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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2008年04月05日

the company『バーム・イン・ギリヤド』04/04-20新宿シアターモリエール

 ロバート・アラン・アッカーマンさん(ボブさん)らが率いるthe companyの『バーム・イン・ギリヤド』が開幕しました。客席数200弱の劇場で30人の俳優がぶつかり合う、過激な同時多発会話劇です。上演時間は約2時間(1回の休憩を含む)。
 ⇒ワークショップ・レポート ⇒稽古場レポート ⇒イープラス ⇒朝日新聞 ⇒読売新聞
 ⇒the company関連作レビュー:

 終わった時にむくむくと沸いてきたのは・・・「もう一度観たい!」という気持ちでした。初日の役者さんの演技が少々硬いように感じたのもありますが、一番の理由は「至近距離で触れてみたい!」という好奇心です。

 the companyの次回公演は今年の10月、青木豪さん(グリング)の新作書き下ろしです。タイトルは『1945』(演出:ロバート・アラン・アッカーマン)。会場がいきなり世田谷パブリックシアターなんですね!
 ロビーで販売されているパンフレット(1300円)がとても充実しています。「the company活動報告1」というページがあり、新宿の小さな劇場で姿を現したこの集団が、将来も続いていくことを約束してくれています。

 ⇒チケット購入ページ ⇒チケット販売状況
 ⇒【学生限定!当日劇場で2,000円のキャッシュバック!】最後列ベンチシートのみ・要予約
 ⇒CoRich舞台芸術!『バーム・イン・ギリヤド
 レビューをアップしました(2008/04/06)。

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
 マンハッタンのアッパー・ウエスト・サイドに位置するオールナイト営業のダイナー。そこにはいつも、ドラッグディーラーやジャンキー、娼婦やギャングといったニューヨークの底辺で生きる負け犬たちがたむろしている。
 昨日と同じ笑い話、他愛のない無駄話、麻薬取引の駆け引きや叶わない夢物語を語り合う常連客たち。そんな中で出会ったジョーとダーリーン。二人は、互いの人生を変えるきっかけとなりうるのか──。
 30名にも及ぶキャストが織りなす群像劇『バーム・イン・ギリヤド』。
 にぎやか、なのに孤独。
 居場所を探している、でも身動きが出来ない。
 そんな若者たちが懸命に生きようとする姿を真正面から見つめた、アメリカ現代戯曲の傑作がいよいよ本邦初上陸!
 ≪ここまで≫

 初日だったのもありますが、明らかにいつもと違う客層で、きらびやかなムードの新宿シアターモリエール。
 舞台は薄汚れた、ゴミ溜めのようなダイナー。壁はチラシのイラストをもとに汚しを加えて装飾されています。美術は劇場内を広々と使い切っており、緑色に光るダイナーの看板と、舞台中央奥の床からさす赤い(ピンクの?)照明が効果的です。24時間閉じることがない店に、客と、客とはいえない輩がひっきりなしに出たり入ったり。

 前半(休憩まで)は舞台に目と耳が釘づけになって、息を付く間がありませんでした。次々と登場する娼婦、男娼、薬物中毒者(ジャンキー)、そして薬の売人たちが、大きな声で同時にしゃべり続けます。きわどい性描写と連発される怒号、罵声。まずはその刺激と情報量の多さに圧倒されます。そして店内で起こることをリアルに表現する中で、突然客席に向かって話しかけてくる人物もいるので、私の頭は乱痴気パーティー状態(笑)。

 開幕から1時間後にやってきた休憩時間に、とりあえず気分転換をしようと劇場の外に出てみたんですが・・・ここは新宿、でした。春のさわやかな風は心地よかったですが、舞台で鳴っていた車の騒音や擦れた都会の空気が、そこにありました。そのためにこの会場を選ばれたんですね、まんまとハメられた(笑)!ボブさんの初日のブログに書かれている“「体験する」芝居”はこの意味でもありました。

 観客は、凶暴な登場人物(=役者)と一緒にどん底の夜を味わうことになります。「私はここにいる、私を見て、そして愛して欲しい」と渇望しながらも、それを素直に伝えることが出来ず、ただ怒りをぶちまけて傷つき、傷つけ合い、消耗していくばかりの不器用な人々。1965年に書かれたアメリカの戯曲ですが、描かれている人間の心は日本人と変わりません。

 私個人としてはもっと熱く、わがままに観客を圧倒して、苦しめて、そして置いてきぼりにしてもいいんじゃないかと思いました(←マゾかも?)。絶望的なすれ違いから生まれる悲しみよりも、燃えたぎって噴出する怒りと怒りのぶつかり合いにわくわくしました。今の日本は衝突することさえなく命が失われる痛々しい事件が多数起こっており、それはもしかすると、このダイナーよりももっと悲惨な状況なのかもしれません。

 終演後に出演者の方とお話できました。
 「俳優全員で心を通い合わせながら、全くコミュニケーションが成り立たない一方通行な状態を実現しないといけない。“演技の教科書”があるならぜひ載って欲しい戯曲ですね(笑)。」
 カーテンコールで出演者全員が並んだ時、わかっていたはずなのに、やはり驚いてしまいました。この空間に30人て!多いっ!ベテラン俳優も若手俳優も、この作品の作り手として平等な立場で参加していることが、カーテンコールの笑顔ではっきりとわかりました。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 ずっとカウンター席に座ったままのジャンキーの女(呂美)が、まどろんだまま、ゆるやかに右手を天へと伸ばします。助けを求めた末に、何らかの希望を見出したような表情を浮かべたかと思いきや、その手は何もつかまないまま下に降ろされて、彼女はまた先の見えない闇へと沈んでいきました。こんな大切な瞬間が舞台のそこら中で起こっているんだと思うと、やはりもう一度観たいんですよね。それに、ゴキブリ嫌いのドーピー(斉藤直樹)やニューヨークとシカゴの傘の話をするレイク(倉本朋幸)たちにも話しかけられたいし(笑)。前の方の席に座れたらの話なんですが。

 薬の売人になろうとしているジョー(パク・ソヒ)と娼婦ダーリーン(宮光真理子)にスポットライトが当たったり、ジョーがチャックルズの部下(羽田昌義)に殺されるシーンが3度繰り返されたり、演劇ならではの大胆な演出(脚本なのかもしれません)にドッキリさせられます。選曲もBruce Springsteen の"Born In The U.S.A."とか、かなり好戦的(笑)。
 トリックようなさり気ない仕掛けも散りばめられています。例えば「さっき皿洗いのバイトが辞めたんだ」「皿洗いなんかいたか?」というやり取りはとっても不思議。これはダイナーにいる店員と客の会話なんですが、本当に皿洗い役は見当たらなかったんです。店員が冗談を言ったのか、登場せずとも皿洗いは居たという設定になっているのか、それとも脚本家自身が自分にツっこんだのかしら??

 長いセリフがあるとは聞いていたんですが、後半すぐに始まるダーリーンのセリフは本当にめちゃくちゃ長くて驚きました。“演技の教科書”とは言ったもので、何かにつけてハードルが高い作品だと思います。演技はまだまだこれから伸びる余地がありました。がんばってもらいたいですね。

the company オフ・ブロードウェイ・シリーズ
出演:青山みその/今村洋一/江前陽平/遠藤典史/岡野真那美/カトウシンスケ/香里菜知子/倉本朋幸/斉藤直樹/眞藤ヒロシ/鈴木剛生/鈴木信二/瀬川亮/玉置孝匡/チョウソンハ/中川安奈/中嶋しゅう/野口卓磨/パク・ソヒ/羽田昌義/浜田学/深貝大輔/前田剛/町田マリー/松田愛子/水野顕子/宮光真理子/矢内文章/有希九美/呂美
作:ランフォード・ウィルソン 翻訳:薛珠麗 演出:ロバート・アラン・アッカーマン 美術:加藤ちか 照明:沢田祐二 音響:高橋厳 衣裳:伊賀大介 ヘア&メイク:鎌田直樹 舞台監督:小川亘 歌唱始動:門司肇 アクション指導:村上潤 宣伝美術・パンフレットデザイン:Coa Graphics イラスト:SHOHEI パンフレット編集・執筆:武次光世(Gene & Fred) パンフレット印刷:深雪印刷 稽古場撮影:宮川舞子 舞台写真撮影:島田麻未 制作:斎藤努 稽古場進行:三浦瞳 加藤真 下條かほり 票券:西川悦代 中柄毅志 広報:吉田プロモーション プロモーションプランナー:牛山晃一 二宮大(Gene & Fred) プロデュース:伊藤達哉 主催:ゴーチ・ブラザーズ 企画・製作:the company
2008年2月23日[土]10:00一般発売開始 前売:6,000円/当日:6,500円/学割:4,000円(全指・税込)※未就学児童の入場はお断りいたします。
http://www.thecompany-t.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年04月05日 22:23 | TrackBack (0)