1993年にカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した映画『さらば、わが愛 覇王別姫』(Wikipedia)の世界初の舞台化です。主演は少年隊の東山紀之さん(“少年隊の”って今はもう言わなくてもいいのかな??)。
ある京劇役者の人生から中国の歴史が見えてくる壮大な長編ドラマが、なんと上演時間2時間(休憩なし)の音楽劇になっていました。すっごく感動~♪
⇒CoRich舞台芸術!『さらば、わが愛 覇王別姫』
≪あらすじ≫ goo 映画より。(後の役名)を追加。
1925年、北京。娼婦の母親に連れられ、孤児や貧民の子供たちが集まる京劇の養成所に入った9歳の少年・小豆子(後の蝶衣)。新入りの小豆子は他の子供たちからいじめられたが、彼を弟のようにかばったのは小石頭(後の段小樓)だけだった。
≪ここまで≫
長い歴史映画の重要な出来事を切り取って、ひとつひとつのエピソードが等価に並べられているように感じました。登場人物の心の揺れを詩的につづったセリフが、そぎ落とされた部分をちゃんと伝えてくれます。シンプルな構造だからこそ、容赦なく過ぎていく時間、激変する時代を感じ取ることができたのかもしれません。パンフレットで宮川彬良さん(音楽)がおっしゃっている「岸田さんの台本はそれ自体が音楽だから」という言葉にとても共感しました。
演出も蜷川さんのこれまでの作品と比べるとシンプルな方だと思います。最初の京劇のシーンで役者さんが歌を歌われた時は、本物の京劇とあまりに違うので戸惑ったんですが、後から“歌”が演出の面で大きな効果を発揮していくのが見事だな~と思いました。
舞台はカーテンのような白い幕に囲まれた形。透き通った幕がふわふわと風に揺れるのは、時代に翻弄される人間を想像させます。上下(かみしも)の幕のすそ部分がギザギザに破れているのが良かったです。時間の経過(歴史)を感じました。
ここからネタバレします。
子供の頃の蝶衣(テイエイ・東山紀之)がナイフを持った母親に追いかけられるシーンから開幕します。スローモーションで舞台中央奥からじわじわと迫ってくる母子。も~この時から映画のシーンが次々と思い出されてきて、胸が一杯になりました。
「覇王別姫」という京劇の演目で歌われる歌、登場人物の心情を切々とつづっていく歌、子供にある政党を賛美するように歌わせる歌、共産党の党員たちの気持ちを鼓舞する歌・・・。全部“歌”なんですが、同じ“歌”でも歌われ方(使われ方)によってこんなに違うということを思い知らされます。
京劇の舞台上で衣裳をまとった蝶衣たちを、時代によって違った制服(軍服、人民服など)を着た人々が侮辱します。国旗が変わる度に制服が変わる。でも衣裳は変わらない。きらびやかな衣裳とカーキ色の軍服が同じ舞台の上にあることが、つらかった。
蝶衣が袁世凱からもらった剣で自ら死ぬシーンでは、剣の扱いにじっくり時間をかけていたのがかっこ良かったし、説得力がありました。本当に何も思い残すことなく、虞姫として死ぬんだなと、涙しながら東山さんを見つめていました。
東山さんが演じられた女形・蝶衣役は、映画ではレスリー・チャン(Wikipedia)が演じていました。今もよく覚えています。強い心を持っていて、なまめかしい美しさがあって、でも存在ははかなかった。素晴らしい映画でした。この舞台も良かったので個人的に嬉しいです。
出演:東山紀之 木村佳乃 遠藤憲一 沢竜二 西岡德馬 中村友也 沢竜二 戸井田稔 張春祥 任喜涛 馬燕超 星智也 井面猛志 篠原正志 宮田幸輝 下塚恭平 安田栄徳 西田健二 岡田純一 石井則仁 千田真司 のぞみ 山田拓実 柴一平 岩本淳也 北原秀太朗 牧野雄也 川手大輝 ほか子役(ダブルキャスト)
原作:李碧華(リー・ピクワー) 脚本:岸田理生 演出:蜷川幸雄 音楽:宮川彬良 美術:中越司 照明:勝柴次朗 音響:井上正弘 衣裳:前田文子 ヘアメイク:鎌田直樹 振付:広崎うらん 京劇指導:張春祥 歌唱指導:北川潤 演出補:井上尊晶 演出助手:大河内なおこ 舞台監督:小林清隆 主催・企画・製作:日本テレビ Bunkamura
【発売日】2007/12/16 S11,000円 A9,000円 コクーンシート6,000円http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_08_haou.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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