イキウメの前川知大さんの新作をグリングの青木豪さんが演出するんですから、こりゃ必見。キャストも華やかです。青山円形劇場とネルケプランニングの企画なんですね。
重いテーマに真正面から取り組まれてさすがだな~と思いつつ、やっぱりプロデュース公演って難しいよね・・・というのが初日を拝見した感想でした。上演時間は約1時間40分。
⇒CoRich舞台芸術!『ウラノス』
≪あらすじ≫
ある片田舎の古い一軒家。裏庭になにやら大きな穴があり、地質調査が行われることになった。調査を進める男たち(今井朋彦、土屋裕一)に「貴重な地層が見つかったので、裏庭と家の土地を売ってもらいたい」と持ちかけられて、持ち主である姉妹(酒井美紀、川村ゆきえ)は戸惑うが…。
≪ここまで≫
丸いステージの4分の3ほどをぐるりと客席が囲みます。その丸い部分が裏庭。あとの4分の1は家の敷地とつながっており、乱暴に言ってしまうと舞台は前方後円墳のような形状ですね。
姉妹の父親は数年前に失踪したきりで、東京で暮らしいる姉には何か隠し事があるようです。過疎が進む村の閉塞した空気や老人ホームの存在なども、言葉であまり詳しく説明せずにセリフの端々に匂わせるような脚本で、誰かが何かをしゃべる度に興味がそそられました。
しかしながら、登場人物の社会的なつながりや生い立ちなど、目に見える人間の姿の裏側や周りに満ちているであろうものが、役者さんからあまり伝わってこなかったのが残念。色んな分野で活躍している役者さんが集まってますし、まだ有機的なつながりにまで至っていないのかもと思いました。
パンフレットの青木さんと前川さんの対談を読んで、お2人がこのテーマを選んだ理由がわかり、身につまされる思いがしました。
ここからネタバレします。
裏庭の穴は放り込んだものが忽然と消えてしまうワームホールの入口でした。民間伝承では「鬼の口」と呼ばれる不吉な穴で、昔から疫病で死んだ動物などの「ない方がよいもの」を穴に落として始末してきました。でもその後にひどい“タタリ”に見舞われたために、穴が封印されてきたことがわかります。人間は忘れる動物ですから、いつも誰かがまた掘り起こして、新たなタタリが起こって・・・の繰り返しなんですね。
姉が土地を手放してからその穴は、放射性廃棄物を捨てる穴として使われ始めます。しかしワームホールには出口があるわけで、それが50年後の同じ場所であることが判明します。なんと50年前に穴に落とされた男(大河内浩)が、そのままの姿で現れるから・・・。私達の国および世界が今やっていること(やろうとしていること)に重なりました。
姉「なかったことになんか、できないんだよ」
姉の昔の恋人(恋人かな?演じるのは中野英樹さん)が弁護士(土屋裕一)に背中をひょいっと押されて穴に落ちてしまいます。落ちる瞬間があまりに静かでサラっとしていたのが、恐ろしくて良かったです。
声が鮮やかな色彩となって目に見える若者(津村知与支)が、弁護士(土屋裕一)の声を聞いて「黒い緑!」と叫ぶのが耳に残りました。
これは個人的にツボだっただけなんですが、弁護士の趣味が“にわとりの交配”っていうのに爆笑(笑)。
「二十日鼠と人間」についても面白い発言がありましたよね、何だったか忘れちゃったな~。
出演:酒井美紀、今井朋彦、大河内浩、土屋裕一、川村ゆきえ、中野英樹、津村知与支、岩本幸子
脚本:前川知大 演出:青木豪 美術:田中敏恵 照明:清水利恭(日高舞台照明) 音響:青木タクヘイ 舞台監督:筒井昭善 衣裳:小原敏博 演出助手:田村友佳 キャスティング協力:河村剛史(ビーオネスト)/野上祥子 照明操作:山田真輔 音響操作:大久保友紀 演出部:藤林美樹 衣裳補助:小林由香 衣裳進行:名村多美子 大道具:伊藤舞台 運搬:帯瀬運送 宣伝美術:阿部剛(Seagall) 宣伝カメラマン:山平敦史 宣伝カメラマン助手:渡部俊介 宣伝ヘアメイク:SHIN/長田進ニ 対談ページ取材:いちこ米 印刷・製本:エーゼット 稽古場協力:スペーステン プロデューサー:志茂聰明 松田誠 主催:青山円形劇場・ネルケプランニング
【発売日】2007/12/15前売4500円 当日5000円
http://www.nelke.co.jp
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。