REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2008年05月04日

Bunkamura『わが魂は輝く水なり-源平北越流誌-』05/04-27シアターコクーン

 蜷川幸雄さんが清水邦夫さんの戯曲(1980年発表)を演出。主演はなんと野村萬斎さんと尾上菊之助さんです!豪華すぎるっ!!

 もしかすると・・・今までに観た蜷川さん演出作品の中で一番感動したかもしれません。舞台装置と照明のコンビネーションも素晴らしかったです。上演時間は約2時間45分(途中15分の休憩を含む)。

 ⇒稽古場レポート
 ⇒CoRich舞台芸術!『わが魂は輝く水なり
 レビューをアップしました(2008/04/07)。

 あらすじはこちらでどうぞ。「清水邦夫著作リスト」は清水さんの作品について知りたい時によく拝見しています。

 平安時代の源平の合戦の時のお話なのですが、現代劇のように鑑賞しました。「現代にも通じる」という感覚ではなく、今生きている人間(舞台上の俳優たち)のドラマに見えたのです。作り手の方々の意図はわかりませんが、これって凄いことなんじゃないかと思いました。

 野村萬斎さんは実盛役なんだけど、舞台上で萬斎さんご自身でもあるように見えました。他の役者さんについても同様です。あまりの美しさに吸い込まれそうになる尾上菊之助さんも、くるくると演技が激しく変わる秋山菜津子さんも、鎧や着物を着て平安時代の人々を演じられているのに、ご自身がそこに同時に存在しているように感じました。
 
 言葉の美しさはもとよりストーリーも面白い戯曲です。そして笑いもふんだんに盛り込まれています。それもかなりわかり易い、ほとんどコントじゃないかと思うぐらい親しみやすいタイプの笑いなのです。こんな言い方は失礼になるかもしれないんですが、役者さんが時代もののコスプレをしているような錯覚に陥った瞬間もありました(笑)。

 パンフレットに載っている蜷川さんのインタビュー(「『わが魂は輝く水なり』について想うこと」取材・文:伊達なつめ)で、蜷川さんが1960年代後半から今までのご自身の演劇人生について語られています。この作品が1970年当時の政治的状況を描いたものであることを前提として、その時代を知らない若い世代の俳優と創作するにあたっての蜷川さんのお考えを読んで、すっかり納得。そして自分自身に新しい挑戦を課す演出家に感動しました。

 蜷川さんと清水さんが築いてきた歴史がこの作品によって今とはっきりとつながって、私は蜷川さんや清水さんと、そして舞台上の役者さんたちと一緒の時代に生きてるのだということを、自分のこととして実感しました。そしてこの約40年の時間の流れがぎゅっと凝縮されて、私の中に届いた気がしました。こんな幸せがあるから演劇は素晴らしいのだと思います。

 ここからネタバレします。

 まずオープニングで魅せられました。木々が描かれた幕に薄ぼんやりと暗い照明が当たり、一瞬で深い森へと連れて行かれました。かと思ったら、その幕に障子のような格子の影が映ります。幕ではなく照明の当て方で見え方が変わる、引き戸のような巨大なパネルだったんですね。一気に和(日本)の印象が広がりました。

 そのパネルの向こうに低木がまばらに生えているのが見えます。人間はあまり足を踏み入れないのであろう山奥の冷ややかな空気が感じられました。スモークと照明で豊潤な湿気を表現し、静かに登場した五郎(尾上菊之助)の人間らしからぬ(亡霊らしい)浮遊したような歩みが、得体の知れない不気味さと神々しさをかもし出します。五郎の着物のすそにそよ風が当たるのも良かった。

 美術と照明は本当に美しかったですね。実盛のふるさとのしだれ桜も凄かった!!雲が描かれた舞台奥の幕が夕焼けになったり朝焼けになったり、時間の経過も表現していて見事でした。

 後半でちょいとおバカさんな殿(長谷川博己)の行動に客席で爆笑が起こった後から、しばらく涙がぽろぽろ流れて止まらない時間がありました。おそらく物語に感動したのではなかったので良い鑑賞状態だったのかどうかはわからないですが、私は1970年代から今に至るおよそ40年の時間の流れを受け取ったのだと思います。そしてこの作品というご縁を通じて、目の前の役者さん、スタッフさんと、今一緒に生きていることを身体で感じられたのだと思います。

出演:野村萬斎、尾上菊之助、秋山菜津子、神保共子、津嘉山正種、大石継太、長谷川博己、坂東亀三郎、廣田高志、邑野みあ、二反田雅澄、大富士、川岡大次郎、清家栄一、岡田正、高橋広司、関戸将志、高橋行、中村大輔、安齋芳明、加藤亮佑、窪田壮史
脚本:清水邦夫 演出:蜷川幸雄 美術:中越司 照明:大島祐夫 衣裳:小峰リリー 音響:友部秋一 ヘアメイク:鎌田直樹 ファイトコレトグラファー:國井正廣、演出補:井上尊晶 演出助手:石丸さち子 舞台監督:白石英輔 宣伝美術:トリプル・オー 宣伝写真:永石勝 宣伝ヘア:河村陽子 宣伝メイク:西岡達也 宣伝衣裳:小峰リリー 宣伝小道具:布田栄 制作協力:松竹株式会社 主催・企画・製作:Bunkamura
【発売日】2008/03/02 S席10,000円 A席8,000円 コクーンシート5,000円(税込)
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_08_wagatamashii.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
 便利な無料メルマガも発行しております。

メルマガ登録・解除 ID: 0000134861
今、面白い演劇はコレ!年200本観劇人のお薦め舞台
   
バックナンバー powered by まぐまぐトップページへ
Posted by shinobu at 2008年05月04日 22:44 | TrackBack (0)