり心をわしづかみにされました。
ゆるゆると流れるようでいて、実はものすごい繊細さと緻密さで組み立てられているんですね。中盤以降はすっかりのめりこみ、最後は涙、涙でございました。
作ること、表現することって一体何なのか。なぜ人は他者を必要とするのか。生きるって何なのか。そんな根源的な問題をシンプルに、直球で描いていたように思います。
ここからネタバレします。
感動した気持ちがまだ治まっておらず(笑)ちょっと大胆な書きっぷりです。引用するセリフはうろ覚えですので正確さに欠けると思います。お許し下さい。
佐藤と山田が河原でアホな石の投げ方を無心に練習しているシーンが長々と続きます。どう見てもバカ・・・なんですよね。でも人間の創作活動って所詮こういうことだよな~と眺めていました。なぜか特別にドラマティックに盛り上がっていた音楽もインパクト大でした。
“投石方法”を無心に追求する2人は、美大生時代の無邪気さを取り戻したようでした。一通り遊び終わったところで、佐藤が山田に「お前は絵描かなきゃだめだって」って言ったんです。もう・・・この、究極の一言に、落涙。ある人物の、特定の1人に対する、一糸まとわぬ、本物の、心にまっすぐ突き刺さる、意志(愛)。
佐藤は不治の病に侵されており、見るからに「今にも死にそう」な風体です。カラオケボックスで、佐藤が勢い余って「いのちっ」って言葉を発した時、もう、涙があふれ出てきてしまって、どうしようもなくなりました。
山田と美紀は佐藤が失踪した2年の間に結婚していて、絵画の世界からは遠ざかっていました。佐藤は「山田はもう絵を描いてないんだろ、だったら誰なんだよ、お前?」と、山田を問い詰めます。確かに・・・やりたいことをやらない(あきらめた)人間って、一体何なのでしょうか。何のために生きているのでしょうか。私もことあるごとに自問するテーマです。
山田の答えは「俺は、お前を知ってる人間だよ。それだけの人間だ。」でした。すると佐藤が「お前はたけのこが好きだろ。俺のことを知ってるだけじゃないよ。」とかぶせて・・・ここは私のつたない言葉では表現しきれないですね・・・ごめんなさい。誰かと関係を持っているっていうことだけで、人間は人間でいていいんだと思いました。
佐藤は病院のベッドで描いていた1枚の絵を山田と美紀に見せます。およそ“天才”扱いをされていた頃の佐藤の絵とは、全く違うものだったのでしょうけれど、構図が面白いし味わいもある絵でした。佐藤が語るその絵に込められた意味も、凄かった。
セブンイレブンの怖いフリーターと重なった死神(中川智明)が、佐藤を黄泉の国へ連れ去ろうとします。でも美紀と山田の歌声が死神の動きを止めて、佐藤は自ら静かに死んでいきました。友の歌声が佐藤のいのちを祝福していたんですね。カラオケの歌があんな祝祭ムードを生み出すなんて。ミラーボールの安っぽい光があんなに神々しいなんて。
まさか“死にオチ”になるとは全く予想していませんでした。だいたい、誰かが死ぬとおのずとドラマは生まれるものですから、私はそういう作品があまり好きではないんです。でもこの作品については、佐藤の死は必然だと感じました。
自ら死を迎え入れた(生を全うした)人間の美しさがありましたし、また、人間はどんなに高尚なことを言っても、やっても、死んだら無になるんだってことが表されていたと思います。人間のいのちは奇跡だけれど、同時にクズみたいなものなんですよね。そのクズの1つ1つが、かけがえのないものなんだと思います。
出演=山中隆次郎(スロウライダー)、内田慈、中川智明、岩井秀人(ハイバイ)
作・演出=岩井秀人(ハイバイ) 照明:松本大介(enjin-light) 富所浩一 音響:荒木まや 中田摩利子(OFFICE my on) 舞台監督:T-BOY金子 絵画製作:いちこじま画伯 宣伝美術:冨田中理(SelfmageProdukts) 当日運営:三村里奈(MRco.) プロデューサー:阿部敏信 企画・製作:ジェットラグ
【発売日】2007/12/15 前売3000円/当日3500円 【25日(金)14:00の回】前売2700円/当日3200円
http://www.jetlag.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。
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