青年団の平田オリザさんが文学座に新作を書き下ろされました。演出は戌井市郎さん。第15回読売演劇大賞芸術栄誉賞、第29回松尾芸能賞特別賞を受賞されたばかりです。90歳を超えられているなんて、本当に驚かされます。
創立71年目を迎える文学座ならではの、ベテランから若手までが豪華に揃ったキャスティング。のんびりゆったり、そしてしんみりと楽しませていただきました。上演時間は約1時間55分。
⇒CoRich舞台芸術!『風のつめたき櫻かな』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
201X年早春、東京を直下型地震が襲った。
なんとか全壊は免れた喫茶店「ライン」には、避難所暮らしの人、家族を亡くした人、ボランティアの学生に得体の知れない人物まで、様々な人たちが出入りする。この店に来て何が解決するわけではないが、皆ほんの少しだけ元気を取り戻しては帰っていく。
目下「ライン」で最大の話題は、毎年恒例の商店街の花見を行うかどうか。他愛なく盛り上がる商店街の人たちだが、それぞれに心に傷を負い、不安を抱えている。
久保田万太郎の世界が、人々の心安らぐ大切な「居場所」として、平田オリザの手によって甦ります。
≪ここまで≫
歴史のある劇団の役者さんたちが、震災に遭った商店街の人々を演じているということに感慨深い心持がします。実際に会って話し合って、長い時間を共有しているからこそ生まれる人間関係。演劇創作の現場はそれが大前提だと思います。
転換時の音楽はスタンダード・ジャズでしっとり。額縁舞台でいわゆる“お芝居”が行われている。観客はそれを見守っている。ちょっと懐かしい気持ちにもなりました。こういう観劇も人間の幸せなのかも。年配の役者さんを見つめるだけでもなぜかホっとします。
どんなセリフも説明のように聞こえて、それはそれで意味を理解するには親切でわかりやすいですが、空間としての密度はあまり高くなくて、あっさりしすぎている気もしました。好みの問題だと思いますが。
ここからネタバレします。
阪神淡路大震災で亡くなった男性の霊(坂口芳貞)が現れます。仮設住宅で自殺した妻のことを語り、これから仮設住宅での生活が始まる商店街の人々を元気付けます。「神戸では~~だった」という言葉の重みがあります。
“剰余所得”と“四畳半”の言い間違いは、意味が完全に反対なこともあり、頭にしっかり残りました。喫茶店「ライン」で紙コップの水を飲んでいるおじさんたちは、幸せそうだった。
たしか「(古いものが壊れてなくなった後で)新しく何かを生み出せるのは人間だけだ」という意味のセリフがあったと思います。人間だからできることとは何なのか。大切に考えていきたいものです。
≪東京、岐阜≫
出演:清水幹生、田村勝彦、外山誠二、高瀬哲朗、大滝寛、岸槌隆至、細貝弘二、本山可久子、八木昌子、新橋耐子、富沢亜古、山谷典子、佐藤麻衣子、川辺久造、加藤武、坂口芳貞、坂部文昭
脚本:平田オリザ 演出:戌井市郎 装置・石井強司 照明・山内晴雄 音響効果・秦和夫 衣裳・中村洋一 振付・若柳禄寿 舞台監督・北則昭 演出補・黒木仁 制作・日下忠男、友谷達之 票券・松田みず穂 イラスト・横尾智子 宣伝美術・太田克己
【発売日】2008/04/21 一般5500円 ユースチケット(25歳以下)3800円 中・高校生2500円
http://www.bungakuza.com/kazesakura08/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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